ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『聯合艦隊司令長官・山本五十六』

2011-12-11 00:11:13 | 新作映画

----この映画、今年一番の“驚き”と言っていたよね。
ツイッターで、おおよそのことは分かったけど、
ブログではそこを詳しく…。
「うん。
東映が作る戦争映画って
これまで“勇ましさ”が前に出ていて、
ことの是非はともかく好戦的な印象が強かった。
そんな中、たとえば『男たちの大和 YAMATO』のように、
戦闘シーンを徹底して描くことで
戦争の残虐さを浮き彫りにするなど、
作家サイドの死相を織り込ませることがあっても
こういう形での主張を試みた戦争映画は、ぼくが観た限りでは初めて。
これは、戦争映画というよりも
むしろ反戦映画。
しかも、今の時代とリンクしている」

----どういうところが?
聯合艦隊総司令官・山本五十六って真珠湾攻撃を行った人でしょ?
「ぼくは日本史には明るい方じゃないけど(汗)。
この映画を観る限り、
山本五十六は
日独伊の三国同盟にずっと反対していたこと、
その理由として、国力が遥かに上のアメリカと一戦を交えることは
何が何でも避けるべきだとの信念を持っている人として描かれている。
そのため、海軍中央と衝突し、
また好戦的な一部の部下からは指令を無視されたりもする。
真珠湾攻撃の際にも、後々のことを考えて
アメリカに宣戦布告を伝えたかを何度でも確かめる。
この真珠湾攻撃も、
空母を撃沈することでアメリカの武力を一気に低下させようというのが理由。
それも最終の目的は、
戦争が長引くと日本には不利に働くゆえ故、
とにかく早く講和に持ち込もうというモノ。
だからこそ、
五十六の狙う空母が湾内にいなかったことから、
周囲は勝利に酔うも、
彼はこの真珠湾攻撃を決して成功とはとらえていない」

----へぇ~っ。
でも、国民は大喝采したんだよね。
「うん。
当時の国民は、
不況にあえぎ、雇用不安と所得格差に苦しんでいた。
この閉塞状況から抜け出し、なんとか風穴を開けたい。
それには石油の全面禁輸で
自分たちを苦しめているアメリカを叩けばいい…
と、まあこういう風に世論が動いていったんだね。
さてそうなると、
その尻馬に乗るのが新聞を始めとするマスコミ。
売れるためには、世の中の人々が望む記事を書けばいい。
かくして、軍部、マスコミ、国民が一体となって
アメリカとの戦争に突入していくんだ。
この映画は、その<戦争への道>をこれでもかというまで
徹底して見せつける。
こんな東映の戦争映画、ぼくはこれまで観たことがない。
戦争映画と言えば情緒を盛り上げるために必ず描かれていた
“銃後を守る妻”もここには一切なく、
家族は山本五十六と一緒の食事のシーンで出てくるのみ」

----確かにそれは新しいニャあ。
「もっと言えば、
この映画には感情を左右する音楽が用いられず、
ほぼ言葉だけで見せていく。
人によっては映画として物足りなく感じるかもだね。
戦争シーンだって、全然派手さはなく、
そのほんの一部を切り取って描くだけ。
なにせ、戦争で死ぬ人がたったひとりしか描かれないんだから」

----それも珍しい。
監督はだれニャの?
「今年、
『八日目の蝉』で気を吐いた成島出
逆にプレスを読んで分からないのは。
『あの戦争以後、あれほど美しかった日本の風日本の風景や、
日本人の心は一体どこに行ってしまったのか。
敗戦を機に自己批判と反省を繰り返すと同時に、
一番大切なものまでも否定してきたのではないか』の一節。
この映画は、それどころか、
閉塞状況で理性的判断を失う国民と
それを利用する軍中央部、マスコミが描かれ、
今も昔も変わらないと言っているように
ぼくには思えたね」




                    (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「こういう戦争映画もありなのニャ」ぱっちり

※一種の日本人論だ度

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは。 (たいむ)
2011-12-23 16:38:10
いちおう地元なんで、初日に見てきました。
「男たちの大和・・」のような戦争映画を期待すると、あまりにも地味に感られる気がしましたが、軍とか政治家とかだけでなく、無責任で無知な民意みたいなものが描かれているところが印象に残り、良かったと思いました。

「どこで間違ったのか?」「何に負けたのか?」という玉木くんの語りにぐっと来てしまいました。

■たいむさん (えい)
2011-12-25 19:40:10
こんばんは。
地味な映画でしたね。
東映の首脳部はこの映画をどう思っているのか気になります。
今日、東京新聞で知ったのですが、
日露戦争の頃、当時の新聞は
開戦を熱望する民意におもねって政府を駆りたてたとか…。
この映画ほど、新聞を会社の利益という立場から描いた作品は
これまで観た記憶がないです。
いまの、3.11以降だからこそ作られた映画、
そんな気がしました。
こんばんは (ノラネコ)
2011-12-27 17:44:43
そうですね、これは予想していたものとまるで違いました。
戦争スペクタクルではなく、これほど冷静に時代を俯瞰した作品だとは。
70年前の日本に平成が見える皮肉。
ちょうど「坂の上の雲」の最終回と前後して観たので、明治維新からの一つの流れとして捉えられて中々興味深かったです。
東映の戦争映画ってあまり観ないのですが… (ナドレック)
2011-12-29 20:59:41
こんにちは。
成島出監督なので、信頼度100%で観てきました:-)
私はとても満足でしたが、たしかに人によっては物足りないかも知れません。
『あの戦争以後、あれほど美しかった日本の風景や――』という文言は公式サイトにもありますが、作品にそぐわないですね。東映の首脳部を騙くらかすために企画書の冒頭に書かれていたのでしょうか
■ノラネコさん (えい)
2012-01-01 21:25:07
こんばんは。

でしょう?
思っていたものとはまったく違いました。
CG全盛で、
その気になれば、
戦争スペクタクルを撮れる環境にありながら、
あえてこのようなアプローチを選んだ成島監督に感服です。
■ナドレックさん (えい)
2012-01-01 21:27:22
こんばんは。
緻密な分析に基づいたご紹介、
じっくりと拝見しました。
おっしゃるように、
あれは“企画書”で首脳部を納得させたのかも…。
いやあ、年末になって、なんだかスゴイものを見せられた気がしました。

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