先日のチャントセントビーチでのキャンプでガジ丸が持ってきたウルトラの米が、その後もしばらく話題となった。ガジ丸によると、あと5、6粒は残っているらしい。
ウルトラの米を炊いて、三角に切って、握らないお握りにして、それをユクレー屋のメニューにすれば、話題になって楽しかろうとマナが考え、ある日、
「ねぇ、ウルトラの米を炊ける大きなジャーができないか博士に訊いてきて。」と、いつものようにカウンターで飲んでいた私とケダマンに頼んだ。ウルトラの米が炊ける大きなジャーがあれば、世界中の飢餓に苦しむ人々にも朗報となる。私も興味がある。ということで、翌日の昼後、ケダマンと二人で博士の研究所を訪ねた。
「大きなジャー、それなら既にあるよ。」と博士は我々の問いに答えた。
「えっ、それって、ウルトラの米用に作ったんですか?」(私)
「いや、ウルトラの米って、私もこのあいだ初めて見たばかりだ。それ用ってわけじゃない。何年か前に、店に来る客がいつでもお茶が飲めるよう、一日に使う十分の量が沸かせる大きな魔法瓶を作って、とウフオバーに頼まれて作った。」
「あー、ジャーって炊飯器のことじゃなくて、魔法瓶のことですか。そういえば、魔法瓶のこともジャーって言いますね。」
「そうジャー。」
「ちゃん、ちゃん、って、話のオチがついて、おしまい。」(ケダマン)
「いやいや、駄洒落は私のクセだ。そのジャーで米は炊けないか?」
「大きなって、どのくらい大きいんですか?」(私)
「42リットル半の容量がある。」
「ほう、それだけあれば、もしかしたらウルトラ米1粒を炊けるかもしれないですね。それにしても、何ですか、42リットル半って中途半端な数字は?」
「そのジャー、名前を42半ジャーと書き、シニハンジャーと言う。ウチナーンチュなら解ると思うが、死に損なうという意味だ。死に損なうほど難儀をした時にシニハンジャーしたなどと使う。名前が先に思いついて、容量を決めたわけだ。」
「そのジャーを使うと死ぬほどの難儀をするのですか?」
「うん、42半ジャーはボタンを押せばお湯が出るようになっているが、そのボタンを押すのに大きな力が要る。なにせ、中には42リットル半も入っているからな。」
「ほう、それでは、ウフオバーには辛いでしょう?」
「あー、『何でまた、こんな大きいの。風呂に入るんじゃないからねぇ、力要るし、これだったら鍋で湯を沸かした方がはるかにましさあ』って言われたよ。」
「それ、面白そうだな、使ってみようぜ。」とケダマンが言うので、倉庫から42半ジャーを出して、水を42リットル半入れて、沸かした。ケダマンがボタンを押した。
「うー、博士の言うとおりだ。こりゃあ力が要るぜ。」と言い、ケダマンは全体重をかけてさらに強く、思いっ切り押した。湯が出た。湯はたっぷり出た。ケダマンが力を緩めた後もしばらく流れ出た。すぐには止まらないみたいである。
「博士、それ、一押しで何リットルくらい出るんですか?」(私)
「力の入れ具合で変わるが、出たと思って、さっと手を離しても最低2、3リットル、ヘタすると5、6リットルは出てしまうな。」
「ということは、5、6リットルは入る急須が必要ですね。」
「おー、それは抜かりが無い。別に万事急須という名の急須を作ってある。見た目は1リットルの容量も無いように見えるが、この急須、いくらでもお湯が入る。上部に異次元と繋がる穴があって、余分な湯はそこから異次元へ吐き出されるようになっている。」
「万事休すの事態に、万事飲み込む急須ってわけだ。」(ケダマン)
「カッ、カッ、カッ、そうじゃ、そういうことだ。」と上機嫌に笑う博士に、根が真面目な私は、ついつい余計なことを言ってしまった。
「博士、それって水の無駄使い、電気の無駄使いと思いますが。」
博士の顔が、笑顔から無表情に変わって、そして、ぼそっと言った。
「ふむ、・・・そういえばそうかもな。・・・酒でも飲むか?」
魔法瓶としては役に立たない42半ジャーであるが、ウルトラの米を炊く炊飯ジャーとしての道がまだ残されている。もちろん、湯を沸かすだけの魔法瓶と、米を炊く炊飯ジャーとではその目的を達する仕組みに多少の違いはあるので、そのままでは使えない。
「よし、炊飯ジャーとして使えるよう改良してみよう。」と、酒を飲んでちょっと元気を取り戻した博士が約束してくれた。しばらくすると、「世界を飢餓から救うのジャー」という名前まで考えて、上機嫌になっていた。切り替えの速い人である。
ウルトラの米については続きがある。これは次回の瓦版で報告する。
記:ゑんちゅ小僧 2007.5.18