ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『最後の忠臣蔵』

2011-01-04 13:24:30 | 映画
----昨日は、三が日の最後ということで、
三社詣りの後、フォーンも一緒に映画館へ。
でも、まさか正月からこんな映画を観るとは…。
討ち入り切腹なんて、あまりにも年始にふさわしくないよね。
フォーンはあきれちゃった。
「う~ん。
ぼくも監督がテレビ出身の杉田成道だし、
まったく予定に入れていなかったんだけど、
年末から、あちこちで
『最後に凄い映画が現れた』という
絶賛の声が聞こえるものだから…」

----そうそう“号泣”という言葉もあったよね。
「うん。それだけに身構えていたんだけど、
いやあ、これは確かに泣かせる映画だったね。
しかも、物語で泣かせるのではなく、
“動く画”として泣かせる。
そういう意味では、まさに“映画”だね。
物語は、赤穂浪士、四十六士が切腹して主君に殉じた中、
ひそかに生き残ったふたりの男の物語。
ひとりは、討ち入りを後世に伝えるため逃がされた寺坂吉右衛門(佐藤浩市)。
その彼が、討ち入り前日に逃亡した瀬尾孫左衛門(役所広司)の姿を目にしたところから
物語は動き始める。
ふたりは、かつて命を捧げることを誓い合った同志。
なのに、なぜ?
しかしその理由は、観客に対してすぐ解き明かされる。
というわけで、この映画はいわゆるミステリーではなく、
汚名とともに、その後を生きていかねばならなかった孫左衛門の
それでも与えられた使命を全うしようとする
ひとりの男の生きざまを描いた作品となっている」

----そうそう。彼は大石内蔵助から
その隠し子を世間の目から逃れながら立派に育て上げるという
密命を与えられていたんだよね。
「うん。『これも時代だね』…で、
片づけてしまえないこともないけれど、
まったくそうとも言い切れない。
上意下達はこの現代でも、
会社に関わらず、絶対的なものとして組織内に残っている。
大石は言う『わしに命をくれ』。
孫左衛門は、今回の討ち入りによって武士として死に場所を得ていた。
ところがそれを取りあげられた上、
死の恐怖から討ち入り前に逃亡した…という汚名を着せられるわけだ。
これでもう想像がつくように、
映画のクライマックスは
その汚名が返上されていくシーンとなる。
かつて彼に罵声を浴びせていた者たちの詫び、そして賞賛。
この変化を内蔵助の娘・可音(桜庭ななみ)の嫁入りの行列の増幅で見せ、
それと共に、観客の感情の昂りも膨らんでいく。
原作を読んでいないから断言はできないけど、
これは映画ならではの効果だと思うね。
映画を知り尽くした脚本家・田中陽造ならではの仕事だ」

----観る前は“愛の物語”と思っていたんだよね。
「うん。
嫁入り前の別れのシーン。
可音を強く抱きしめる孫左衛門。
その時間を少しでも引き延ばしたいかのように、
カメラはゆっくりとゆっくりとふたりに近づいていく。
ここは長沼六男のカメラワークが息をのむ。
カメラで言えば、孫佐衛門と吉右衛門が唯一、刀を交えるシーンも秀逸。
人の背丈ほどもありそうな草むらの中。
横へ横へと位置取りしていくときの、溢れんばかりの緊迫美。
そうそう。ここは録音もよかったね。
もちろん、役所広司、佐藤浩市。
日本を代表するふたりの目を中心とした演技も。
可音に連れられた吉右衛門と孫佐衛門が
和解するシーンなんて、目の演技だけで泣けたからね」

----ふうむ。ニャるほど。
さすが、話題になるだけのことはあるってことだニャ。

           (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「フォーンも泣けたけど、最後は困るのニャ」
悲しい
※泣けるだけでなく、幸福感に満たされる映画だ度

