ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『カミュなんて知らない』

2005-09-26 18:45:40 | 新作映画
-----『カミュなんて知らない』……。ぼくも知らないニャあ。
「ふうん、そういうもんかなあ。
ぼくらの頃には、カミュとサルトルは必読書だったんだけどね(遠い目)」

-----だからそれ、何なの?人の名前?
「そう。実存主義の作家の一人。
もっとも有名なのが『きょう、ママンが死んだ。』で始まる小説『異邦人』。
あのルキノ・ビスコンティも映画化しているよ」

-----それとこの映画とどう関係があるわけ?
「いまの学生にとって、実存主義なんて遠い昔のお話。
自分たちにはまったくと言っていいほど関係ない。
そう言えば80年代には構造主義なんてのも流行ったけど、
これもいまの若い人には関係ないんだろうなあ…」

-----話がそれてるよ。
「あっ、ごめんごめん。『異邦人』では主人公ムルソーはアラブ人を射殺して、
その動機を『太陽が眩しかったから』と答える。
一方、この映画はと言うと、
2000年5月に愛知県豊川市で起きた高校生による老婆殺人刺殺事件を、
その犯人の証言を手がかりに、
都心のキャンパスに通う学生たちが映画化する様子を描いたものなんだ」

-----その事件の犯人の動機は何だったの?
「彼はこう証言している。
『人を殺したらどうなるか実験してみたかった』……」

-----もしかして彼、狂ってる?
「ポイントはそこなんだ。
果たして殺人を犯したとき彼は正常だったのか、それとも異常だったのか?
ここで犯人と世代が近い撮影クルーたち、
とりわけ監督・松川(柏原収史)と助監督・久田(前田愛)の間に
決定的な意見の相違が生まれる」

-----ふむ。ドラマとしては見応えありそうだね。
監督は柳町光男だっけ?彼の映画にしては構成が凝ってない?
「彼は92年の『愛について東京』以来、10年以上も劇映画を撮っていない。
でも、2001年度から03年度まで、早稲田大学で客員教授をやっているんだ。
映像ワークショップと言われるそこでの経験がこの映画を生んだようだね。
もともと映像関係の世界を志す学生たちが主人公となっているだけあって、
彼ら学生たちの会話には、さまざまな映画のタイトルが飛び出す。
映画ファンならそれだけで嬉しいところだけど、
もっと楽しませてくれるのは、そういった会話ばかりでなく、
キャラクター設定や撮影手法まで、
かつての名画を大胆に取り入れているところなんだ」

-----それはたまらないね。もっと具体的に教えてよ。
「まず冒頭だね。
映画は、学生たちが<トップシーンをワンカットで撮った映画>の話をしているところからスタート。
ところがこの映画そのものもワンカット6分半の長回し。
しかもロバート・アルトマンが『ザ・プレイヤー』でやったのと同じに、
そのワンカットの中で、登場人物すべてを紹介してしまうんだ。
あの映画『ザ・プレイヤー』ではオーソン・ウェルズの『黒い罠』の話をしていたけど、
この『カミュなんって知らない』では
『黒い罠』と『ザ・プレイヤー』について話している」

-----うわあ、凝ってるなあ。そんな撮影大変そうだね。セットなの?
「いやいや、これがオールロケ。
しかも9割以上は、立教大学のキャンパスを使っている。
このトップシーンだけでゾクゾクくること間違いないよ。
さて、この中の主人公の一人、監督役の松川は
ユカリ(吉川ひなの)という女性にしつこくつきまとわれている。
あまりにも執拗で狂気の色を帯びてくる彼女を、
周りはある映画のヒロインに例えるんだ。
さあ、フォーンには分かるかな?」

-----はい。『アデルの恋の物語』。
「おおっ、正解。なかなかスゴいじゃない。
また一方では、
映画を教えている中條教授(本田博太郎)が、
ひとりの美人女子大生・レイ(黒木メイサ)に心奪われるエピソードもある。
彼はなんと白塗りのお化粧をして、彼女との会食に向かうんだ」

-----これは簡単。『ベニスに死す』だね。
「その通り。で、話はそのような教授・学生たちのエピソードを
いくつも紡ぎながら進んでいくんだけど、
やがて近年の日本映画屈指と言ってもいい衝撃の映像が現れる」

