風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

十二月大歌舞伎 @歌舞伎座(12月19日)

2015-12-20 16:00:30 | 歌舞伎


「松也の魅力ってなんなのかなぁ」
てなことを真剣に考えていたら、東銀座を乗り越して築地まで行ってしまった・・・

今月は、幕見で『関の扉』と夜の部に行ってまいりました。

【重戀雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)】
えーと・・・前半が恐ろしいほどタイクツで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
松也
(宗貞)も松緑(関兵衛)も七之助(小野小町姫)もみんなアッサリスッキリしすぎているというか、人間的な妙味が薄いというか・・・。こういうファンタジー色の強い作品は、もう少し役者にゆったりおおらかな趣がある方が私は好みだなぁ。
あえていえば七之助がカッコイイ小町で、これはこれで素敵といえなくもない、かも(現代的だけど。姫っぽさも皆無だけど)。七之助はやっぱり赤が似合う 

後半で玉三郎さん(傾城墨染実は小町桜の精)がご登場。
私、思いました。

玉さまがいればそれでいい。

もちろん周りも完璧なら言うことなしですけど、これだけ玉さまが素晴らしかったら、他が良かろうが悪かろうがどうでもいい。それまでのタイクツもどうでもいい。
一体なんなのなんなのあの玉さまの儚さ&哀れさ&可愛らしさ&伝わってくる安貞への強い愛情・・・!なのにしっかりあるこの世のもんじゃない感・・・
昔の絵師達はこういう舞台を観て絵心を刺激されたのかなぁとか思った(上の絵は月岡芳年の小町櫻の精。新形三十六怪撰より)。
安貞の片袖に顔を寄せて泣く墨染。登場場面から人間じゃない怪しさ満載なのに健気で切なくて可哀想で・・・。それからだんだんと本性が顕れてくる過程も素晴らしかったなぁ。
見顕し後の指先ちょいちょいの余分な力の一切ない自然な連理引き。いつもながら玉さまがすると本当にやっているように見える!

大雪のなか満開の花を咲かせる樹齢三百年の桜の樹。
その樹と同じ色合いの衣装(薄墨地に枝垂れ桜)が、玉三郎さんの墨染の儚さと艶っぽさにぴったりだった。
ぶっかえり後の珊瑚がかった桜色の衣装も華やかでお似合い

松緑はあまり酔っ払いに見えなかった関兵衛よりも(プライベートで飲みまくってるんじゃないんかい)、黒主になった後の方がダイナミックで良かった、気がした。ごめん、ほとんど玉さま見てた・・・。

初めて観る演目だったので玉さま新演出の竹本との掛け合いじゃなくてオリジナルの常盤津オンリーバージョンで見たかったのだけど、初めてだから人物の分担がわかりやすくてよかったともいえる・・・のかな。

一方、小町姫と墨染を違う役者が踊るのは案外良いのではないかと。この二人ってストーリー上では全くの別人ですから、今回のように別の役者さんの方が墨染に感情移入しやすい気がしました。でも同じ役者が踊るバージョンもいつか菊ちゃんで観てみたいな~

続いて夜の部。


【妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) ~杉酒屋~道行恋苧環~三笠山御殿
七之助のお三輪ちゃんは平成中村座で御殿だけ観ていて、私は割と好きなのです。
今回『御殿』以外の部分も観てやっぱりとてもよかったのだけれど、これがあの御殿の凄絶な七之助のお三輪に繋がるのかと思うと、すこしチグハグな感じも受けました。
なぜなら求女のことをそこまで愛してるようには見えなかったから。ピンで見ていると恋情が真っ直ぐで嫉妬深くて、だからこそ可愛らしくて、という感じがちゃんと出ているのだけれど、松也と絡むとどうも淡泊。昼の部の関扉でもそうだった。このカップル(松也&七之助)はコクーンの三人吉三のときにとてもいい相性と思ったのだけれど、古典だとイマイチ・・?サッパリした友人同士に見えてしまった。まぁ求女の方はそれで正解なのかもですけど。

求女といえば、この記事の冒頭で書いた松也の魅力ですが、今日もわかったわけでは全くないのですが、淡海が女に関してはサイテーーーーーな奴だということが伝わってきて、それがよかったです。今日の松也の演技(という演技もしてなかった気がするが、それがかえってよかったのか)でわかった。あ、彼のプライベートとは何の関係もありませんよ。純粋に舞台上での彼の話。

話を戻して七之助ですが、道行の最後の花道で糸が切れてしまった苧環を抱えたときの風情がとてもとてもよかったです。

『御殿』からは、お三輪ちゃんが玉三郎さんにチェンジ。
糸の切れた苧環を手に花道から登場されたときの表情が印象的でした。御殿の壮麗さに途方に暮れながらも、その目はひたすら恋しい求女の姿を探している。その必死さは、姫でも傾城でもなく、本当に恋する庶民の娘だった。
この御殿の段、三輪は求女(淡海)と顔を合わす場面はないのよね。でもずっと三輪の中には求女がいて、というより求女だけがいるのだなあ、と玉三郎さんを見ていて感じました。
祝言の音を聞いて表れる「疑着の相」に関しても同様で、七之助のときはそれが表面的な「怒り」に見えてこの場面が少し唐突に感じられたのだけれど、玉三郎さんのそれは彼女のもっともっと深いところにあるもの(表に顕れるのは数万人?に一人だけれど、きっと誰もが持ちうるもの)が爆発してこういう形で表れたのだということがわかった。そしてその更に根底にあるのは求女への強い強い愛情であることが、こんな異形に変わってしまうほど三輪は求女を愛していたのだなぁということが伝わってきました。
結局最期に死んでいくときまで、彼女は求女だけを見ていて。未来ではどうか自分と・・・というところ、見えなくなってくる目で彼女が見ているであろう景色を思うと胸が詰まりました。。。(そして淡海という男の性格を思うと、次の世でもお三輪ちゃんが彼と結ばれる気は全くしないという。結局お三輪ちゃんは幻の男性である“求女”に恋をして、彼のために命を捧げて死んでいったのよね・・・)

