松山全日空ホテルの窓から裁判所の向こう側、松山城の山の緑にはめ込まれたような萬翠荘(ばんすいそう)が見えた。旧松山藩主の久松伯爵が1922年に別邸として建てたのだとか。贅沢なものだ。
窓辺の花々は、高松城址で買った。右手のピンクの花を咲かせるのは木瓜(ぼけ)である。そして、漱石の句を思い出した。
木瓜咲くや漱石拙(せつ)を守るべく
『草枕』に、こんな拙なる木瓜へ寄せた一文がある。――ごろりと寝る。帽子が額をすべって、やけに阿弥陀となる。所々の草を一二尺抽いて、木瓜の小株が茂っている。余が顔はちょうどその一つの前に落ちた。木瓜は面白い花である。枝は頑固で、かつて曲った事がない。そんなら真直かと云うと、けっして真直でもない。ただ真直な短かい枝に、真直な短かい枝が、ある角度で衝突して、斜に構えつつ全体が出来上っている。そこへ、紅だか白だか要領を得ぬ花が安閑と咲く。柔かい葉さえちらちら着ける。評して見ると木瓜は花のうちで、愚かにして悟ったものであろう。世間には拙を守ると云う人がある。この人が来世に生れ変るときっと木瓜になる。余も木瓜になりたい。
写真では陰になって見えないが、萬翠荘の裏側には、漱石が松山時代に下宿した愚陀佛庵(移築)もある。小生も漱石の拙を見学に、木瓜を残してホテルをあとにした。
窓辺の花々は、高松城址で買った。右手のピンクの花を咲かせるのは木瓜(ぼけ)である。そして、漱石の句を思い出した。
木瓜咲くや漱石拙(せつ)を守るべく
『草枕』に、こんな拙なる木瓜へ寄せた一文がある。――ごろりと寝る。帽子が額をすべって、やけに阿弥陀となる。所々の草を一二尺抽いて、木瓜の小株が茂っている。余が顔はちょうどその一つの前に落ちた。木瓜は面白い花である。枝は頑固で、かつて曲った事がない。そんなら真直かと云うと、けっして真直でもない。ただ真直な短かい枝に、真直な短かい枝が、ある角度で衝突して、斜に構えつつ全体が出来上っている。そこへ、紅だか白だか要領を得ぬ花が安閑と咲く。柔かい葉さえちらちら着ける。評して見ると木瓜は花のうちで、愚かにして悟ったものであろう。世間には拙を守ると云う人がある。この人が来世に生れ変るときっと木瓜になる。余も木瓜になりたい。
写真では陰になって見えないが、萬翠荘の裏側には、漱石が松山時代に下宿した愚陀佛庵(移築)もある。小生も漱石の拙を見学に、木瓜を残してホテルをあとにした。