-----『カミュなんて知らない』……。ぼくも知らないニャあ。
「ふうん、そういうもんかなあ。
ぼくらの頃には、カミュとサルトルは必読書だったんだけどね(遠い目)」
-----だからそれ、何なの?人の名前?
「そう。実存主義の作家の一人。
もっとも有名なのが『きょう、ママンが死んだ。』で始まる小説『異邦人』。
あのルキノ・ビスコンティも映画化しているよ」
-----それとこの映画とどう関係があるわけ?
「いまの学生にとって、実存主義なんて遠い昔のお話。
自分たちにはまったくと言っていいほど関係ない。
そう言えば80年代には構造主義なんてのも流行ったけど、
これもいまの若い人には関係ないんだろうなあ…」
-----話がそれてるよ。
「あっ、ごめんごめん。『異邦人』では主人公ムルソーはアラブ人を射殺して、
その動機を『太陽が眩しかったから』と答える。
一方、この映画はと言うと、
2000年5月に愛知県豊川市で起きた高校生による老婆殺人刺殺事件を、
その犯人の証言を手がかりに、
都心のキャンパスに通う学生たちが映画化する様子を描いたものなんだ」
-----その事件の犯人の動機は何だったの?
「彼はこう証言している。
『人を殺したらどうなるか実験してみたかった』……」
-----もしかして彼、狂ってる?
「ポイントはそこなんだ。
果たして殺人を犯したとき彼は正常だったのか、それとも異常だったのか?
ここで犯人と世代が近い撮影クルーたち、
とりわけ監督・松川(柏原収史)と助監督・久田(前田愛)の間に
決定的な意見の相違が生まれる」
-----ふむ。ドラマとしては見応えありそうだね。
監督は柳町光男だっけ?彼の映画にしては構成が凝ってない?
「彼は92年の『愛について東京』以来、10年以上も劇映画を撮っていない。
でも、2001年度から03年度まで、早稲田大学で客員教授をやっているんだ。
映像ワークショップと言われるそこでの経験がこの映画を生んだようだね。
もともと映像関係の世界を志す学生たちが主人公となっているだけあって、
彼ら学生たちの会話には、さまざまな映画のタイトルが飛び出す。
映画ファンならそれだけで嬉しいところだけど、
もっと楽しませてくれるのは、そういった会話ばかりでなく、
キャラクター設定や撮影手法まで、
かつての名画を大胆に取り入れているところなんだ」
-----それはたまらないね。もっと具体的に教えてよ。
「まず冒頭だね。
映画は、学生たちが<トップシーンをワンカットで撮った映画>の話をしているところからスタート。
ところがこの映画そのものもワンカット6分半の長回し。
しかもロバート・アルトマンが『ザ・プレイヤー』でやったのと同じに、
そのワンカットの中で、登場人物すべてを紹介してしまうんだ。
あの映画『ザ・プレイヤー』ではオーソン・ウェルズの『黒い罠』の話をしていたけど、
この『カミュなんって知らない』では
『黒い罠』と『ザ・プレイヤー』について話している」
-----うわあ、凝ってるなあ。そんな撮影大変そうだね。セットなの?
「いやいや、これがオールロケ。
しかも9割以上は、立教大学のキャンパスを使っている。
このトップシーンだけでゾクゾクくること間違いないよ。
さて、この中の主人公の一人、監督役の松川は
ユカリ(吉川ひなの)という女性にしつこくつきまとわれている。
あまりにも執拗で狂気の色を帯びてくる彼女を、
周りはある映画のヒロインに例えるんだ。
さあ、フォーンには分かるかな?」
-----はい。『アデルの恋の物語』。
「おおっ、正解。なかなかスゴいじゃない。
また一方では、
映画を教えている中條教授(本田博太郎)が、
ひとりの美人女子大生・レイ(黒木メイサ)に心奪われるエピソードもある。
彼はなんと白塗りのお化粧をして、彼女との会食に向かうんだ」
-----これは簡単。『ベニスに死す』だね。
「その通り。で、話はそのような教授・学生たちのエピソードを
いくつも紡ぎながら進んでいくんだけど、
やがて近年の日本映画屈指と言ってもいい衝撃の映像が現れる」
-----ちょっと待って。ぼくは聞いてもいいけど、
ここからは※ネタバレ注意だよね。
「そういうこと。
この『カミュなんて知らない』は、学生たちが撮っている劇中劇の映画
『タイクツな殺人者』の殺人シーンでクライマックスを迎える。
ここでは池田(中泉英雄)演じる犯人の高校生が老婆を殴打した後、
刺殺するわけだけど、
その撮影法が、観る者を混乱に陥れてしまう」
-----どういうこと?
「劇と劇中劇の境界線、あるいは虚と実の壁が壊れて、
自分が今観ているものが、何か分からなくなってくるんだ。
ここで今起こっているのは、劇中劇なのか?
いや、<監督・柳町光男>による新たな映画なのか?
それとも、劇中劇を演じていた池田が演じているうちに暴走していったのか?」
-----それはまたとんでもない体験をしたね。で、結果は分かるの?
