ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『かもめ食堂』

2006-04-08 23:02:08 | 映画
「この映画は映画館で観て大正解!」
----うん。どういうこと?
「映画の中の世界が
ほんとうに、のんびりゆったり。
そう、この映画は休みの日に、
ふだんの煩わしいことをすべて忘れて、
のんびり平和に過ごす……そんな感じの映画なんだ」

----でも、それって環境ビデオと同じじゃ?
映画であるからには、なにか監督のメッセージとかあるんじゃないの?
「う~ん。そうだね。
思うに、監督の荻上直子は現代のぎすぎすした日本にあって、
みんなが忘れているもの失っているものを
映画の中で思い出してもらおうとしてるんじゃないかな。
だからこそ、日本とは風土がまったく異なる
フィンランドで撮影したのだと思う」

----この映画って確かフィンランドで
「かもめ食堂」を開いている女性の話だよね?
「そう。小林聡美扮するサチエが店のマスター兼オーナー。
そこに日本からそれぞれの事情を抱えて
ミドリ(片桐はいり)、マサコ(もたいまさこ)が現れる。
ミドリは、サチエに、なぜフィンランドで店を開いたのかを問うものの、
サチエは、それにははっきりとは答えずにはぐらかす。
この映画では、彼女の過去は一切その口からは語られない」

----と言うことは謎の人ってこと?
「いや、そう言うわけじゃない。
サチエにとってはすべては現在なんだね。
客は全然来ないのに毎日食器をきれいに磨き上げ、
その日のための準備は怠りない。
そこに彼女のプロとしての生きざまが反映される」

----えっ、お客がいないの?
「うん。
それを見かねたミドリが、フィンランドの人に合わせて
ザリガニやトナカイの肉、ニシンなどのおにぎりを提案。
サチエは、わざわざ食材を買ってきたミドリの気持ちを思いやり、
おにぎりを作ってはみるけれども、
やはりプロとしての判断から、それはメニューには取り上げない」

----でもそんなんじゃ、お客増えないでしょ?
「いや、それが徐々に来るようになるんだね。
そのきっかけとなるのがシナモンロール。
それまで和食とコーヒーだった『かもめ食堂』にとって
それはまさに画期的メニュー。
ぼくは、この映画のポイントはここにあったと言う気がする。
つまりミドリの行動がきっかけで、
サチエは『かもめ食堂』に緩やかな変化を受け入れたと言うことなんだ」

----ふうん。でもいくら現在、現在と言っても
他のふたりは旅人ななんでしょ?
いつかは別れがくるよね
「うん。寂しくなるよね。
でもそれに対するサチエの言葉がスゴい。
『人はみんな変わっていくものですから』。
この言葉に、口では語られない彼女の過去が凝縮。
歩んできた人生の重みが現れている。
ある意味、このような<平和な>暮らしは
それなりの経験を積んできた人のみが手に入れることができるものなのかも……」

----う~ん。えいにはまだまだだね。
「mmmmm………」

            (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「フォーンもおなかがすいたニャ」小首ニャ

※フィンラン度
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猫ニュー

『ゆれる』

2006-04-07 23:47:55 | 新作映画
「ちょっと気が早いけど、
この映画はぼくの上半期邦画の暫定ベストワン!」

----そりゃ、また大胆な……。
この映画って確か『蛇イチゴ』の監督だよね。
「そう。西川美和。
前作の『蛇イチゴ』を観たとき、
まだ20代の監督が
どうしてここまで洞察力に富んだ映画を作れるんだろうって、
それが不思議でならなかったけど、
やはり彼女は本物だったね」

