Discover the 「風雅のブリキ缶」 written by tonkyu

科学と文芸を融合した仮説作品「風雅のブリキ缶」姉妹篇。街で撮った写真と俳句の取り合わせ。やさしい作品サンプルも追加。

横浜の傾いたマンションへ行ってみる

2015年10月27日 21時25分01秒 | Journal
 今年の春先、横浜の都筑区のマンションから隣の緑区のマンションに引っ越してきた。
 したがって、今回問題となったの傾いたマンションが「横浜市都筑区」と聞いたときは、なんだか複雑な気分になった。さらに、最寄駅が「JR鴨居駅」だとというので余計に変な心地ちがした。というのも、移ってきた緑区のマンションは、最寄駅が鴨居だからだ。
 というわけで、単なる物見遊山、野次馬根性だけで、こうして書いているわけではない。
 多少の心当たりや、そうだったのかという思いはある。
 前に住んでいた都筑区のマンションは、最寄駅は「都築ふれあいの丘」という横浜市営地下鉄グリーンラインの沿線で、港北ニュータウンの端っこに位置する。しかも、地名が「大丸(おおまる)」というぐらいだから、天然に隆起した地形、丘陵の尾根筋で、地盤はけっこう良さそうであった。ただ、先の東北地方の大震災で、仙台の丘陵地帯の大学や宅地の地震被害がけっこうなものであったことから、丘陵地帯が即、地盤が良いから安全だという思い込みはなくなっていた。小生は建築関係の記者だったから、仙台の被害については学会報告などを散々取材してきた。ローンを組んで新築マンションを買って、大地震が来て、死ななくても住み替えを余儀なくされ、二重ローンに苦しんで余生を送るのも困ると判断し、昨秋、マンションを探し始めて、最初、金沢文庫の崖地の上に建った中古マンション物件を契約した。その契約時に、不動産屋からの重要事項の説明で、基礎は杭打ちをしてあるので土砂災害に対しても大丈夫だと念を押された。ただ、何か業者の言い方に信頼し切れない引っかかるものがあったのだろう、本当に杭打ちをしているのか、確かめたくなって、横浜市やディベロッパーを訪ねてヒアリングしたら、ベタ基礎で杭など打っていないことが判明した。それで当然、小生は大いに怒った。契約後だが、弁護士をたてて、契約の無効性を主張し、向こうも最終的には折れて、多少の弁済金をもらって、この件はなかったことになった。
 それからさらにマンションを探して、今の緑区のマンションに決めて、引っ越してきた。よって、今回、杭の問題が出てきたので二重に驚いた次第である。妻にどう考えるか質問されて、「建物で杭は地中に埋まっているから、いわば土木の世界。建築と土木は仲が悪い」などと妙な返答をした。
 事件が表沙汰になっても、すぐには見に行く気がしなかったが、今日は、新横浜に所用があったついでに、鴨居駅をおりて、改札を出てから、いつもとは逆のららぽーとの方角へ歩き出していた。鶴見川にかかる歩道橋をわたるところで、問題のマンション群がららぽーとの左側に小さく見えてくる。この一帯は、昔は一面の田んぼ、それから工場が多くなり、住宅は少なかった。この辺りで大きく蛇行(だこう)する川の氾濫(はんらん)は歴史的に繰り返されてきたろうし、それで地盤が良いわけがないから、宅地として敬遠されてきたのだ。それが安全の根拠もなく魅力的な宅地に変貌したのは、三井不動産のショッピングパーク「ららぽーと横浜」が誕生したからである。この有名な都会的な大型ショッピングモールのそばに住むのは(徒歩1~2分圏内ぐらい)、人によっては、人生の勝ち組的なステイタス、夢に見た理想的な生活の実現と感じられるのかもしれない。



 さて、ららぽーとに入ってから、トイレで用事を済ませて、また出て、問題のマンションはすぐ裏にあるはずだった。テレビのカメラクルーらしいのがマンション前の公園のわきに座っているから、「問題のマンションはどこ?」と尋ねると、「さあ」といった顔をする。アホか。さらに歩いて角を曲がると、テレビで何度も見てきた建物が見えてきた。腕に「三井住友建設」のワッペンをして立っている背広のおじさんに「例の傾いたマンションはこれかい?」と指さしながら尋ねると、これまた「さあ」といった顔つきをする。しかし、今度は、知っていながら断じて言えないよという、とぼけた苦笑いの中の「さあ」である。



 マンションの脇を行き過ぎて、iphoneで適当に写真を撮って、また戻ってきて、こちらをなんとなく避けながらちらりと動向を見詰めている先ほどの三井住友建設のおじさんをやり過ごして、暑い中、まっすぐに鶴見川にかかる道路橋をとぼとぼ歩いて鴨居方向へ帰ってきた。この道路は、ららぽーとから車で帰るときいつも抜ける道である。



 鶴見川を渡って、住んでいるマンションの方角へしばらく歩いてくると、左手に崖地の造成地が見えてきた。崖の上に立つ家のすぐ足下から山を削り取っている。まったくムゴイ風景である。日本の宅地開発とは、つまり、こうした自然環境や人間の気持ちに対して悪趣味がまかり通る世界なのだと、あらためて痛感した。





 こうした次第で、都筑区、鴨居駅、杭の問題と、小生にとって因縁薄からぬ傾いた横浜マンションの見学を終えた。金沢文庫のとき、ヒアリングで「杭があっても盛土の土砂が一気に流れ出せば杭ごと運び去ってしまいますよ」と設計の担当者が当たり前のことのように話していたのを思い出す。「おいおい、そんな物件を売るなよ」と言いたくなったが、杭が支持層に届いていれば安全安心というのも、また本当の専門知識がない報道ジャーナリズムが常識論ぶって社会にたれながす間違った素人判断(偏見)になるのではないか。長い杭の上に乗る建物とは、人が高下駄で立っているようなもので、安定が良いわけがない。何もないときはいいが、地震でふらふらと揺れ、大水で足元をすくわれてすってんころりと転んでも、何ら不思議はないのだ。
コメント
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