ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『ディア・ウェンディ』

2005-09-29 22:25:11 | 新作映画
※結末に触れる部分もあります。ご覧になってから読まれることをおススメします。

「ふうむ、こういうのを才能と言うんだろうな?」
----おっ、いきなりだニャ。これって女性への愛を謳った映画?
ウェンディって女性の名前だよね。
「いやそうではなくて、これは主人公のディックが<銃>に付けた愛称なんだ。
小さな炭坑町。炭坑で働けない人間は男じゃないと言われるこの町で、
繊細な神経と頑強とは言えない身体を持つディックは、
自分を<負け犬>と思いながら暮らしていた。
そんな彼がひょんなことから、このウェンディに出会う。
最初はオモチャだと思っていたその銃がホンモノだと知り、
試し撃ちをした時から、彼の中に自信が満ち、世界が違って見えてくる。
ディックは<銃による平和主義>を掲げ、
かつての自分と同じような<負け犬>たちとともに、
廃坑で<ダンディーズ>と言う5人グループを結成する。ところが…」

----あっ、これは読めちゃうね。
銃を持ったからには<映画>としてそれを使わないわけはない。
絶対に、銃による事件が起こるに決まっている。
「そうなんだよね。脚本がラース・フォン・トリアーと言うこともあり、
その先に主人公の望みとは逆に逆にと物語が転がっていくのは自明の理だ。
しかもそれが大きな悲劇を生むこともね」

----あっ、いま気づいた。それってアメリカ銃社会への告発にもなっている。
『ボウリング・フォー・コロンバイン』のドラマ版ってことか…。
となると、その悲劇の中身もおおよそ想像がつくニャあ。
「おそらく当たっていると思うよ。
しかもサム・ペキンパーやアーサー・ペンを思い起こさせる大銃撃戦。
この前、「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」を紹介したけど、
これはあんなおとぎ話の世界と違う。
生命が断たれて骸(モノ)として横たわる姿は死の本質をついて実に衝撃的だ」

-----先ほど言っていた<才能>というのは、そのこと?
「それもあるけど、何より優れているのは
無機質であるはずの銃ウェンディに命を通わせたことだろうね。
<ダンディーズ>に翳りが見えるのは、
メンバーの中に殺人を犯した過去を持つセバスチャンが加わったことから。
彼がウェンディーを手にして『キュートな女だ』と口にしたことで、
ディックの中にめらめらと嫉妬の炎が芽生える。
実際、このときのウェンディは手の中で嬉しそうに見える」

-----へぇ~っ、そんなことってあるんだ。
「さらには、その銃撃戦も秀逸。
敵味方が、ただ激しく撃ちあうというのではなく、
刻一刻と事態が移りゆくその間に、
勇気から恐怖まで、さまざまな感情がディックの表情に浮かぶ。
主演は『リトル・ダンサー』のジェイミー・ベルだけど、まあ成長したもんだ。
ついでに言えば紅一点のスーザンに「エイプリルの七面鳥」
ケイティ・ホームズ演じるヒロインの妹ベスに扮したアリソン・ヒル。
胸まで披露する大胆演技が息を呑む」

----と言うことは、彼らの間にロマンスが生まれるんだね。
「いや。各自<銃>に恋しているんだからそれはない。
彼らダンディーズのメンバーは、それぞれの愛銃を手に決闘に臨むんだけど、
その最期は、いずれもそれまでに紹介されたキャラクターのエピソードとリンク。
その時の彼らのコスチュームもユニオンソルジャーのコートや
革命戦争時のシルクハットと言った寓話的なもの。
ところどころマンガチックな表現も入れたりで、そのブラックなユーモアがまた嬉しい」

----久々に褒めちぎってるニャあ。
「あと目を引くのはその撮影。
テレンス・マリックの『天国の日々』は日没後20分だったかな、
まだ撮影可能なそのマジックアワーだけで撮ったことで知られるけど、
はて、この映画はどうしたんだろう?
屋内、そして夜のシーン以外は日没前30分とでも言う感じで常に濃い夕陽の色だ。
それがゾンビーズの音楽と重なりあう時、
背筋がゾクゾクする新感覚のウエスタンが現出する。
いやあトマス・ヴィンターベア、恐るべし監督だ」

      (byえいwithフォーン)

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