折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

第9の季節

2006-12-17 | 音楽
CDで聴く『第9』

12月はベートーヴェンの『第9』の月である。

この所、毎年『第9』の『ライブ』盤のCDを購入している。

一昨々年は『小沢征爾・サイトウ・キネン・オーケストラ』、一昨年は『クレンペラー・フィルハーモニア管弦楽団』、昨年は『カラヤン・ベルリンフィル』そして今年は『マタチッチ・N響』である。

いずれもライブ盤特有の熱気を孕み、素晴らしかったが、今年はマタチッチ盤の第4楽章をまさに鳥肌が立つ思いで聴いた。

そして、『鳴り止まぬ拍手』として収録されている演奏後の延々7分にわたる聴衆の拍手は、当日の熱狂振りを余すことなく伝えていた。


ベートーヴェン交響曲第9番『合唱』
演奏:NHK交響楽団
指揮:ロブロ・フォン・マタチッチ
録音:1973年12月19日 NHKホール



映画で観る『第9』


久しぶりに映画館に足を運び『敬愛なるベートーヴェン』を観た。

以下は、その感想である。

1・ホランド監督の術中にはまる?

ストーリーは、『第9』の初演4日前に始まり、その間にヒロインとのいくつものエピソードを交えて、物語は初演当日に向かって凝縮されていく。

そして、迎えた当日。
我々も初演当日の会場にいるような気分に誘われ、あたかも本物のベートーヴェンが指揮しているような錯覚に陥り、聴衆の一人としてまさに『第9』という巨大な音楽が産み落とされる歴史的瞬間の現場に立ち会っているような思いに強くとらわれる。

ホランド監督がインタビューで『まるで初めて「第9」を耳にするような感覚を味わって欲しかったんです』
と語っているが、まさにその狙いは的中、観客の全てが監督の術中にはまった感がする。





2・ベートーヴェン役・エド・ハリスの入魂の演技に感動

ベートーヴェン役を演じたエド・ハリスの役者魂、入魂の演技に圧倒された。

映画のクライマックスである12分間にわたる『第9』の初演シーンでは、本物のベートーヴェンが乗り移ったかのような迫真の演技で、我々観客をぐいぐいと「第9」の世界に引き込んでいく。

これまた、ホランド監督が彼について言っていることだが、「単に指揮の真似事をするだけなら簡単だけどれども、自分が本当に指揮をすることが出来なければ、ベートーヴェンを演じることは出来ない」と言い、通常は音楽学校で9年かけて習うような指揮を、わずか9ヶ月の猛特訓で学んでしまったのです。」

このインタビュー記事を読んだ時、「役者ってそこまでするんだ、凄いなあ」と思ったが、実際に映画を観て「人間って、凄いんだなあ」と感動した。

演奏が終わり、聴衆が熱狂してベートーヴェンをたたえるシーンで、思わず立ち上がって『ブラボー』と叫び出したい衝動にかられたのは小生一人だけではないと思う。


3・ヒロイン役・ダイアン・クルーガーの魅力にうっとり

ヒロイン「アンナ」役を演じたダイアン・クルーガーの気品と凛々しさと清らかさをたたえた美しさ、そして心をなごます「愛くるしさ」にすっかり魅了された。

彼女の表情をアップで捉えた時の、大きく、きらきらと輝く目に、思わずうっとりと惹き込まれてしまった。

こんな魅力的な女性は、妖精と言われたオードリー・ヘップバーン以来である。


映画を観たのは、師走の月曜日。
さすがに、映画を見ている人は少ない。

劇場の真ん中の特等席で、映画館を借り切ったような気分で、『第9』を心いくまで堪能し、贅沢な気分を味わいつつ、帰路についた。