----と言うことは、今回もその路線?
「うん。最初監督は『次作は優しくてハッピーな路線』をと思っていて、
途中で、ある夢を見たことからその方向性が変わったらしい。
『蛇イチゴ』は詐欺師の兄とまじめな教師の妹の話。
今回は、東京で写真家として成功し、
忙しくも自由気ままな生活をしている弟・猛(オダギリジョー)と
地方に残り実家の商売・ガソリンスタンドを受け継いだ
兄・稔(香川照之)の話。
母の一周忌で久しぶりに実家に帰った猛。
家を出て仕事に成功を収めた彼の傲慢な態度はすぐに父と衝突する。
そのとげとげしい場をなだめ取りなすのが、争いごとの嫌いな稔。
そんな彼のガソリンスタンドで働いているのが、
ふたりの幼なじみの智恵子(真木ようこ)。
主要登場人物はこの3人。
稔はかねてより智恵子に気がありながらも
自分に自信がなく先に踏み出せない。
ところが、かつて彼女と関係のあった猛は、
いともやすやすと旧縁を復活させてしまう。
そして問題の翌日。
渓谷に架かった吊り橋から流れの激しい渓流へ智恵子が落下。
そのときそばにいたのは稔。
兄をかばうため猛が奔走する中、稔の裁判が始まる…」

----ふうん。つまりこの映画は法廷劇になっていくってわけ?
「そうなんだ。
最初は彼女が事故で落下したと言っていたはずの稔が、
途中から自分が突き落としたと口走ってしまう。
でも、それは自責の念に駆られての嘘の証言では?
というところから物語は思わぬ方向へ転がってゆく。
この映画がオモシロいのは、
墜落の決定的瞬間を見せていないため、
何が真実か観客にはまったく分からないところ。
稔が口を開けばそれが真実に見え、
ふたりが面会室で口論すれば、
それまで観客が真実と信じていた思っていたことは、
それこそ根底からぐらぐらと揺らいでゆく」

----つまり観客のミスリードが巧いと言うことだね?
「うん。しかもそれが
よく練り込まれたふたりのキャラクターの上に成り立っているんだ」

----でも、そんな人、周りにはあまりいないよ。
共鳴しづらいニャあ。
「そこなんだよねポイントは…。
周りにはいない特殊なキャラクター。
しかし、その登場人物の性格をじっくりと描きこむことで、
『あ~あ、この人なら確かにこうしかねないな』と思わせる……、
それがいわゆる、よくできた脚本……そう、ぼくは思うわけだ」

----ふうん。少し分かった気がする。
「この映画も最初は、猛が智恵子とセックスしている次のショットで、
稔が車にガソリンを注入する…と言ったいかにもと言うシーンが出てきて、
そのあまりにもあからさまな比喩に、おやおやと思ったりもしたけど、
法廷シーン以降は、何が真実でどこに着地するのかが
まったく読めなくなる。
いわゆるミステリーのオモシロさだね。
とりわけ、兄・稔の証言・態度が二転三転し始めてからは、
彼のそれまでの優しさと思いやりの言動の奥にあるのが、
もしかして自嘲、諦念から生まれた偽善だったのかも知れないとまで
観る者に思わせてしまうんだ」

----ニャるほど。そのミステリーに
兄弟の深層心理をからませるわけだ。
「うん。そういう意味でもこの脚本は巧い。
裁判の中、初めて明らかになる事実が次々に飛び出し、
その新事実に対して兄弟がそれぞれに反応。
そしてその反応を
さらにふたりが読み合うことで、
物語はまた別の段階へと進んでゆく。
これら瞬時に変わるふたりの感情を完璧に表現した香川照之、オダギリジョー。
彼らは本年の男優賞候補に早くも名乗りを上げたと言える。
特に兄弟の絆が深い部分で再構築されるラストでのふたりの表情は
猛のセリフとともに永遠に記憶に残る。
そうそう、検事役の木村祐一の強面ながら
笑いを誘う演技も捨てがたかったな」


            (byえいwithフォーン)

