風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

六月大歌舞伎 @歌舞伎座(6月13日&21日)

2015-06-24 00:08:33 | 歌舞伎




こんな月末にその月の興行の感想をあげて、はたして読んでくださる方はいるのだろうか。
と毎月思いつつ、今月も書くのであった。

詮議&夜の部を6月13日(中日)に、昼の部&合腹を21日に観てまいりました。
しかし新薄雪の大顔合わせ、超豪華ですね~。杮落しが終わってこういう配役は二度と観られないのだろうなぁと思っていたので、嬉しかったです。これからもこういうの、いっぱいやってほしいな。


【天保遊俠録(てんぽうゆうきょうろく)】
真山青果の新歌舞伎(と備忘録のために書いておく)。初見です。
『花見』の幕見を買おうと10:30に歌舞伎座に着いたら上演開始が12:50と知り、どこかで時間を潰すなら一幕目から見ようかしら~と。1,000円だし。
正解でした
出ている役者さんがここまでピッタリ役に嵌るとこうも気持ちのいいものなのですね~。
なにより橋之助さんの小吉がこれ以上ない嵌り役 短気で学もなく女にだらしないダメ男だけど、あったかい心を持ってて、しかもカッコイイ。台詞回しといい動きといい、表情もいい表情されてたなぁ。
芝雀さんの八重次がまたすごくよくて。こういう気が強めな役の芝雀さん、大好きです。
さらに児太郎(芸者)、魁春さん(阿茶の局)と、ことごとく皆さん役にピッタリ。児太郎くん、こういう役をやると福助さんに似ていますね。彼はこの後の薄雪姫もとてもよかったです。魁春さんも、こういう高貴で凛とした役をされると右に出る人はいないのではなかろうか。
さらにさらに麟太郎役の子がまた聡明そうで、よくぞここまでピッタリな子役がいたものだなぁと。「ちちうえ?」ってダメな父親に言い聞かせる言い方(でも親をバカにしてる感じは全くないの)、客席みんな微笑んでしまっていました 子役が上手だと安心して筋に集中できるから有難い。
廻り舞台もちょっと変わっていて素敵だった。茶屋の座敷の場面で入口の門の奥まで広く見えていて、最後にそのまま舞台が廻って表になる。麟太郎がご奉公に上がるため駕籠で城に去って、散る桜が涙雨に変わって、悲しみに沈む小吉に八重次が優しく傘を差し掛けるラスト、とてもとても美しかった。
今月の歌舞伎座は、夕顔棚以外は、親が子を思う物語なのだなぁ。


【新薄雪物語 ~花見~】
時蔵さん(籬)&梅枝(薄雪姫)の主従役は見ていて楽しい。籬が薄雪姫をじっと見てるときとか、顔は笑顔だけど実は厳しくチェックしてたりするのだろうか、とか想像してしまう
こういうお茶目でクールビューティーな役の時蔵さん、大好きです。それにすっごく色っぽい 今月は芝雀さんといい、好きな女方さん達を好きなタイプの役で見られて幸せです~。
仁左衛門さん(秋月大膳)&吉右衛門さん(団九郎)の悪役コンビ、大きくて見応えありました 大膳は国崩しの迫力たっぷり。お二人とも、悪い役をもっと見たいなぁ。仁左さま、もう色悪はやってくださらないのかしら…。唯一観られたあの伊右衛門@四谷怪談の物凄さが忘れられない私は一体どうすれば。。
菊五郎さん(妻平)も色気があって、この役が“色”奴であることがよくわかりました。一昨年の愛之助&七之助のテンポのいい二人も大好きでしたケド^^ 最後の水奴との立ち廻りは一昨年と同じく、今回も飽きてしまった。。。(得意じゃないのです・・・)


