折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

一念発起

2007-02-03 | 日常生活
『ハイ、お父さんにおみやげ』

美容院から帰ってきた妻が、小さな容器を差し出した。

見ると、アロエ入りのヘア・トニックである。

『それを、風呂上りと毎朝髪に振りかけてよくマッサージするんだって。美容院に来ているお客さんに、「効果がある」って、随分評判がいいみたい。おとうさんも頭のてっ辺、最近とみに薄くなってきてるもんね」


確かに年々、横着になって頭髪などもほとんど無関心で、養毛剤はもとよりブラッシングなど髪の手入れなど全くやっていない。

妻に改めて言われるまでもなく、それまでも風呂上りに鏡を見るたびに頭頂部の辺りがだいぶ薄くなってきているのはわかっていたが、『もう、年なんだからしょうがないか』と半ばあきらめていた。

だから、妻から『ハイ、おみやげ』と言われて、いつもであればこういう場合、『あっ、そう、どうも』と生返事一つでお茶を濁すのが常であるが、あの時はどうして突然そう思ったのか、その時の心理は今もってよくわからないのであるが、『親切心には応えなければ』と素直にそう思った。と同時に、『これからは、自分にも、他人にももっと優しくならなくっちゃあ』と言う思いが強く強く湧き上がってきたのである。


『人間って、わかっていてもやらないないじゃない、何かきっかけがないと。このプレゼントをいいきっかけに今日から即実行してみようかな』と妻に宣言した。

『一念発起』した瞬間であった。


その日から、それまで夜遅かったり、面倒だったりした時は止めてしまっていた洗髪を、毎日必ずするようにし、また、風呂上りと翌朝には、買ってもらった養毛剤を振りかけ、鏡を見ながら指先に思いを込めて、丹念にマッサージを繰り返す作業を欠かすことなく実行している。

と言っても、この試みは「効果」を期待して始めたわけでは決してない。あの時、湧き上がってきた「もっと優しくなる」という思いの延長線として、これまで何もせずに放置してきた「髪」に対し、『償い』『いたわり』の気持ちを具体的に行動で示そうと言う試みに過ぎないのである。だから、全く効果がなくとも、これからもずっと続けていこうと思っている。


『少し、髪の毛太くなったんじゃない』と妻が半分からかい、半分はマジで言う。

『気持ちの問題なんだから、別に効果を期待してるわけじゃないんだよ』と小生。

まもなく、2ヶ月が過ぎようとしている。もう、1本目の整髪料はとっくに使い果たして、2本目に入っている。

いくら効果は期待しないと言っても、頭頂部の辺りに変化の兆しがかすかにうかがえるのを目にすると、うれしいもので『まだ、まだ続けるぞ』と決意を新たにする今日この頃である。


『今度、散髪に行ったら、マスターが何て言うか楽しみね』と言って、妻がにゃっと笑った。