昨日、『モンスター(Monster)』(Patty Jenkins監督、2003)というアメリカ映画を観た。娼婦が客を次々に殺害し、その金で同性の年下の彼女と暮らすという殺伐(さつばつ)とした観たくもない筋書きの映画なのだが、主人公役のシャーリーズ・セロン(Charlize Theron、1975-)の演技力には驚嘆しかなく、声もなくじっと彼女が演じる娼婦を画面に眺めていた。実に嫌な感じの女に見えたが、実際は、モデル系のかなりの美女なのにも二度驚かされた。セロンは南アフリカ出身で、アルコール依存の父親に性的にいじめられ、自室に逃げ込むと扉越しに発砲までする。母親が娘をかばって夫を射殺した(正当防衛が認められた)というから、凄(すさ)まじい実体験の持ち主である。その体験が、多分、このモンスターと化した娼婦の役に遺憾(いかん)なく発揮されたのだと思う。あの顔、目の演技は普通じゃなかった。特に、死刑となる裁判で、証人席に座った同性の彼女に「この女です」と指さされた時の、何とも困ったような顔が忘れられない。セロンは、この演技でアカデミー主演女優賞を受賞。当然である。彼女はドーナツを食べて何もせずにだらだらとして14キロも体重を増やし、眉毛も抜いて、この役にのぞんだそうだ。その余りの変貌ぶりに飼っていた愛犬まで逃げ出したというエピソード付きである。田中絹代や三國連太郎が老け役を演じるために自分の歯を全部抜いたといった話は聞いたことがあるが、役者というのは実(げ)に恐ろしい職業である。
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