ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『春の雪』

2005-09-05 19:11:32 | 新作映画
----これって三島由紀夫「豊穣の海」の第一部を映画化したんだよね。
「輪廻転生」がテーマだと思ったけど、
このチラシでは「究極の純愛物語」となっている。
「ま、何をもって<純愛>と言うかだね。
この物語は、
侯爵家の子息・清顕と伯爵家の令嬢・聡子の愛を描いたものには間違いないけど、
最初に原作を読んだ時は、ふたりの<駆け引き>が印象に残った記憶がある。
清顕は自分に好意を寄せる聡子を親友の本多に近づけようと、
わざと自分の性体験を書いた手紙を送る。
しかし、すぐに思い直し、聡子の乳母・蓼科に電話を入れ、
封を切らずに処分してくれと言う。
ところが蓼科は清顕との約束を破り、手紙を彼女に渡してしまう。
その事実を知らずに聡子に接していた清顕は
後に自分がダマされていたと知り、聡子と距離を置くようになる」

----ニャるほど。自我の強い若者ってわけだ。
「ところが、聡子が宮家に嫁ぐことが決まって、
清顕は初めて彼女への愛を痛切に感じる。
当時、宮家の婚姻には天皇の許可=勅許が必要とされ、
それを取り消すことはできなかったんだ。
それにも拘らず、彼は聡子と逢瀬を重ねる。
しかし、その<危険な愛>の果てに待つのは…という物語だね」

----ふむふむ。お話の方は分かったけど、映画としてはどうだったの?
監督は行定勳。と言うことは『北の零年』に続く大作だよね。
「三島由紀夫原作の映画化と言うのは、ある種の<勇気>がなくてはできない。
特に『春の雪』は、一つひとつの選び抜かれた言葉が情景を映し出し、
その中にそれぞれの人物の心理を紡いでゆく」

----それって映画そのものだ。
「そう。特にこの小説の場合は、その表現があまりにも精緻なものだから、
すでに原作を読んでいる人にとっては、
映画も観たような気になってしまうわけだ。
原作は原作。映画は映画。もちろんこれは基本だけど、
この小説は、文字で映像を書いているようなところがあるから、
なかなか原作と切り離して映画を観るのは難しい」

----ふうむ、分かったような分からないような。
ところで撮影に『花様年華』のリー・ピンビンを迎えた効果はあったの?
「冒頭の長回しは見事だったね。
監督の意気込みを感じさせられた」

----キャスティングは?
「意外にも妻夫木聡はピッタリだったね。
強烈な自我が生む恋の未熟、恋の病に取り憑かれる熱情。
そのいずれをも<表情>で見せることができる。
そうそう、彼の友達・本多役の高岡蒼佑も
『パッチギ!』とは全く異なる青春像を演じて好感が持てた」

----あれっ?竹内結子は?
「う~ん。彼女はいるだけで絵になるし…。
演技はあまりしなくてもいいと言うところがあるからなあ。
それでも、自分の意に添わぬ祝福の言葉を聞いている時の表情の崩し方など、
観るべきところは多々あったな。
あっ、話変わるけど、あの主題歌はどうなんだろう?」

----宇多田ヒカルだっけ?
「そうそう。彼女にしてはポップさを抑えてあるとは言え、
この大正時代の悲恋を描いた映画が終わった後に流れるには
あの歌声はあわない。
急激に現実に引き戻されてしまう」

----ニャるほど。『NANA-ナナ-』のようなわけにはいかないわけだ(笑)。
     (byえいwithフォーン)

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22 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
■kimion20002000さん (えい)
2006-06-15 23:03:09
こんばんは。



輪廻転生がテーマの原作だけに、

続編に彼が出るとしたら、

『奔馬』の主人公ということになるのかな?

