ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『恋するトマト』

2006-04-02 13:15:13 | 新作映画
----かわいいタイトルの映画だね。
また新人女性監督の作品?
「そう思うでしょ。
ところがこれが全然違っていて、
もう今年67歳の大ベテラン・南部英夫監督の作品なんだ。
主演が大地康雄。
しかも企画、脚本、製作総指揮も兼ねているというから驚き」

----大地康雄って『蝉しぐれ』に出ていたけど、
最近あんまり見かけなかったよね?
うん。この作品に賭けていたんだなってことが
これを観てよく分かった。
彼がそのようなバックステージも務めていることはまったく知らずに観ていて
それでも、その情熱はビシビシ伝わってきたもの」

----どういうお話ニャの。
「主人公は45歳の独身男性、野田正男(大地康雄)。
霞ヶ浦に隣接する田園地帯に、
年老いた両親と田畑を耕して暮らしている。
気が優しくて純朴な彼だが、見合いの度に断られ続けている」

----へぇ~っ。それはどうして?
「つまり、農業をやろうという女性が現れないんだね。
今日もまた、田舎暮らしに憧れているという佳子(富田靖子)との縁談が破談。
やむなくフィリピンパブで働くリバティ(ルビー・モレノ)と結婚するために、
結納金を手にフィリピンに渡ったが……。
と、ここまでが大きく分けて第一部かな」

----えっ、そんなに話が続いていくの?
「そう、プレスとかを全く読んでいなかったため、
この映画が、どんな話でどう転がっていくのかまったく見えなかった。
ただ、プレスのページをぱらぱらとめくると、
畑の中で日に焼けてにこやかな大地康雄とフィリピン女性(アリス・ディクソン)。
これはおおらかな農業讃歌かなと思っていただけにびっくり。
映画は、この後、思いもかけぬ方向へドラマチックに突き進んでゆく。

※ネタバレ注
結局、正男は結婚詐欺に遭ってしまう。
リバティの家族に持参金をダマし取られ、
日本に帰る意欲もなくし、
フィリピンで浮浪者になってしまう。
そんな彼に仕事を回したのが日本人の中田(清水紘治)。
フィリピン女性を日本に送り込むブローカーである彼の元で働き始めた正男は、
だんだんとヤクザの体質に変貌してゆく。
ここまでが第二部。
そして第三部は……」

----あっ、そこまででいいよ。
これ以上聞いたら、観る楽しみがなくなる。
でも、大地康雄はどうしてこういう映画を?
「かつて彼が茨城県の独身の農家の長男の人々を取材したとき、
彼らが何回見合いをしても相手にことごとく断られていて、
『両親も年なので近い将来は人手不足になり農業をやめざるを得ない』と
自分たちの現状を朴訥に話す、その心の叫びに絶句したとか。
以下、大地康雄のコメントを紹介すると
『農家の長男として生まれたというだけでなぜ人並みに結婚できないのか?
まして食べ物を作るという人間にとって一番大切で尊い仕事をしている人たちが、
なぜ人生に失望して生きていかねばならないのか?』
『一番肝心な食べ物を作る人間がいなくなったら日本はどうなるのか』」

----mmmmm。スゴく重いね。
「確かに。ただね、この作品はエンターテイメントとしてもオモシロい。
先ほどの第一部はコメディ風味の作り。
なかでも村田雄浩とのかけあいは『ミンボーの女』を思わせる。
ところが第二部では一変してハードな役作り。
人生を半ば諦めた男の凄みがよく出ている。
そして第三部はラブロマンスを交えて
この映画の社会的なメッセージを締めくくる。
ただ、ある意味この第三部はベタで先が読めてしまうけどね。
それでも現地フィリピンに実際に作ったという大玉トマト畑は美しいし、
何よりも正男に扮する大地康雄の稲刈り姿が感動を誘う。
その役者魂を見せてくれると同時に、
農業がいかに重労働かということがよく分かる映画になっていた。
社会性と娯楽性の融和……
大地康雄、その真摯な姿には拍手を送りたいね」


            (byえいwithフォーン)

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