-----ちょっと待って。ぼくは聞いてもいいけど、
ここからは※ネタバレ注意だよね。
「そういうこと。
この『カミュなんて知らない』は、学生たちが撮っている劇中劇の映画
『タイクツな殺人者』の殺人シーンでクライマックスを迎える。
ここでは池田(中泉英雄)演じる犯人の高校生が老婆を殴打した後、
刺殺するわけだけど、
その撮影法が、観る者を混乱に陥れてしまう」

-----どういうこと?
「劇と劇中劇の境界線、あるいは虚と実の壁が壊れて、
自分が今観ているものが、何か分からなくなってくるんだ。
ここで今起こっているのは、劇中劇なのか?
いや、<監督・柳町光男>による新たな映画なのか?
それとも、劇中劇を演じていた池田が演じているうちに暴走していったのか?」

-----それはまたとんでもない体験をしたね。で、結果は分かるの?
「うん。エンドクレジットのバックの映像でね。
さすがにそれが何かは明かせないけど、
この殺人シーンは長谷川和彦『青春の殺人者』の<母親殺し>以来の衝撃だね」

      (byえいwithフォーン)

※これは怖い度人気blogランキングもよろしく

☆「CINEMA INDEX」☆「ラムの大通り」タイトル索引
(他のタイトルはこちらをクリック→)index orange
猫ニュー




最新の画像もっと見る

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
やっとわかりました (km_achin)
2005-12-26 22:55:03
こんにちは。

中條教授(本田博太郎)が白塗りしているのは、何だったんだろう?と思っていたんですが、『ベニスに死す』だったんですね。

わかりやすい解説で、参考になりました。

TBさせていただきました。
返信する
■km_achinさん (えい)
2005-12-27 00:06:54
こんばんは。



あの「白塗り」は少しやりすぎと言う気もしました。

『ベニスに死す』では作曲家アッセンバッハが男の子を好きになる。

いわゆるホモセクシャル。

そう、ストレートならぬ愛の形が、

あの白塗りの中にいかされていたと思います。

しかも汗でその白塗りが溶けてゆき

アッセンバッハを演じるダーク・ボガートの顔が次第に醜くなってくる。

やはりここまでの視覚的計算ができるところが、

ルキノ・ビスコンティのスゴさではないでしょうか?



返信する
もう最高! (三宅輝聡)
2006-01-18 18:37:29
このところ,冬休みを利用して数多くの映画を観る機会をもちましたが,どれもそれぞれいいのですが,心に強く残って何週間も尾を引く作品化というと・・・,そうなんです。久しぶりにこの「カミュ~」はいつまでも私の心をこだわらせて,だから,何十年ぶりに,もう1回映画館に行ってしまいました。それも2回も! もっと素敵なことに,毎回,新たな発見がある映画だったのです。そうなんです,この映画はリピートをして初めて語る資格を持てる映画です。どうですか,私に挑戦してみませんか?
返信する
■三宅輝聡さん (えい)
2006-01-18 23:42:17
こんばんは。



3回もご覧になったんですか!?

でも確かにそれだけの魅力がある映画ですよね。

これはぼくもまた見直さなくてはならないかな。
返信する
観てきました! (かりめろ)
2006-02-21 01:06:38
TBさせていただきますね!

あの白塗りには、そういう意味があったんですか、、、

わたし自身は、名画に関する知識がまったくないので何の意味があって?と疑問でした(笑)

映画の知識がなくても、きちんと鑑賞できる映画になっていたのでよかったです。

最後は、、、私は余計に混乱しました、、、
返信する
■かりめろさん (えい)
2006-02-21 23:45:53
こんばんは。



ここテンプレート変えたので読みにくかったのでは?

あわてて文字色を変えました。



コメントありがとうございました。

この映画、いろんな映画の引用があって楽しかったです。

柳町監督も余裕が出てきたんだなと思ったら、あのラスト。

やはり変わっていませんでした。
返信する
目が・・・ (カオリ)
2006-04-18 15:46:46
映画通のヒトにはこれだけでも楽しめますが、ものすごいラストが待っていましたね。

池田役の中泉君の目が本当に怖かったです。
返信する
■カオリさん (えい)
2006-04-18 23:38:27
こんばんは。



中泉英雄の演技はスゴかったですね。

北村一輝に似た顔立ちで、

これからちょくちょく出てきそうですね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。