金曜日の夕方、ウフオバーはお出かけ、ゑんちゅ小僧はまだ来ていない。で、ユクレー屋には俺とマナの二人だけ、先週のパーティーの浮かれ気分が抜けてないらしく、マナはまともに俺の相手をせず、時々、『ぽっかぽかだね』を口ずさんでいる。
「よー、そんなに浮かれていないで、ちったぁシャキっとしたらどうだ?」
「なによ、浮かれてなんかいないよ。」と言いつつ、「でへっ」と顔が緩んでいる。
「さっきからビールお代わりって言ってるのが聞こえてないだろ?」
「えっ、ホント?言ってた?」と、マナがやっと、こっちをまともに見る。
「おうおう、やっとまともな目玉になったぜ。あっ、そうだ。ビールは止めて日本酒にしようかな。今年は寒い日が少なくて、日本酒を飲む機会も少なかったからな。」
「そういえば、今年も暖冬だったね。」
「そうだな、暖冬はでも、いいんじゃないのか人間には。寒い思いをしないで済むじゃないか。これで冷夏となったら、こんな過ごしやすいことは無いと思うぜ。」
「そうだね、そうかもしれないけど、でも、人間にとっては過ごしやすいかもしれないけど、自然界の他の生命に悪影響があるかもしれないね。」
「んだな。それにだな、おかしな気候が続くと、そのうち大きな天変地異が起きるかもしれないぜ。大噴火、大地震、大津波なんてのがさ。」
「大津波なんてのがあったら、この島は一飲みされるね。」
「おー、そういえば、前に話したことがあったろ?コラスマンという宇宙人の話。」
「コラスマン?・・・いや、聞いたことないよ。」
「そうか?・・・あっそうか、お前じゃなく、ユーナに聞かせた話だった。」
「どんな話なの?」
「大昔、正義の味方となって活躍してやろうと、ある星からコラスマンという名の宇宙人が地球に降り立った。しかし、彼はとても大きく、なおかつ、とても太っていたので、彼が降りたとたん、その衝撃で地球に大津波が起き、生命のほとんどが死に絶えたという話だ。・・・あー、そういえば、そのコラスマンの仲間にな、ジラースーとお前みたいに遠距離恋愛の恋人同士がいたな。1年間も会えなくて、結局駄目になったが。」
ということで、ケダマン見聞録その20『コラスマンレイカ&ダント』の始まり。
恋人同士の女の方はコラスマンレイカ、男の方はコラスマンダントと言う。
コラスマン一族は男女を問わず、一年間他の星に出張し、そこで正義の味方となって、その星を悪の手から守ることができれば一人前と認められる。つまり、それが成人の儀式であり、それができてから男女共に結婚を許されることになっている。で、ダントもレイカも共に、結婚するために他の星に出張することとなった。
ダントには一つ問題があった。コラスマンほどでは無いが、少々肥満だったのだ。コラスマンの失敗を繰り返さないために、ダントにはダイエットの必要があった。
正義の味方になる前にダイエットをしなくちゃあいけない。ということで、コラスマンは、修行へ行きたいということを報告するついでに、コラスマン王に相談した。
コラスマン王はケーキダイエットとビールダイエットを勧めた。
「ケーキとビールなんて、肥満の元じゃないですか。」と意義を唱えると、
「そうじゃない。ケーキ以外食わない、ビール以外飲まないと決めるんだ。そしたらそのうち飽きてくる。飽きると摂取する量が減る。減ったら痩せるというわけだ。」
「おー、なるほど、さすがコラスマン王。今日から早速実践します。」
その日の内に、ダントはレイカに会い、
「ダイエットして、すぐに後を追うから、君は先に行っててくれ。」と言った。ダントのその言葉を信じて、レイカは一足先に目的の星へ向かった。
その星で、レイカは目立たなかったが、大いに活躍した。目立たなかったのは、悪が大きな影響を及ぼす前に、レイカがそれらをことごとく潰したからだ。その星の人々は、レイカのお陰で平和が続いていることも、また、レイカの存在さえも知らずにいた。レイカは容姿端麗というだけでなく、頭脳明晰で、武にも長けていたのである。
レイカが優れた業績を挙げている頃、ダントはどうしていたかというと、コラスマン王に勧められたダイエット法を実践し続けていた。しかし、半年後には、そのダイエットのせいで糖尿病になってしまい、半年後には療養の身となっていた。といことで、レイカとダントはずっと、連絡も取れない遠距離恋愛となっていた。
「ケーキやビールにもその内飽きてしまう」というコラスマン王の言葉には間違いがあった。「ケーキやビールにもその内飽きる人がいる」と言うべきであった。ダントは全く飽きることがなかったのだ。それどころか、日増しに食べる量、飲む量が増えていって、体重は増え続け、で、ついに糖尿病になってしまったのである。
一年の修行が終わって、地球からレイカが帰ってきた。もちろん、優秀なレイカが、無様なダントに愛想を尽かしたのは言うまでも無い。
語り:ケダマン 2008.4.11