風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

人形劇団ひとみ座 『リア王』 @県民共済みらいホール(3月25日)

2016-03-28 00:36:15 | その他観劇、コンサートetc



リア:忍耐が肝心だぞ。人は皆、泣きながらこの世にやって来たのだ、そうであろうが、人が始めてこの世の大気に触れる時、皆、必ず泣き喚く。一つお前に教えて遣そう、よく聴け!
グロスター:おお、神はいまさぬのか!
リア:生まれ落ちるや、誰もが大声挙げて泣叫ぶ、阿呆ばかりの大きな舞台に突出されたのが悲しゅうてな。
(新潮文庫より)

先日のハンブルクバレエ団の公演をきっかけに、シェイクスピアに興味津々のワタクシ。
早速サーチしてみたところこんな公演があることを知り、仕事帰りに行ってきました。
3列目(カンフェティ席)4300円

人形のデザインは片岡昌さんという方で(2013年に亡くなられています)、NHKの『ひょっこりひょうたん島』の人形を担当された方。そして当時その人形操作を担当していたのが、このひとみ座だそうです。『リア王』は彼らの代表作で、1988年からほぼ10年おきに上演されているそう。

人形によるお芝居というと文楽しか観たことがなかったので、人形遣いさんが台詞も言うというのはどんな感じかしら?と期待半分&不安半分だったのですが、皆さん演技が上手くてビックリ
シェイクスピアのもってまわった台詞が、ストンと頭に入ってくる。
あぁこの台詞はこういうことが言いたかったのか、この場面はこういうことを表現したかったのかと、文章ではわからなかった部分を自然と理解することができました。
そして文楽と同じく人間の存在が消えて、人形が生きてるように見えました。それは遣い方ももちろんでしょうが、声の演技の上手さも大きな理由だと思います。

演出も素晴らしく、特に道化の使い方がとても良かった。軽みとユーモアとエグみと哀しみのバランスが絶妙で、シェイクスピアがこの作品に道化を加えた意味がわかった気がしました。文章だけだとイマイチわからなかったのですよ。シェイクスピアはつくづく読むものではなく、舞台で観るべきものだなぁ。

台詞を省略していたり、わかりやすい演出にしていたりと(エドガーが渡した手紙をオールバニ公がその場で読んだり)、変更を加えている部分も多かったですが、肝心な部分はしっかり押さえてあり。といって飽きさせないようにスピード感ばかりを重要視しているようではないのも、好印象。
映画やナショナルシアターライブのシェイクスピアでありがちな必要以上に現代風な解釈&演出でなかったのも、よかったです。大人向けの人形劇」とはっきり謳っているだけあって、エグみも好色さもしっかり表現されていましたし、「気ちがい」「目くら」というような台詞をそのまま言っていたのもよかった(こういう部分をキレイな表現に変えてしまうと、本来の作品の空気が伝わらなくなってしまうと思うので)。

舞台装置もセンスよく、最小限のセットで場面転換や雰囲気がうまく表現されていました。
馬のひづめ、風の音などの効果音もテープではなく全て生音で、その仕掛けが舞台上に全部見えているのも素朴で楽しかった。
特に荒野の嵐の場面は、音だけでなく服のはためきなどが原始的な方法なのにすごくリアルに表現されていて、素晴らしかったなあ・・ 豪華なセットやCGなどを使用した映画よりよほど「シェイクスピア」を感じることができました。こういうところ、歌舞伎と同じですね。蝋燭の本火もgood。

少し惜しく感じたのは、グロスターが崖ではなく丘から飛び込むという状況がストーリーを知らない人にはわかりにくかったのではないかなと感じたところと、最終幕が意外とアッサリ終わってしまったところ。グロスターの最期を語るエドガーの台詞もなかったですし(よね?)、リア王の最期の本人や周囲の台詞も割と割愛されていて、前半からの盛り上がりに比べて「あれ?終わり・・?」感が・・・ あの辺りは原作どおりの台詞・展開にした方がよかったのではないかしら。
でもコーディリアが首を吊られている姿を視覚的に見せたのは衝撃的でわかりやすかったですし、夜空の月も禍々しくて素敵でした

全体としてシェイクスピアを観た満足感をたっぷりもらえた、素晴らしい舞台でした。
次はなにを観ようかな~♪

グロスター:そういうあなたはどこの誰方か?
エドガー:詰らぬ人間さ、運命神の飽く事無き打擲に馴れ、悲しみを知り味ったため、他人に対しても幾分思遣りが懐けるようになっただけの事。さあ、手を、どこか休める場所にご案内しよう。
グロスター:心からお礼を申上げる、天の恩寵と祝福が、いやが上にも御身の上に!

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