蛇イチゴ BCBJ-1825蛇イチゴ BCBJ-1825
※こちらは兄と妹です。

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猫ニュー

『ゴーヤーちゃんぷるー』

2006-04-06 19:36:33 | 新作映画
----『ゴーヤーちゃんぷるー』って沖縄料理だよね。
この映画とどういう関係があるの?
「ゴーヤーってそれだけだと苦くて
なかなか食べにくいものだけど,
他の材料と混ざりあって炒めるとおいしくなる。
つまりいろんなものを受け入れる素材と言うことかな。
人間も一人で生きるよりみんなで助け合って…
というような意味を込めているらしい」

----ニャんだかベタだね。
「竹内紘子の手による原作は
『まぶらいの島』と言って鹿児島県の加計呂麻島が舞台とか」

----“まぶらい”って?
「“護られる”という意味なんだって。
でも沖縄にはその『まぶらう』という言葉はなくて、
このタイトルになったらしい。
でもいずれにしてもそのストーリーは
さして目新しいモノではないよ。
東京の学校でイジメとシカトに遭い、
心を閉ざして家に引きこもるようになった中学生ひろみ。
彼女が唯一、外の世界とつながる窓、それがインターネット。
ある日、彼女は掲示板で知り合った「ケンムン」と名乗るメル友が
西表島のダイバーズショップでインストラクターをしていることを知る。
偶然にも西表島は彼女が2歳のときに
自分を残して島に帰った母・喜美子が住む島でもあった。
ケンムンに会うため,そして喜美子に会うため、
ひろみは西表島へ向かう」

----ほんとだ。ストーリーとしてはあまり新しくないよね。
「この映画の最大の見どころは,
主演の多部未華子。
昨年の『HINOKIO(ヒノキオ)』に始まり『青空のゆくえ』『ルート225』と、
いずれの作品でも強い印象を残した彼女だけど、
ここでもその鋭いまなざしが観る者の心を突き刺す。
自分の殻をしっかりと守って人に気を許さない……
この映画のヒロイン、ひろみにはピッタリだ。
それだからこそ、
彼女の頑な心が温暖で美しい沖縄の風景の中、
人情味溢れる人々の心に触れるうちに
次第に解けていくさまは熱い涙を誘う」

----いつも思うんだけど、多部未華子に肩入れしすぎていない?
「はい。認めます」
 
                     (byえいwithフォーン)


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猫ニュー

『ダックシーズン』

2006-04-05 23:12:47 | 新作映画
「こういう映画って、好きな人にはたまらないんだろうな」
----おやおや、いきなりだね。
「監督はメキシコのフェルナンド・エインビッケ監督。
エンドクレジットで
ジム・ジャームッシュと小津安二郎のふたりの監督に
感謝が捧げられている。
その一方で彼自身、
この映画の特徴として退屈さやけだるさをあげているんだ」

----ははあ。だんだん見えてきた。
これは特別な大事件が起こらないパターンだニャ。
「うん。ある退屈な日曜日。
14歳のモコはフラマの家で一緒に留守番を楽しんでいる。
しばらくして隣に住む少し年上の女の子リタが
オーブンを使わせてほしいとやってくる。
そしてもうひとりやってきたのが、
ピザ配達人のウリセス。
11秒遅れたと言ってピザの支払いを拒否するフラマとモコ。
支払うまで帰らないと言うウリセス。
かくして4人のドラマが立ち上がる…というお話」

----ニャるほどね。でもこのタイトルの意味って?
「実はフラマの両親は離婚まで秒読み段階。
いずれもが自分のものだと主張する家財道具の中に、
壁にかかっている一枚の絵があるんだ。
そこに描かれているのは湖から飛び立つ鴨。
ウリセスはそれを見て鴨のV字編隊飛行について話す。
それによると鴨の飛行は
先頭の鴨が作る風に乗って2羽目が飛び、
2話目が作る風に乗って3羽目が飛ぶ…というように続いてゆく。
先頭に立つ鴨の役は交代制。
遅れそうになった仲間がいたらその横に寄り添う…」

