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科学と文芸を融合した仮説作品「風雅のブリキ缶」姉妹篇。街で撮った写真と俳句の取り合わせ。やさしい作品サンプルも追加。

構造計算書の偽造事件と建築構造士という職業

2005年11月19日 10時02分57秒 | Journal
 首都圏に立つマンション20棟とホテル1棟(写真=京王プレッソイン茅場町、他の写真も同じですが、写真をクリックすれば大きくなります、念のため)で、その建築確認時に偽造した構造計算書を使った事件で、偽造した本人、千葉県市川市の姉歯秀次(あねは・ひでつぐ)1級建築士が、悪びれる風もなくテレビなどのインタビューに登場して話している姿が印象的だった。それと昨夜、10時のNHKニュースを見ていたら、日ごろ取材などで存じ上げている協会役員や大学教授が次から次に出てきて、カメラに向かって、「いつもの調子で」コメントを言っていたので、そのことにも驚かされたり、少し可笑しいやら。事件について雑駁に感想をまとめると、以下のようになる。

 この事件で、やっと構造建築士という職業とその職種が抱える社会的な問題点に世間的なスポットが当たったということでは、姉歯氏は「功労者」でさえある。普通、建築家とか設計者というと、誰もが、意匠系、デザイン系の恰好の良い職業を連想するだろう。そして、慥かに、彼らが、金銭面も含めニッポンの建築設計業界を支配している。ただ、その陰に、縁の下の力持ち、あるいは単なる下請け的な存在として、「建築構造士」が、建物の躯体構造について、強度や耐震性の角度から仕事をしていることは、これまでほとんど知られてこなかった。
 1万人ぐらはいるとされる構造系の設計者も、もちろん、1級建築士(約27万人)である。しかも、JSCA(日本建築構造技術者協会)が認定する「建築構造士」資格は、難しい資格要件や試験を課し、かなりハードルが高い。現在、資格者は約2500名いる。調べてみると、姉歯氏は、このJSCAの資格は持っていないし、JSCAの会員でもない。だからという気はないが、ややアウトサイダー的な構造計算屋として、世の中を渡ってきたのではないか。少なくとも、あの身なりからしてお洒落で派手な、金満的印象は、小生が知る大概に地味で貧乏くさい構造系の建築士のものではない。なお、JSCAは、この手の団体にしては、なかなか民主的で明るい組織だが、今まで世に知られることは構造士という職業と同様少なかった。この事件は、JSCAの知名度を上げるだろう。
 ただ強いて言えば、個人で会員となるJSCAは、姉歯氏と同じように個人事務所としてマンションの一室などで構造設計を下請け的に営んでいる会員と、大手設計事務所やゼネコンの構造部隊の一員として働いている会員、また地方と東京との二極化があり、立場の違いによって意見がまとまらないところもある。春の年次総会は毎年、チャンチャンどころか荒れる。そうした矛盾も抱えながら、それを隠すことなく、なんとか改善しようと運営されているところが、まずます民主的と言っているのである。
 姉歯氏は、「コスト削減のプレッシャーを受けていた」「仕事を増やしたくて始めた」と述べている。その仕事を出してくる設計事務所にサービスするつもりで、震度5強程度の地震で倒壊するレベルの設計にしたのだ。1級建築士どうしで元下関係はないはずだが、下請け根性が出てしまった。さらに、今日の報道によれば、施主(東京都・ヒューザー/福岡市・シノケン/千葉県・サン中央ホーム/東京都・東日本住宅/京王電鉄)あるいは施工会社(熊本県・木村建設)が「あそこは安く早く上げるから」と、姉歯氏の事務所(姉歯建築設計事務所)を指名し、元請の設計事務所が仕事を出してくるケースがかなりあったようだ。特に、ほとんどの物件にかかわったゼネコンの木村建設は、何らか積極的な関与を疑われてもおかしくない。同社は不渡り手形を出して、事業停止。
 この構造計算書の審査をした指定確認検査機関イーホームズについて、姉歯氏は「ノーチェック状態だった」と証言。国土交通省は強い態度でのぞむと言っているが、もともと先の建築基準法の改正で、国交省が無理やり地方行政の仕事を民間開放し、その結果、できたのがこうした民間の確認検査機関である。(当時の建築主事は役所にしかいなかったので、会社設立に建築主事の存在を必要とした民間確認検査機関は役人の天下り先となった。)これまでも取材した県や市、区の建築指導課で、四方山に話を聞けば、憤りが収まらない調子で、民間のいい加減な検査実態を切実にうったえられたものだ。もっとも、地方自治体の検査官も超多忙なようで、体調を壊して1週間職場復帰しない、検査が延期になったと業者がぼやくのを最近聞いた。
 なお、朝日新聞を含め一般紙が「検査会社」と書いているのは、紛らわしい。普通、検査会社とは、実際に建設現場などに超音波探傷器など機材を持ち込んだ検査員を送り込んで検査する会社のことを指す。普段、余り報道しない分野なので、混同しているのだろう。
 構造計算ソフト(国土交通省認定取得)についても話題になっている。昔は手計算だったが、やはり大変なのでパソコンソフトにデータを打ち込んで、スピーディーに計算をすませる。外力1.0のところを半分の0.5で設定し、柱や鉄筋数、壁の厚さを低減、基準をクリアするという単純な手口が見つからないできた。このソフトに使われてしまう設計実務の問題は、以前から指摘があったことだ。
 今回、問題になったマンションやホテルはRC造(鉄筋コンクリート造)。以前は10階前後のマンション物件は、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)が多かったが、施主やゼネコンがコストダウンや施工性を理由に、高い鉄骨の使用を避け、近年、RC造の比率を急速に増やしてきた。慥かにコンクリートは高強度化し、質がアップしているが、それだけに技術力と十分な施工管理が求められる。多くのゼネコンがそうした要件を満たさないまま、設計施工でRC造マンションを乱造ているのが実態。リストラなどでゼネコンの現場工事事務所が管理能力を失っている話はよく耳にする。ある設計者は「RCマンションには住みたくないな」と話していた。
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