興味津々です。
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妻夫木 (kimion20002000)
2006-06-14 18:56:36
TBありがとう。

妻夫木君は、この演技で、若手のトップ3に躍り出たと思いますね。続編にどうからむのか(ちゃんと制作にはいれば)、楽しみです。
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■bakabrosさん (えい)
2006-06-02 01:13:44
こんばんは。

映画は映画で、小説は小説と言いたいところですが、

この原作は、あまりにも言葉が魔力を放っています。

映画化したら、このような結果(普通のラブストーリー)になるのは、

まあ、やむを得ない気も。



着付けのことはよく分かりませんが、

竹内結子は和服が似合う人だと

ぼくもそう思います。
返信する
今頃観てきました (bakabros)
2006-06-01 20:00:01
原作は読んでいないのですが、映画は美しいながらも普通のラブストーリーという感じで、ますます原作への興味がわきました。

妻夫木聡さんが好きなので、学帽とかふんどし姿が嬉しかったです☆

竹内結子さんは、凄く色っぽくてびっくりしました。着物が似合いますね~!
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■舵さん (えい)
2005-11-15 20:15:46
この映画って、

深く考え始めると頭の中が混乱してしまいます。

清顕という人間は、

映画で描くにはどうアプローチすればよかったのか?

三島由紀夫が生きていたらどう思ったのでしょうか?
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Unknown ()
2005-11-15 10:34:36
トラックバックありがとうございました。

そう、清顕はガキ、子供なんですね。

屈折した感情表現をする、いってみれば難しい役どころだっただけに、登場人物に共感できない、って意見多々ありましたが。

はじめに三島由紀夫ありき、の映像化だっただけに、ちょっと残念です…
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■tacossさん (えい)
2005-11-09 18:00:00
こんにちは。



ぼくもそう思います。

エンドクレジットで歌を流すのは、あまりにも安易。

そろそろ止めた方がいいと思うのですが…。
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主題歌は・・・ (tacoss)
2005-11-09 03:03:52
蝉しぐれみたいに、

予告編や宣伝のためにだけ流して、

本編では流さない!

みたいな手法をとると良かったかもしれませんね。
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■chatelaineさん (えい)
2005-11-08 17:58:57
正直言うとぼくは飯沼よりも

月光姫のエピソードを出さなかったことの方が気になりました。

もし、ここをきっちり描いていれば、

ブログの大方を占める「清顕=子供っぽい」という

彼へのマイナス評価もだいぶ変わり、

その屈折した心情がもっと浮かび上がるものと思われるのですが…。



冒頭のシーンは、まるでシェークスピアの悲劇を観ているかのようでした。
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こんばんは。 (chatelaine)
2005-11-08 02:39:05
飯沼、出ていなかったですね。あと、月光姫の死も、当然出てくるものだと思っていたので、少し驚きでした。

あまり詰め込まなくて正解、という気もしますが…(笑)

あと、私も冒頭のシーンはとても好きになってしまいました。

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■ふくちゃんさん (えい)
2005-11-05 22:42:48
こんばんは。



コメントありがとうございます。

映画は映画、原作は原作……と

割り切っているつもりなのですが、

初めから難しいことが決まっている

三島文学の映画化にチャレンジした

行定監督の中に、

三島文学を組み伏せてやろうと言う野心があったのかも…

と、ついつい辛く採点してしまいました。



宇多田ヒカルは

(少しだけど)あの大正の世界に酔っていた自分を

いきなり平成の今に引き戻してしまいました。
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TBさせていただきました (ふくちゃん)
2005-11-05 17:08:25
映画を観終わったあと、原作を読んでみたいと思ったのですが、えいさんの記事を読ませていただいて、ますますその気持ちが強まりました。

なかなかこの映画の登場人物(特に清顕)に共感できなかったのですが、原作を読めば、もうちょっと彼の気持ちが理解できるかな・・・と。



やっぱりヒッキーの主題歌は、この映画のラストには合わないですよね。みなさん、同じ意見なので、あらためて納得です。
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■にゃんこさん (えい)
2005-11-03 23:55:38
こんばんは。