----ははぁ。映画は彼ら4人をその鴨に喩えてもいるんだね。
「うん。それよりも飛べないアヒルってとこかな。
でも、この出会いで彼らは飛べる鴨になるかも知れない…。
途中、この部屋からフラマとウリセスが“超現実的に”一回だけ外に出る。
映画全体が日常の中の小さな出来事を追い、
その中から、それぞれの孤独感とか悩みを浮きぼりにするという手法だけに
この絵に絡むその超現実的な映像は強いインパクトを残す」

----それ以外は淡々としているの?
「うん。
銃をぶっ放して家具を壊したり、
ウリセスがフラマを突き飛ばしてフラマが怪我したりと、
いま考えると、ちょこちょこと事件も起こっているけど、
全体的には、くすぐるようなユーモアの時間がまったりと流れる。
でもその中に、
モコを意識するリタ、
そしてモコにとって初めてと思われるキスの瞬間など、
いくつもの感情が交錯して、部屋の空間の密度を濃くする。
過剰な情報を制限する白黒映像と言うのも、
この映画にあっていたと思うよ」

         (byえいwithフォーン)


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猫ニュー


『ブラッドレイン』

2006-04-04 19:00:56 | 新作映画
----この映画の監督の名前、最近よく聞くよね?
「ウーヴェ・ポールだね。
「ハウス・オブ・ザ・デッド」でゲームの映画化に成功してからというもの、
その手の作品を次々と手がけている。
実は先日も彼の『アローン・イン・ザ・ダーク』というのを観たばかり。
ただ、あちらはラヴクラフト風味のその設定はオモシロいんだけど、
ツッコミどころが多すぎて…」

----タイトルからすると、吸血鬼モノみたいだね。
「うん。元となっているゲームはヒロインのレインがナチ相手に戦うのだとか。
でもこちらの舞台は18世紀。しかもヴァンパイヤ伝説の雰囲気を再現するべく
わざわざルーマニアまでロケに行っている」

----吸血鬼モノって食傷気味の気もするけど、
次から次に、ほんとうによく作られるよね。
「ほら。吸血鬼って暗くなってから出てくるじゃない。
つまりこれは映画と同じなんだ。
暗くなってから物語が始まる…。
そういう意味でも吸血鬼は映画人に愛されるのかもね。
ここでは、吸血鬼と人間の間に生まれたヒロイン、レイン(クリスタナ・ローケン)が
母親を殺した吸血鬼のボスである父(サー・ベン・キングズレー)への
復讐に立ち上がる。
そしてその一方で、吸血鬼ハンターたちの活躍も描かれる。
このハンターに扮するのがマイケル・マドセン、マシュー・デイビス、
そしてミシェル・ロドリゲス、。
他に精力旺盛のエロ吸血鬼にミート・ローフ。
さらにはウド・キアー、ビリー・ゼーン、
嬉しいことにマイケル・パレまで出ている」

----ちょちょっと。それスゴい顔ぶれじゃない。
「うん。これだけのメンツが集まると言うことは、
多くの俳優たちがこの監督の中に、
何か光るモノを見つけたと言うことかもしれないね」

----どうなの?そういうのはあった。たとえばアクションとか…?
「う~ん。その公開規模(新宿トーア)を見ても分かるように、
この映画は大作ってワケじゃないし…。
申しわけないけど、こちらも最初からそれほどの期待はしていない。
でも気楽にかまえたせいか、思ったより楽しめたかな。
『インディ・ジョーンズ』ばりの密室トラップもあるし、
なによりも時代色がGood。
ルーマニアの大自然の中、おそらくはCGと思われる建築物が
自然に溶け合って異様な暗黒世界を生み出していた」

----でも、クリスタナ・ローケンのコスチューム、
あれはニャいんじゃない(笑)?
「あっ、ぼくが言っている時代色というのは、
歴史の事実に即しているという意味じゃないよ。
ダーク・ファンタジーとして別世界を形作っているという意味。
クリスタナ・ローケンはボンデージ風味のファッション。
それがゲームやアニメのヒロインと言う感じで
人によっては“萌え”かも。
そうそう。彼女はバストトップも見せる大胆なセックスにもチャレンジ。
一方、ミシェル・ロドリゲスも露出度は高い。
上映時間も94分と短いし、
待ち合わせの合間とかに観るにはちょうどいいかもね」