「うん。エンドクレジットのバックの映像でね。
さすがにそれが何かは明かせないけど、
この殺人シーンは長谷川和彦『青春の殺人者』の<母親殺し>以来の衝撃だね」
(byえいwithフォーン)
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「ふうん、そういうもんかなあ。
ぼくらの頃には、カミュとサルトルは必読書だったんだけどね(遠い目)」
-----だからそれ、何なの?人の名前?
「そう。実存主義の作家の一人。
もっとも有名なのが『きょう、ママンが死んだ。』で始まる小説『異邦人』。
あのルキノ・ビスコンティも映画化しているよ」
-----それとこの映画とどう関係があるわけ?
「いまの学生にとって、実存主義なんて遠い昔のお話。
自分たちにはまったくと言っていいほど関係ない。
そう言えば80年代には構造主義なんてのも流行ったけど、
これもいまの若い人には関係ないんだろうなあ…」
-----話がそれてるよ。
「あっ、ごめんごめん。『異邦人』では主人公ムルソーはアラブ人を射殺して、
その動機を『太陽が眩しかったから』と答える。
一方、この映画はと言うと、
2000年5月に愛知県豊川市で起きた高校生による老婆殺人刺殺事件を、
その犯人の証言を手がかりに、
都心のキャンパスに通う学生たちが映画化する様子を描いたものなんだ」
-----その事件の犯人の動機は何だったの?
「彼はこう証言している。
『人を殺したらどうなるか実験してみたかった』……」
-----もしかして彼、狂ってる?
「ポイントはそこなんだ。
果たして殺人を犯したとき彼は正常だったのか、それとも異常だったのか?
ここで犯人と世代が近い撮影クルーたち、
とりわけ監督・松川(柏原収史)と助監督・久田(前田愛)の間に
決定的な意見の相違が生まれる」
-----ふむ。ドラマとしては見応えありそうだね。
監督は柳町光男だっけ?彼の映画にしては構成が凝ってない?
「彼は92年の『愛について東京』以来、10年以上も劇映画を撮っていない。
でも、2001年度から03年度まで、早稲田大学で客員教授をやっているんだ。
映像ワークショップと言われるそこでの経験がこの映画を生んだようだね。
もともと映像関係の世界を志す学生たちが主人公となっているだけあって、
彼ら学生たちの会話には、さまざまな映画のタイトルが飛び出す。
映画ファンならそれだけで嬉しいところだけど、
もっと楽しませてくれるのは、そういった会話ばかりでなく、
キャラクター設定や撮影手法まで、
かつての名画を大胆に取り入れているところなんだ」
-----それはたまらないね。もっと具体的に教えてよ。
「まず冒頭だね。
映画は、学生たちが<トップシーンをワンカットで撮った映画>の話をしているところからスタート。
ところがこの映画そのものもワンカット6分半の長回し。
しかもロバート・アルトマンが『ザ・プレイヤー』でやったのと同じに、
そのワンカットの中で、登場人物すべてを紹介してしまうんだ。
あの映画『ザ・プレイヤー』ではオーソン・ウェルズの『黒い罠』の話をしていたけど、
この『カミュなんって知らない』では
『黒い罠』と『ザ・プレイヤー』について話している」
-----うわあ、凝ってるなあ。そんな撮影大変そうだね。セットなの?
「いやいや、これがオールロケ。
しかも9割以上は、立教大学のキャンパスを使っている。
このトップシーンだけでゾクゾクくること間違いないよ。
さて、この中の主人公の一人、監督役の松川は
ユカリ(吉川ひなの)という女性にしつこくつきまとわれている。
あまりにも執拗で狂気の色を帯びてくる彼女を、
周りはある映画のヒロインに例えるんだ。
さあ、フォーンには分かるかな?」
-----はい。『アデルの恋の物語』。
「おおっ、正解。なかなかスゴいじゃない。
また一方では、
映画を教えている中條教授(本田博太郎)が、
ひとりの美人女子大生・レイ(黒木メイサ)に心奪われるエピソードもある。
彼はなんと白塗りのお化粧をして、彼女との会食に向かうんだ」
-----これは簡単。『ベニスに死す』だね。
「その通り。で、話はそのような教授・学生たちのエピソードを
いくつも紡ぎながら進んでいくんだけど、
やがて近年の日本映画屈指と言ってもいい衝撃の映像が現れる」
-----ちょっと待って。ぼくは聞いてもいいけど、
ここからは※ネタバレ注意だよね。
「そういうこと。
この『カミュなんて知らない』は、学生たちが撮っている劇中劇の映画
『タイクツな殺人者』の殺人シーンでクライマックスを迎える。
ここでは池田(中泉英雄)演じる犯人の高校生が老婆を殴打した後、
刺殺するわけだけど、
その撮影法が、観る者を混乱に陥れてしまう」
-----どういうこと?
「劇と劇中劇の境界線、あるいは虚と実の壁が壊れて、
自分が今観ているものが、何か分からなくなってくるんだ。
ここで今起こっているのは、劇中劇なのか?
いや、<監督・柳町光男>による新たな映画なのか?
それとも、劇中劇を演じていた池田が演じているうちに暴走していったのか?」
-----それはまたとんでもない体験をしたね。で、結果は分かるの?
「うん。エンドクレジットのバックの映像でね。
さすがにそれが何かは明かせないけど、
この殺人シーンは長谷川和彦『青春の殺人者』の<母親殺し>以来の衝撃だね」
(byえいwithフォーン)
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