【同 ~詮議~】
仁左衛門さん(園部兵衛)、この役は似合うだろうなぁと想像していましたが、思ったとおりすんごく似合う
そして前回の花形でもそうだったのだけど、私は『合腹』と同じかもしくはそれ以上に『詮議』の場が大好きなのである。
聡明で立派なパパン達と、自分達の浅慮が起こしたともいえる事態にオロオロ狼狽えてばかりの子供達。
父親が入ってきたときにはっと腰を浮かせる左衛門を手だけで制する兵衛とか(相変わらず体の動きの一つ一つがほんっと綺麗・・・)、薄雪姫の恋文が読み上げられたときの伊賀守の微かな表情の変化とか、遠目からはただ座ってるだけに見えるパパン達の抑えた仕草や表情が物語るものの見事さといったらアナタ
花形でさえ楽しかったのに、大御所お二人の名演をつぶさに見られるこの至福。。。
とはいえパパン二人は横に長~い歌舞伎座の舞台の両端っこにおられますから、一回の鑑賞ではとてもじゃないが観きれないのである。なので二回通いましたよ。
だって仁左さまってば、膝の上に軽く置かれた片手の拳からでさえ兵衛の気持ちが伝わってくる(ように私には見える)のだもの。さらに時折交わされる左衛門とのアイコンタクトやら何やらと加わるものだから、目が離せない。
誰かの陰謀だと訴える左衛門を組み伏せる場面、父もそのことはわかっているのだなあ。でもここで騒ぎ立てても決して事態は好転しない、その辛さが仁左衛門さんの抑えた演技からひしひしと伝わってきました…。
が、幸四郎さん(幸崎伊賀守)もとてもよくて。実直で厳しくも、男の子ではなく女の子の父親らしい優しい感じがよく出ていらっしゃいました。
花道で相談するパパンズも大好き(3階下手の私の席からは仁左さまのお顔しか見えなかったが)。同時に政敵に嵌められて、それぞれが子供と家を守るために、顔に出さずに限られた時間で頭をフル回転させて、今とりうる最善策を必死に考えて。
互いの家に子を預けようという提案に伊賀守が同意してくれたときの仁左衛門さんの「ご承諾いたされるか!」(だっけ?)の心からほっとした表情(13日の方がよりはっきりと表現されていた気がするが)、印象的だった。
どちらもこの段階から既に自分達が命を捨てることになるかもしれない覚悟をしていることが、お二人の抑えた演技から強く伝わってきました。

錦之助さん(園部左衛門)&児太郎(薄雪姫)、役にピッタリで雰囲気ありました。特に錦之助さん、情けないけど育ちがいい左衛門そのもの~。
芝雀さん(松ヶ枝)、娘を心配する母親の気持ちが表れていて切なくて、とてもよかった。
菊五郎さん(葛城民部)も、公平で冷静な、でも情がある、そんな裁き役がとてもお似合いでした。

ところで国行の死体の人形は、花形のときもあんなにちっさかったっけか?


続いて、こっからが夜の部↓↓↓
詮議と合腹をあえて昼夜に分けたのは誰得デスカ…?

【同 ~広間・合腹~】
前回あれほど「長い・・・・・・・・・・・」と感じた広間合腹が、今回は全く長く感じませんでした。まぁこのテンポのゆったりさを予め知っていたせいもあるかもですけど。
仁左衛門さんと魁春さん(梅の方)の夫婦は、新鮮で嬉しい。
一見亭主関白だけど妻への愛情もしっかり感じさせる仁左衛門さんの兵衛。伊賀守から届いた刀の意味するところに気付いて「料は同罪とはよく言った!」と言うときの悲しくも晴れやかな表情、素晴らしかったなぁ…(もうパパン達立派すぎよー…
腹を切った後、扇子を持ち上げるのにつー…と床に這わせるのも覚束なかったり芸が細かいのに技巧的に見えないのも流石でございました。

三人笑は、三人とも花形以上にリアルだ・・・!意外!というより、この場面の意味するところがよりはっきりと伝わってきて、今回の三人笑を見てこの『新薄雪~』という作品がより腑に落ちた気がします。
魁春さんは、13日に観たときは、悲しみよりも(男達の)武士の世界に対する怒りのようなものを強く感じました。子供を救って死にゆく夫をただ黙って送り出すことしかできない女という立場の歯がゆさ、そんな想いを全て抑え込むしかない女の辛さのようなものを感じた。でも21日は、もう少し優しい感じに見えました。梅の方が笑った後にうんうんと優しく頷く兵衛と気持ちが通じ合っているように見えた。13日はこんな状況で妻に笑えだなんて仁左さんヒドイわ;;とちょっと思ってしまったのだけど、21日は「ああ、兵衛は一人残される梅の方のためにも、一緒に笑えと言ったのかな。悲しみだけじゃなく笑って自分を送り出してほしいと思ったのかな」と。そしてそんな兵衛の想いを梅の方はわかっているように見えました。勝手な想像ですけれど。

この笑いって、不思議ですよね。
意地でも開き直りでもやけっぱちでもなく、つきぬけた笑いともちょっと違う。
肉体の痛みや苦しみと、妻や子と別れて死に行く悲しみ(死にゆく夫を見送る悲しみ)と、大膳への怒りや恨みも全てを腹に飲み込んで(この怒りの部分が花形のときはあまり伝わってこなかったのです)、笑う。子供達を無事に逃がした心安さを悦ぼうと、六波羅への出仕は六道への門出だと言って。
帰りの電車の中でふと、勘三郎さんが人工呼吸器を外したときにされたという最期の笑いを思い出しました。ご家族はそれを松王丸の笑いではないかと仰っていました。
息子の小太郎が笑って死んだと聞いたときの、松王丸の笑い。涙を流しながらの笑い。
歌舞伎の笑いって不思議。
仁左衛門さん、魁春さん、幸四郎さんによる三人笑い。観ることができてよかったです。