         (byえいwithフォーン)


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猫ニュー

『RENT レント』

2006-04-03 19:00:37 | 新作映画
----これって「オペラ座の怪人」や「美女と野獣」と並ぶ
ブロードウェイのロングラン・ミュージカルなんだって?
ミュージカルとしては異例のピュリッツァー賞も受賞したと聞いてるけど?
「うん。そうらしいね。
タイトルになっている『レント』と言うのは“家賃”のこと。
1830年頃のパリの下町を舞台にした
プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』をベースに、
1980年代末のニューヨーク、
イースト・ヴィレッジに置き換えて
そこに暮らす若者たちの姿を描いたようだ」

----その言い方からすると、あまり知らないニャ(笑)?
「うん。でも物語は簡単に説明できるよ。
ミュージシャン、ロジャー。
エキゾチックなダンサー、ミミ。
ロジャーのルームメイトでドキュメンタリー映像作家のマーク。
その元彼女でパフォーマンス・アーチスト、モーリーン。
他にも、モーリーンと結婚式を挙げる女性弁護士ジョアンヌ。
哲学教授トム・コリンズ、
彼と愛人関係となるストリート・ドラマー、エンジェル。
ボヘミアン的気質を持つ彼らは芸術家を志向。
安易に商業主義に走らない彼らは貧困に喘いでいる。
そんな彼らに元々は同じロフトの住人だった
ベニーが家賃の催促にやってくる。
まあ、この8人の話と思えばいいかな。
ホームレス立ち退き計画に抗議するパフォーマンス・ライブ、
エイズ患者のためのライフ・サポートなどを織り込みつつ、
彼らの傷だらけの愛と夢が語られる」

----ニューヨークの中の悲惨な暮らしをベースにした映画と言ったら
『真夜中のカーボーイ』が思い浮かぶよね。
「うん。ただ、あの映画との違いは、
彼ら仲間が強い絆で結ばれていることだろうね。
時代的に、エイズが出現していることが
別の意味での重い影を投げかけているけどね。
なにせ、この8人のうち半数がHIV+」

----うわあ、これまた高い確率だね、
「マンハッタンのアートスクールで
<名声>を掴もうとする若者たちのエネルギッシュな姿を描いた
『フェーム』が生まれたのが1980年。
あっという間に、その空気は変わってしまったわけだ。
ドラッグ、同性愛、友の死……だもの。
ほんとうに
80年代後半のアメリカってこんな感じだったのかな?
音楽そのものはパワフルなんだけどね」

----でも、あまりミュージカル向きじゃないという気もするね。
「一番不思議なのは、
このミュージカルがブロードウェイで人気を博していること。
ここに描かれている世界の若者たちは日々の食事にも窮している。
でも、そんな話を観ている人たちは、
映画に比べて高いミュージカルの観劇料を支払うことができる層だよね。
この関係がぼくにはよく分からない。
彼ら観客は、この話をどんな気持ちで観ているんだろう?」

----原作者はそれについて何か言っているの?
「脚本、作詞、作曲を手がけたジョナサン・ラーソンは
プレビュー公演の前日に35歳の若さで亡くなったとか。
最初はニューヨークのダウンタウンにある小劇場での公演だったらしい。
本人もここまで来ると思っていたかどうか…。
『18世紀のコスチュームプレイをやるのと何ら変わりないよ』。
これは来日公演でロジャー役を演じた某キャストの言葉。
観客もこの物語をひと昔前のできごととして、
ある程度、距離を置いて観ているのかな?」

         (byえいwithフォーン)


