３つになった皆既月食

　数分前に皆既月食を撮った。カメラを構えてふらふらと揺れながら撮ったので幾つもの皆既月食になった。こういうのはプロの写真家でも撮れまい。＜満月が通常よりも大きく見える「スーパームーン」と、月に２度目の満月となる「ブルームーン」、そして皆既月食により月が赤っぽく見える「ブラッドムーン」がすべて同時に起こるSuper Blue Blood Moon and Lunar Eclipse＞だそうだが、そんな何十年に一度らしい珍しい月の姿だから、小生の手元もつい揺れたのである。強いて言えば、小生の写真は、このSuperとBlueとBloodを３つに分離して撮ろうとしたようにも後付けで解釈できるところが、ユニークだ。

雪の朝に西部邁氏の死を思う

　昨日未明に思想家の西部邁（にしべ・すすむ、1939‐2018）氏が自死した。多摩川に飛び込んで溺死したのだとか。インターネット上では、すぐに妻に先立たれて生きがいを失った末の自殺ではないかと憶測まじりの記事がいくつも流れた。その前の日だったか、タモリが街を気ままに歩くNHKの番組で、高級住宅地・田園調布の様子を伝えていたが、そこから１５分で多摩川に行けるのも田園調布の魅力の一つであると紹介していた。見たところ、そう大した住宅街でもないなと思った記憶が覚めやらぬ間に、BSプライムニュースなどでよく見かけていた保守の論客が、その川に飛び込んでしまった。調べると、西部氏はケインズとヴェブレンを取り上げた『経済倫理学序説』（１９８３）で吉野作造賞を受賞している。このケインズとヴェブレンという経済学者は、小生にとっても非常にものを考えるうえで大事な先達（せんだつ）であることから、もしかしたら、小生は、西部氏に近い感想を抱いて経済学という擬似科学的な学問に接し、また現にこの日本社会に生きているのかしらと思った。今日は、雪が降りだす朝となった。午後からは吹雪になり、ベランダの外は冬枯れの日常から白一色の銀世界に様変わりした。毎日、サラリーマン時代に通勤で東横線や田園都市線、小田急線の満員電車の車内から何十年と退屈に眺めてきた多摩川に、自分と同じような帽子をかぶって自分と同じような感性を持っていたらしい思想家が冷たい川の水に沈んでいった姿が、心から拭えない。そして、西部氏が一日死ぬのを遅らせて、せめて今日のもっともっと冷たい雪の川に飛び込んだらよかったのに、と思ってみる。

映画『コラテラル』を観る

　NHKのBSで昨日放映された２００４年のアメリカ映画『コラテラル（Collateral）』（監督：Michael Mann、1943‐）は、トム・クルーズ（Tom Cruise、1962‐）が冷徹な悪役を演じると番組案内にあったことで、ちょっと食傷気味になって観るかどうか迷ったが、結果、１０分遅れぐらいで見始めた。殺し屋トム・クルーズは、ただ単に彼らしいクールな切れのある演技をしていたに過ぎない。そのロボットのように無機質な殺人マシンと化したトム・クルーズ演じる殺し屋をバックシートに客として乗せ、ロサンゼルスの夜の街を嫌々（いやいや）走り回る羽目になったタクシー運転手役のジェイミー・フォックス（Jamie Foxx、1967‐）の俳優らしからぬ普通にありそうなおどおどした演技あるいは役どころには、都会でタクシードライバーをしている人間の屈折感、生温かい翳（かげ）が出ていて、なぜか強く惹（ひ）かれるものがあった。そのためか、映画自体もこの手のアクション映画にしては演出が文芸的で、彫（ほ）りの深い映像になっていた。フォックスはジュリアード音楽院でピアノを勉強していたこともあるそうだ。なお、collateralという英語は、単独では担保といった意味だが、ここでは「collateral damage （巻き添え被害）」の意に使っているのだと思う。殺し屋の真夜中の殺人稼業に運の悪い運転手が巻き添えを食ったということであろう。