書く仕事

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「飲めば都」北村薫

2014年08月05日 21時53分31秒 | 読書
「飲めば都」北村薫



たぶんだけど,女が男を理解している度合を100とすると,男が女を理解している度合は30くらいしかないんじゃないかな.

男の,「女って...」という発言には,たまたまその男がそういう経験をしたという,過去をなぞっているだけなのに対し,女の「男って...」という発言には,男の一般的な属性がほぼ正確に含まれている,と私は思っている.

平均的な男である私にとって,女性は謎であり,理解することは原則無理であると,思っている.

しかし,北村薫という作家は,平均的な男のレベルを遥かに超越し,神の位置から女の考えを見通し,文章で表現できるたぐいまれな能力を持っているように見える.

それが可能であるためには,2つの可能性がある.

一つは,北村薫が物凄いプレイボーイで,しかも浅い付き合いではなく,相手の女性から女としての考えを引き出す才能を持ち,それをデータベースとして蓄積しているということ.
もう一つの可能性は,北村薫自身が,実は女であるということ.

実際,デビュー当時は女流作家と思われていた時期もあるとのこと.

しかし,男性であるということがわかった以上,前者の可能性しか残されていない.

作家はもてるというから,きっとそうなのだろう.

この小説に出てくるのは,出版社の編集部で働くキャリアウーマンというか,バリバリの仕事人間,小酒井都.
仕事が好き,仲間が好き,そして何より酒が大好きな,愛すべき女性だ.

物語の冒頭で出てくる「都」評が短文ながら,鋭い.
「髪短く,鼻筋通り,すっきりとした顔立ちだ.そこで,自分という車のハンドルをきちんと握っている人物に,まあ見える.」

この文章で都さんのほぼ全貌が見えるが,物語を読み進むにつれ,さらに納得するのは,「まあ見える」 の 『まあ』 の部分なのである.

この小説の面白さはこの『まあ』に始まり,『まあ』に終わる.

都さん以外にも,同じ編集部を中心に,何人かの魅力的で個性豊かな女性たちが登場する.

複数の女性を描いて,各々を個性的であると読者に思わせるって,すごい技術だよなと思う.