そうそう、合腹の芝雀さんも素晴らしかった。兵衛と梅の方に「娘を助けていただいて忝い」と頭を下げるところ、心からの思いが伝わってきて、もう四人の姿を見ているだけで泣きそうになりました。

以上、念願の大顔合わせの新薄雪が見ることができて大・満・足でございました(まだ正宗内が残ってるが)。
ただ・・・・・・贅沢を言うなら・・・・・、吉右衛門さんの伊賀守も見てみたかった・・・・・・・・・・。
一昨年からの私の悲願だったのです・・・・・・・。多分もう二度と見られない、のだろうなぁ。。

ちなみに一昨年、花形にお稽古をつけた先輩達は下記のとおり。
染五郎(兵衛)←仁左衛門さん
松緑(伊賀守)←幸四郎さん
菊之助(梅の方)←玉三郎さん
海老蔵(葛城民部)←吉右衛門さん


【同 ~正宗内~】
吉右衛門さん、あなたはなぜそこにおられるのか・・・。
正宗(歌六さん)に手を斬られてぜーはーしながらの台詞。熱演でございました。
が、その演技を私はこのひとつ前の場でやっていただきたかったのよぉぉぉぉ…(結果的には幸四郎さんの伊賀守に大満足ではありますが。ワルい吉右衛門さんが見られたのも嬉しいですが)。
話としては、この正宗内が滅多に出されない理由がわかったといいますか、たとえば団九郎の改心などひどく唐突な印象であった(歌舞伎とはいえ)。
三津五郎さんが「同じ演目ばかりやっていてはお客様に飽きられてしまうが、傑作といえるものの数は決して多いわけではない」と仰っていた意味がわかったというか。
それでも、こういう埋もれてる?作品の上演はやっぱりマッチウェルカムでございます。
米吉の薄雪姫はとても品があって可愛らしかったですけれど、いつもの米吉くんというか、感情表現薄めのサッパリ姫でございました。。


【夕顔棚】
夏の夕べのセットが素敵
でもって私が初めて生で観る菊五郎さんの女方(というのか?)だったり^^;
丸出し乳を持ち上げて拭いちゃったり、はずれた入れ歯を酒で洗って嵌め直したりな人間国宝サマ(近くのおばさま方が「演技が細かいわね~」「こういう人いるわよね~」とそれは楽しそうでございました)。でも下品にならないところが流石。のほほん、ほんわり。さすがに昼の部からずっとのせいか時々お疲れ気味なお顔にも見えたけれど、そこは(この作品が今月唯一の出演でもある)左團次さんが完璧にカバー。
左團次さん、表情がとっっってもよかった。特に菊五郎さんを見ているとき。それはそれは優しそうで
里の若者たち(梅枝巳之助)による盆踊り場面はちょっと長く感じたけれど(私も半日以上の観劇に疲れていたので)、菊五郎さんがとても楽しそうに若い二人の姿を眺められてて、そんな菊五郎さんの表情になんだか清々しい温かい気持ちになりました。
笑いあり、老夫婦のゆったりとした時間あり、夏の夜の風情ありな、どこか懐かしい気持ちになった、いい打ち出しでございました。
ブタさん蚊取り線香ほしいなぁ~

来月の歌舞伎座は、とりあえずは牡丹燈籠を幕見予定です。
思わず世界バレエフェスのチケットを購入してしまい、金欠になってしまったのです。。。
てか松竹座行きたい。にざさん&時蔵さんが観たい。

※過去の上演記録を調べたところ、仁左衛門さんは兵衛を平成9年に一回やられてるだけなんですね。そして魁春さんの梅の方は今回が初役。幸四郎さんの伊賀守は何回目かですが。
・・・・・舞台は一期一会なことは重々承知しておりますが、もう二度と見られない顔合せなのかなぁ・・・。歌舞伎以外の舞台ならそんなことは普通のことなのに、歌舞伎だとこうも切なくなってしまうのはどうしてでしょう。。

※魁春さんインタビュー(朝日新聞より)
6月の歌舞伎座で、時代狂言の名作「新薄雪物語」が昼夜に分けて通し上演中だ。役者がそろわないと上演できないという〈合腹〉は、片岡仁左衛門の園部兵衛、松本幸四郎の幸崎伊賀守、中村魁春が初役で兵衛妻・梅の方。夫婦となった子どもを救うため腹を切った父親2人と残される母親、その3人が全てを心に収め痛切に笑う場だ。 父、中村歌右衛門中村芝翫の舞台が「目に残っている」という魁春。自分は「まだやらせて頂けると思っていなかった」と言う。「子どものことばかりを思っているから、夫たちが腹を切っていると思わなかった」母親が全てを知り、泣く。「3人のバランスだと思います。難しいですね」女形の人間国宝が相次いで世を去り、気づけば後輩ばかりに。「最低限、教わってきたことは伝える。後はご自分の解釈だから」

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