Discover the 「風雅のブリキ缶」 written by tonkyu

科学と文芸を融合した仮説作品「風雅のブリキ缶」姉妹篇。街で撮った写真と俳句の取り合わせ。やさしい作品サンプルも追加。

是枝裕和監督の『万引き家族』を観る

2018年06月14日 15時02分57秒 | Journal
 昨日、『万引き家族』(是枝裕和監督、1962-)を観てきた。良かった。今朝、起き抜けにも「ああ、良い映画だったな」と思い返したぐらいだから、やはり心に来る映画に違いない。普段、目にしている日本の都会の風景が、別の次元でえぐられて、ぽっかりと開いた穴から真相を見せられたような不思議な感じがする。その穴から見た家族の風景は、自分がしゃくし定規に送っているテキスト通りの常識に縛られたものよりは遥かに愛情に充ちている。世間に対してのもっともらしさではない真実を手探りする偽装家族ゆえに引き出された家族愛なのだろうか。
 「万引き家族」というタイトルは、これだけの映画のタイトルとしては良くないとする意見もあるようだが、見方によっては、このタイトルは適切ではないかと思う。正規の値段の価格を払って店で買い物をするのは、それが正しい行為だからそうしているのではない。そうしないと逮捕されるかもしれないという恐怖があるから、そうしているまでだ。この世の中から酷(ひど)く罰せられるかもしれないという潜在的な恐怖心が、われわれの日常を最大最小に支持している根拠なのだ。法治国家とは、つまり、そうしたものだ。万引きは、このわれわれの日常を成り立たせている社会心理構造からはみ出した行為であり、正規軍に対するゲリラのようなものだ。映画で、万引きはいけないことかと問うた少年に向って、母親役の女優(安藤サクラさん)が「店がつぶれないならば、別にいいんじゃないの」と答えたのは、妙にしっくりいく受け答えだった。店の浮き沈みなど一切心配せずに無頓着に買い物をしているのは、むしろ、万引きを絶対にしない立派な合法的消費者の方である。この映画の家族について思いを巡らすと、店での盗み、万引きを実際にやるやらないよりも、国や社会が作り出した制度や、その制度を順守することでみなされる正常さという保証の枠組みからはみ出してしまう人々の異常な生きざまそのものが、「万引き」なのだと小生は思ってしまう。だから、彼らは文字通り「万引き家族」なのである。少なくとも、「美しい国」を標榜しながらモリ・カケな安倍首相や「家族愛」をテーマの子供を評価しようとする道徳教育に力を入れる文科省から褒(ほ)められる筋合いはない映画なのである。タイトルも彼らが政治利用で褒めにくいものが最適なのである。



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ダスティン・ホフマン監督の映画『カルテット』を観る

2018年06月01日 15時35分19秒 | Journal
 BSテレビでアメリカの俳優ダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman、1937‐)の初監督作品『カルテット(Quartet)』(2012)を観た。「リゴレット」「椿姫」「アイーダ」などのオペラで知られるイタリアの作曲家ジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Fortunino Francesco Verdi、1813‐1901)が晩年、建設に執念を燃やした「音楽家のための憩いの家(Casa di Riposo per Musicisti)」をモデルにしたイギリス映画。まあ、引退した音楽家たちが老後を過ごすことになった施設が舞台である。アメリカの俳優がアメリカでなくイギリスで映画を初めて撮るというのが興味深くて、なぜかなと思いつつ観ていた。アメリカ人にヨーロッパ・コンプレックスというのがあるのは以前から承知しているが、これは、それが美しい形で音楽と映像に表現され、作品化された映画だと感じた。自分たちの終の棲家(ついのすみか)となった施設を存続させるために、かつての名音楽家たちが紆余曲折を経てチャリティー・コンサートを成功裏に開くまでの話だが、それだけならばよくある展開のストーリーなのだが、とにかく映画として重厚かつウイットがあって明るいのだ。重厚かつ全体に暗い映画はよくあるが、全体に明るい映画は少ない。それだけでも成功した作品だと思うし、役者たちも老練の個性を生き生きとうまく引き出されていた。若い頃、一度行ったきりで、あとはチェコのプラハに短期間旅しただけの小生はヨーロッパにそう縁はないが、村岡君という大学時代の友人が居て、オーストリアのウィーンやオーストラリアのメルボルンで長く暮らした彼ならば、こういう映画が好きだろうなと、ふと思った。

Dustin Hoffman




Casa di Riposo per Musicisti
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