この映画、「清さま」の子供っぽさが

けっこう叩かれているようですね。

でも原作を読んでいるときはそこまで感じなかったです。

どちらかと言うと自尊心のかたまりとして描いてあり、

書きながらも出さないように手配した手紙のくだりなんかでも、

もっとその屈折した心情が書きこんであります。

でも映画化では結ばれない<恋>に重きを置いて、

いわゆる『ロミオとジュリエット」にしてしまった。

原作に込められたテーマが多すぎて

そうせざるを得なかったのでしょうが、

やっぱり三島の映画化は難しいですね。



でもさすが若尾文子は貫禄でしたね。

返信する
19歳はまだまだこどもで・・・ (にゃんこ)
2005-11-03 23:28:48
ヒッキーの曲が流れ始めたら、我慢の限界になりました^^;;;

時代背景は好きなのですが、あまりにも子供すぎる清さまの恋愛に

拒否反応出ちゃったようです(爆)

でも、女性ってほんっとに強いなぁ^^;;;

と、脇を固めた女優陣に改めて感心してました(笑)
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■ぐるさん (えい)
2005-11-02 10:15:35
はじめまして。



確かに<飯沼>が出てきてないと言うことは、

この作品だけで完結させようとしているのかもしれませんね。

三島由紀夫の原作を読んだ感触とはずいぶん違いますが、

独特の世界観を構築はしていたと思います。

こういうとき優れたカメラマンがついていると、

やはり違いますね。



トラックバックの方、確認してみましたが

まだのようでした。

このシステム、ときどきうまくいかなことありますね。

もし、お時間がありましたら、

お手数ですが、再度よろしくお願いします。
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初めまして (ぐる)
2005-11-02 05:37:19
映像がとても綺麗で、わりとすんなり

その時代に入っていけた感じがしました。

続編はやっぱりないんでしょうかね?

個人的に四部作の中では第2巻が好きなので

続編があるといいなぁと思っております。

TBさせていただきました。

不都合ございましたらお手数ですが

削除願います。ではでは。
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■ミチさん (えい)
2005-11-01 10:51:11
こんにちは。



最近の日本映画って、

エンディングでテーマ曲が流れると言うのが多すぎると思います。

もちろん、それがテーマとぴったり合っていると文句はないのですが、

もっと映画に寄り添うような使われ方が見たいです。

そういう意味では『ロード・オブ・ウォー』での

挿入曲の使い方は久しぶりによかったですよ。
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私も・・・ (ミチ)
2005-10-31 07:03:36
こんにちは♪

ヒッキーの歌のお話になっていますが、私もちょっとガックリでした。

もともと売れっ子歌手がテーマ曲を歌うということにはちょっと反対派なんですけどね。

「イメージソング」程度にしていただければよかったなぁ。

妻夫木くんは心配していたんですが、予想以上にはまっていたと思います。
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■minoriさん (えい)
2005-10-30 11:30:38
はじめまして。



ぼくもminoriさんのブログを拝見させていただきました。

オモシロい切り口でとても楽しめました。

これからもうかがいたいと思います。

よろしくお願いいたします。
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はじめまして (minori)
2005-10-29 21:09:02
私もウタダさんで最後ガクっときた

一人です。まぁ私は元々ダメなせいも

あるんでしょうが。



TBさせていただきました。

また遊びにきますね。

どうぞよろしくです♪
返信する
■wakoさん (えい)
2005-10-13 22:05:51
あの曲は、彼女にしては暗めの曲ですが、

それでもやはり映画を観た直後に流れるのは、

雰囲気を壊していますよね。



その点、『蝉しぐれ』はいい判断でした。
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Unknown (wako)
2005-10-13 06:06:12
私も宇多田の曲をエンディングに流すのは、キツイな~と正直思っていました。

同じ意見の方がいて、ほっ。
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