ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『バベル』

2007-01-24 12:02:03 | 新作映画
(原題:Babel)

----アカデミー賞ノミネートが発表されたね。
この『バベル』って7部門でノミネートでしょ?
「うん。
今日は最初は『ロッキー・ザ・ファイナル』のお話にしようと思ったけど、
急遽、こちらに」

----『バベル』って「旧約聖書」にも出てくるよね。
確か、神に近づこうとした人間たちが
天まで届く塔を建てようとして、
神の怒りを買って、言葉を乱され、世界をバラバラにされたと言う…。
「おいおい。フォーンは本当に猫なの(笑)。
この映画の監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは
これまでにも『21g』などで、
いくつかのエピソードを並列させ、
しかも時制をバラバラにして描く手法を取っている。
この『バベル』はその集大成とも言うべき作品」

----そう言うのって、観ていて混乱しない?
「そこがこの監督の才能だね。
最初は、あれって思っても、
その混乱は頭の中ですぐに軌道修正ができる程度。
しかも、それが脳を刺激ししてかえって心地よいんだ、
もちろん、ラストではすべてのピースが繋ぎ合って
きっちりと大団円へと持っていくしね。
さらに言えば、エピソードとエピソードを
同じ方向線、類似した効果音で繋いで見せたりもする」

----それはゾクゾクするよね。
ところで今回はどんなお話なの?
「モロッコで山羊飼いの少年によって放たれた銃弾。
それがアメリカからの旅行客に当たってしまう。
この旅行客夫婦(ブラッド・ピット&ケイト・ブランシェット)は
過去のある事件が基で夫婦仲に亀裂が入っている。
彼らは自宅に子供たちを残してきているんだけど、
乳母であるメキシコ人の女性(アドリアナ・バラッザ)は
息子の結婚式にするべく子供たちをつれて国境を超える。
一方、東京では一人の聾の女子高生(菊地凛子)が
自分の中の心の空白を埋めようともがいていた」

----あれっ?東京のエピソードだけ浮いていない?
「プレスにはこう書いてあった。
『モロッコの片隅で偶然放たれた一発の銃弾が
アメリカ、メキシコ、日本の孤独な魂を繋ぎ合わせてゆく』。
ぼくはこれを文字どおり解釈していたものだから、
日本で彼らの命が救われるのかと…。
役所広司は医者の役かななんて
思って観ていたらまったく違ったね」

----だって、それじゃニコラス・ケイジ『ロード・オブ・ウォー』だ(笑)。
「正解は菊地凛子演じる女子高生の父親役。
日本からは、あと二階堂智が出ているんだけど、
彼のたたずまいがなかなか魅せてくれる。
アクの抜けた渡部篤郎って感じかな」

----噂の菊地凛子は?
「あの役はオスカー会員受けしそうだね。
本人いわく『この役は私にしかできない、そう思いました』と語っているけど、
彼女は人生の勝負に出たね。
目線の強さもさることながら、あそこまで体を張った演技は
ちょっとやそっとの覚悟でできるものではない」

----それって、どういうこと?
「喉まで出かかってはいるんだけど、
やはり言えないなあ。
ある映画(※ネタバレ気味=それでもいい人は下欄参照)を引用すれば楽なんだけどね。
ぼく個人としてはアドリアナ・パラッザの熱演に目を見張ったんだけど、
彼女も助演女優賞にノミネートされていたね。
主演男優賞ノミネートも含め、
今年は有色人種にスポットが多く当たっているみたい」

----この映画がオスカー取る可能性はあると思う?
「昨年、似た手法の映画に『クラッシュ』があったし、
近年、ヘビーなテーマの作品の受賞が続いているから
今年は『ドリーム・ガールズ』かと思ったら、
こちらの作品賞ノミネートはなし。
現代の混沌とした世界を、
言葉が異なるいくつかの地域に区切って描き、
その文化の違い、貧富の差を提示しながら、
夫婦、兄弟、姉と弟、父と娘、娘と母、叔母と甥、さらには乳母と、
家族を軸に、愛や性や暴力など、
さまざまな断面を切り取ってゆく。
そしてそれらカオスの果てに生じた絶望の淵から
再生への希望を覗かせるんだから、
やはりこれは稀なる傑作。
しかも監督の手法にピッタリあっている。
『ドリーム・ガールズ』が消えたことで
一躍、最有力に浮上してきた気がするな」