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猫ニュー


※画像はフランスのオフィシャルより。

『恋するトマト』

2006-04-02 13:15:13 | 新作映画
----かわいいタイトルの映画だね。
また新人女性監督の作品?
「そう思うでしょ。
ところがこれが全然違っていて、
もう今年67歳の大ベテラン・南部英夫監督の作品なんだ。
主演が大地康雄。
しかも企画、脚本、製作総指揮も兼ねているというから驚き」

----大地康雄って『蝉しぐれ』に出ていたけど、
最近あんまり見かけなかったよね?
うん。この作品に賭けていたんだなってことが
これを観てよく分かった。
彼がそのようなバックステージも務めていることはまったく知らずに観ていて
それでも、その情熱はビシビシ伝わってきたもの」

----どういうお話ニャの。
「主人公は45歳の独身男性、野田正男(大地康雄)。
霞ヶ浦に隣接する田園地帯に、
年老いた両親と田畑を耕して暮らしている。
気が優しくて純朴な彼だが、見合いの度に断られ続けている」

----へぇ~っ。それはどうして?
「つまり、農業をやろうという女性が現れないんだね。
今日もまた、田舎暮らしに憧れているという佳子(富田靖子)との縁談が破談。
やむなくフィリピンパブで働くリバティ(ルビー・モレノ)と結婚するために、
結納金を手にフィリピンに渡ったが……。
と、ここまでが大きく分けて第一部かな」

----えっ、そんなに話が続いていくの?
「そう、プレスとかを全く読んでいなかったため、
この映画が、どんな話でどう転がっていくのかまったく見えなかった。
ただ、プレスのページをぱらぱらとめくると、
畑の中で日に焼けてにこやかな大地康雄とフィリピン女性(アリス・ディクソン)。
これはおおらかな農業讃歌かなと思っていただけにびっくり。
映画は、この後、思いもかけぬ方向へドラマチックに突き進んでゆく。

※ネタバレ注
結局、正男は結婚詐欺に遭ってしまう。
リバティの家族に持参金をダマし取られ、
日本に帰る意欲もなくし、
フィリピンで浮浪者になってしまう。
そんな彼に仕事を回したのが日本人の中田(清水紘治)。
フィリピン女性を日本に送り込むブローカーである彼の元で働き始めた正男は、
だんだんとヤクザの体質に変貌してゆく。
ここまでが第二部。
そして第三部は……」

----あっ、そこまででいいよ。
これ以上聞いたら、観る楽しみがなくなる。
でも、大地康雄はどうしてこういう映画を?
「かつて彼が茨城県の独身の農家の長男の人々を取材したとき、
彼らが何回見合いをしても相手にことごとく断られていて、
『両親も年なので近い将来は人手不足になり農業をやめざるを得ない』と
自分たちの現状を朴訥に話す、その心の叫びに絶句したとか。
以下、大地康雄のコメントを紹介すると
『農家の長男として生まれたというだけでなぜ人並みに結婚できないのか?
まして食べ物を作るという人間にとって一番大切で尊い仕事をしている人たちが、
なぜ人生に失望して生きていかねばならないのか?』
『一番肝心な食べ物を作る人間がいなくなったら日本はどうなるのか』」

----mmmmm。スゴく重いね。
「確かに。ただね、この作品はエンターテイメントとしてもオモシロい。
先ほどの第一部はコメディ風味の作り。
なかでも村田雄浩とのかけあいは『ミンボーの女』を思わせる。
ところが第二部では一変してハードな役作り。
人生を半ば諦めた男の凄みがよく出ている。
そして第三部はラブロマンスを交えて
この映画の社会的なメッセージを締めくくる。
ただ、ある意味この第三部はベタで先が読めてしまうけどね。
それでも現地フィリピンに実際に作ったという大玉トマト畑は美しいし、
何よりも正男に扮する大地康雄の稲刈り姿が感動を誘う。
その役者魂を見せてくれると同時に、
農業がいかに重労働かということがよく分かる映画になっていた。
社会性と娯楽性の融和……
大地康雄、その真摯な姿には拍手を送りたいね」


            (byえいwithフォーン)

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