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
明けましておめでとう! (パピのママ)
2011-01-04 17:29:14
昨年はTBをたくさん頂戴し、本当にありがとうございました。
たくさん試写会でご覧になっているえいさんには敵いませんが、今年もお金と暇の許す限り映画館に通いたいと思っております。
昨年えいさんが絶賛されてました「セラフィーヌの庭」、地方にも上映されて鑑賞できました。
今年も相変わらずのトラバだけになりそうですが、宜しくお付き合い下さいませ。
返信する
おぉ~! (miyu)
2011-01-04 18:09:55
いつも先行してご覧になられてるえいさんですから、
評判を先に耳にしてご覧になられるとまた
違った感じがするんじゃないでしょうか?
確かにこれは泣けてしまいましたね(。´Д⊂)
でも、泣けるだけの映画ではなく、
久し振りに地味だけども見応えのある時代劇だったかなと
思いましたね。少しセンチメンタル過ぎるところは
ありましたが、これはこれで良かったかなと思いました。
返信する
■パピのママさん (えい)
2011-01-05 12:00:20
あけましておめでとうございます。
『セラフィーヌの庭』はまさかあのような形に転がっていくとは、
まったく予想だにしない映画でした。
やはり基本は人物。人間が物語を生み出していく典型的な例でした。
今年もこのような映画との出会いを願いつつ、
よろしくお願いします。
返信する
■miyu さん (えい)
2011-01-05 12:05:06
こんにちは。
はい。どういうところが、そんなにみんなの胸を打ったのか
興味津々で臨みました。
ぼくは普通に名誉回復のドラマとして観ていたのですが、
愛の方に比重を置かれている方もいるようで
本作のセンチメンタルな部分を考えると、それも分かる気もしました。
返信する
こんばんは (ノラネコ)
2011-01-05 20:53:42
えいさんのコメに驚きました。
だとすると「曽根崎心中」との絡みも田中陽造のオリジナルでしょうか。
恐らくあの部分が無いと、孫左衛門の選択は単純に武士の忠義の話になってしまうところを、「忠臣蔵」と「曽根崎心中」という異なる価値観を代表する2作品を絡めた事で、一人の武士の中にあるいくつもの葛藤が融合する、非常に深いラストとなったと思うのです。
人間とは、侍とは、なんとも矛盾した存在。
良い意味で実に曖昧な、日本映画らしい素晴らしい作品でした。
返信する
■ノラネコさん (えい)
2011-01-09 17:18:01
こんにちは。

>「曽根崎心中」との絡みも田中陽造のオリジナルでしょうか。

原作を読んでないので断定できないですが、
おそらくそうではないでしょうか?
これは
四部作からなる池宮彰一郎の連作小説集「四十七人目の浪士」に所収されているとのことですし、
ここだけ「曽根崎心中」を比喩として使うような書き方をしているとは思えないので…。
(違っていたらごめんなさい)。
まあ、その正誤はともかく、
これは田中陽造の力に負うところが大きい映画だったと思います。
返信する
こんばんは~♪ (kira)
2011-01-10 21:12:48
題材としては本来男性向けのテーマだと思いますが、
今やこういう男のセンチメンタルな美学は、
男女を超えたものかもかも知れません。
行間の美を感じさせる脚本、演出に、
十分応えた役者陣、と言う感じでステキな作品でした。
返信する
■kiraさん (えい」)
2011-01-16 23:25:58
こんばんは。

お返事が遅くなりごめんなさい。
マスコミの年末ベストにはあまり絡んでこなかったのは、
もしかしたら、その「センチメンタル」が理由かもしれませんね。
ぼくは、こういう「情」の映画、
決して嫌いではないです。
返信する
Unknown (なな)
2011-01-20 23:17:03
2011年もよろしくお願いいたします。

私も正月早々この映画を観てしまったクチです。
年明けよりも年末に観た方がよかった雰囲気ですが
しっとりと重厚な中に骨太なものも感じられ
確かに役者の繊細な目の演技や
カメラワークが秀逸でしたね。
「愛の物語」を最後まで期待しつつ観たのですが
やはり最後はあれでよかったのでしょうね。
返信する
■ななさん (えい)
2011-01-23 23:55:12
こちらこそ、よろしくお願いいたします。

そうですね。
これは年末に観た方がよかったです(雰囲気的に)。
晴れやかな気分で新しいことを始めるというよりは、
一つのことをしまい終えるという感じの映画でした。
ラストは、まあ、原作ありきですので仕方ないでしょうね。
でも、切腹も心中も、考えただけでいやだなあ。
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