    (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「これは観なきゃ分からなそうだニャ」ぱっちり

※緊迫の143分だ度
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※注:今年のラジー賞最有力候補映画の前作の有名なシーン。
   続いてジム・ジャームッシュのある作品も。


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40 コメント

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観たいです! (ミッシ-)
2007-01-24 16:03:05
えいさんがバベルの試写会行かれたんですねー。
私も行く予定だったのですが行けなかったんです…。

イニャリトゥ監督の作品は大好きなので、
私も早いとこ見に行くつもりです!
返信する
■ミッシーさん (えい)
2007-01-24 23:24:21
こんばんは。

よくできた映画だと長さを感じさせない。
『ディパーテッド』と並び、
この作品も見応え十分で、
思わず引き込まれてしまいました。
ブラピはアカデミーにこそノミネートされませんでしたが、
久しぶりのアート系映画への出演で、
本来の実力を遺憾なく発揮していました。
返信する
Babel (rambler)
2007-01-25 04:05:27
★ブログの方へのコメントありがとうございました。

 この映画、「ディパーテッド」「硫黄島からの手紙」「リトル・ミス・サンシャイン」、「クイーン」が作品賞候補となり、「ドリームガールス」がこけた事を見ても、アカデミー賞、特に作品賞の在り方が、変わって来ている感があります。

 ただ、同じようにアルトマン・スタイルであってもこの映画に比べたら「クラッシュ」は、LA内輪話にしか思えない(笑)。早くもこの監督の次回作が楽しみです。
返信する
■ramblerさん (えい)
2007-01-25 23:09:32
こんばんは。

ramblerさんの
「アカデミー賞主要部門ノミネート予測」
楽しく拝見させていただいてました。
しかし、見事な正解率ですね。

この『バベル』は
観終わって日が経つにつれて
感動が深まってゆくという、
(直情型の)ぼくにしては珍しいタイプの映画でした。

返信する
バベルよかったですよね (プリシラ)
2007-01-28 13:27:18
こんにちは。
えいさんも同じご意見みたいでとっても嬉しいです。いい映画でしたよね~。骨太という言葉がふさわしい。
時代はこれからラテンでしょうか?
返信する
■プリシラさん (えい)
2007-01-28 23:47:54
こんばんは。

コメントありがとうございます。
いま、映画公開前から
日本では「凛子」現象が起こっていますが、
これは公開されたら
大変な騒ぎとなりそうな気がします。
返信する
よろしくお願いします。 (やわらか映画~おすすめDVD~)
2007-01-29 22:46:42
トラックバックさせていただきました。(http://www.yawarakacinema.com/cgi-def/admin/C-010/cinema/tdiary/index.rbのほうです。)
本家サイト(http://www.yawarakacinema.com/)も、よろしくお願いします。
返信する
大傑作 (april_foop)
2007-04-05 00:29:35
3連投すみません。。

これは、本当に完成度の高い作品でしたね。
知識のないボクですが、メッセージ性といい、その見せ方といい、すごかったです。

菊池凛子本人の話を聞く機会もありましたが、意志の強さを感じさせる女優でした。
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■april_foopさん (えい)
2007-04-05 20:17:18
こんばんは。

菊地凛子にインタビューする機会があったと言うことでしょうか?
文字どおり体を張った彼女の演技は公開されると大騒ぎになりそうですね。
でも、あの目の演技だけでも胸をうつものがありました。
返信する
こんばんは。 (きらら)
2007-04-09 21:36:17
とっても素晴らしい作品でしたね
この監督の作品はどれもいいですが、本当に集大成という感じでした。
伝わってくるものが多くって、
静かななかに、まさに"緊迫した143分"でした☆

菊池凛子の影にかくれちゃっていた
メキシコのおばちゃんも良かったですねー。彼女の未来だけがシンパイです、、、
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