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リタイア後4年間の年賀状
(右上04年、左上05年、右下06年、左下07年)
松飾も取れた、ある日の昼下がり。
居間で一人くつろいで浅田次郎の小説【蒼穹の昴】を読んでいると、電話の呼び出し音。
電話を取ろうか、取るまいか瞬時迷った末、受話器を取る。
『もしもし、Kさん。私、R・Kですけどお久しぶりですね』という声が飛び込んできた。
その声に一瞬耳を疑い、次に長年のサラリーマンの『性』(さが)と言うべきか、思わず威儀を正していた。
電話の声は小生が37年間勤務した会社の元専務のR・Kさんであった。
R・Kさんは、小生が入社した時には、すでに若くして営業部門の担当役員という職にあり、周囲からは『鬼のK専務』と恐れられていたが、小生とは仕事上の関係は全くなく、二十数年前、囲碁が大好きな専務にプロ棋士の武宮さんとの指導碁をセットしたことが唯一の接点であり、そのせいもあってか何かにつけて目をかけていただいたが、何分にも『雲の上の存在』の人であり、個人的に特に親しい間柄ではなかった。
リタイア後も年賀状のやりとりぐらいのお付き合いしかなかった。
だから、突然の電話に何事かと思わず身構えてしまった。
『いや、実はね、今、今年いただいた年賀状を整理しているところなんだけど、あなたの年賀状毎年楽しみでね、あなたの年賀状は毎年とってあるんだ。
ところが、今年のあなたの年賀状を見たら、例年と違ってるじゃない、何か心境の変化でもあったのかなと思ってね、ついつい電話しちゃったのよ』
ええ!、まさか十数年も会ってもいなければ、話しもしていない元社員からの年賀状のことでわざわざ電話をくれるなんて!と信じられない思いであった。
『それは、それは、恐縮です。お懐かしいお声を聴けて嬉しいです。しかも、年賀状のことでお電話いただくなんて・・・・・・』と言葉が中々続かない。
『いやあ、あなたの年賀状は一目で近況がわかるからね、いつも感心して見ていたのよ。何時だったかな、真剣で巻きわらを両断している写真が入った年賀状をいただいたけど、今でも印象に残ってるよ。』
懐かしさとうれしさで、話題も弾む。
そして、
『あなたの元気な声が聞けてよかった、電話してよかった』
と言うR・Kさんの言葉で電話は終わった。
それは、久しぶりにもらった『お年玉』のように、全く予期せぬ、うれしさであり、心弾む電話であった。
受話器を置いた時、何ともいえない温かい思いが心を満たしてくるのを感じた。
その日の夜の食卓での会話。
『今日は珍しい人から電話があってね』
『誰よ』
『元専務のR・Kさん』
『へえ~、それは珍しい、何だって?』
(かみさんとは職場結婚のため、かみさんもR・Kさんのことを良く知っている。)
『今年の年賀状、例年に比べるとシンプルでそっけなかったじゃん。何か心境に変化があったのかって』
『ええ!、おとうさんの年賀状を気に掛けててくれてたわけ?』
『そうらしい、毎年おれの年賀状を取って置いてくれてたらしいよ。おかあさんは、おれの年賀状はゴテゴテしていてダサイっていつも言ってるけど、ちゃんと良さをわかってくれてる人もいるんだよ』
『そう、それはそれは良かったじゃない。ところで、R・Kさん元気なのかしら』
『今年、傘寿を迎えるって言ってたけど、矍鑠としてたよ。今でも毎日スポーツジムで汗を流し、週4回碁会所に通い、読書も欠かさない生活だって、すごいよね』
『おとうさんのお手本になるみたいな生活ぶりね』
『そうだね、今度の電話みたいな細やかな心遣いに接すると一人の人間として改めて尊敬しちゃうよね』
日頃は、かみさんと二人きりで、会話も少ない食卓が、この夜はこの話題でひとしきりにぎわった。
そして、この日の夜は温かい、幸せな気分ですこやかな眠りについたのであった。
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今年の年賀状