松緑(鱶七)は好きな役者ではあるのだけれど、、、、、あの一本調子な台詞回しをいい加減にどうにかしていただけないだろうか・・・・・・・。変に現代的であざとい演技をされるよりずっといいとは思っているものの、正直ワタクシ、苦痛であったよ・・・・・・・。見得を切るときなんかは大きくてカッコよくてとってもいいのだけどなぁ。あの玉さま三輪の最期の後に立派に幕を下ろしていたのはお見事だったわ。

児太郎の橘姫は、今回も私は好きでした。

あ、あと『杉酒屋』の團子くん(子太郎)の演技がすごく手馴れていて吃驚。場を盛り上げてくれていました。もしかしたら私は彼を見るのはこれが初めてだったかなぁ。お父さんの中車さんは『御殿』の豆腐買いで出演中(大和屋~って言ってた)。


以下、10月26日放送の『プロフェッショナル仕事の流儀』の岡村隆史さんと玉三郎さんの対談より抜粋。
録画を消しちゃうので、ここに記録として残しておきます(^_^)
玉:ストイックというより、やることないんです、他に。遊びたいのに遊ばないなんてすごいストレスになっちゃうじゃないですか。外に行って遊ぶとかご飯を食べるとか飲むとか殆どしないたちなので、ストイックに見えるんですね。
10年先とか20年先とかぼやっとしたイメージはありますよ。でも10年先のイメージを作ってそうじゃないところへ行ったらどうします?だったら今日と明日をちゃんとやれる方が自然と先が導かれるんじゃないかなっていう気がします。
岡:僕は先ばっかり見てるなって。
玉:それは多分、不安なんでしょ?
岡:はい、不安なんです。だから余計色んな人の話を聞いて、今後のことの参考になればなって思ったんです。年齢を重ねていくことの怖さみたいなものってありますか。
玉:あります。でも怖がっていても仕方がないから、やっぱり今日とか明日をちゃんとやっていけば自然とそこに行けるかなっていう感じしかないんですよね。
岡:体力的衰えとかそういうのは・・・
玉:もう十分それとは対面しました。どんどん衰えていきますね。この年齢になると、年々衰えてきます。
岡:引き際というかそういうのって考えたりすることってありますか。
玉:考えてます。でもね、あんまり公に言わないの。フェードアウトね。あ、そういえば出演が少ないねっていう感じ。あれ、今年観てないわねっていう感じ。それでいいんじゃないかなって。言わないの。宣言しないの。
岡:スパンって切る美学であったりとか、色々あるとは思うんですけど。
玉:スパンって切りたいけど、あまりゴタゴタ言われたくないのね。だって自分でゆっくり考えた結論に対してどうしてですか?とか、残念ですねとか、まだお出来になるのにとか言われて、何て答えたらいいの。ちゃんと毎日日々日々24時間考えてきたことに対して何でですかって言われても、いやそういう結論なんですとしか言いようがないじゃない?
岡:玉三郎さんは気持ちや体がドーンと落ち込んだり、そういうのは・・・
玉:(40歳のときにそうなったという岡村に対して)僕はね、16、24、28、37、41なんですね。
岡:どうやって沈んだ気持ちだったり・・・
玉:もう時間を過ごすしかないです。それと、環境を変える。旅をするとか、自分の家にいないとか。ちょっとした環境を変えることによってさっと治ることがあるんですね。ただしある程度の期間が来てから環境を変えないとね。
岡:玉三郎さんはダイビングをされますよね。僕も石垣島に機材一式置いてあるんですけど。
玉:気分転換っていう点においては最高でしょ?
岡:振り返っていただいて、この人生、楽しいですか。
玉:人生ってどちらかというと多少苦痛を伴うんですね。でも苦痛だけではない。ただ、どうだったですかって言われたら、僕は幸運だったと思います。という意味で、他の方から見たらすごく幸せな人生に思われるでしょうね。ということは、幸せだったと思います。すごく華やかな舞台に立てるなんていうことは思ってもいないまま生きてきて、それができたということは、夢の夢が叶った人生だったと思いますね。オタクというか、何か集中していたらそんなものしかできなくて、社会人になれるかどうかわからないような子供だったわけですね。それが「人生とはどうですか」って話せたりとかね、そこまで来させてもらったっていうか来たっていうことは夢のような人生でしたね。世界に旅をして色んな劇場に招いてもらったりとかね、そんなこと考えてもいないまま来ましたんで、幸せでした。
岡:明日頑張れるために何か一言いただけたら有難いんですけど。
玉:気楽にしたらいいんじゃないでしょうか。それで海の番組を作ってくださいよ^^



日経新聞より、玉さまのお三輪ちゃんと松緑の鱶七。


今回もいわて銀河プラザにて♪
2月末まで助成金による3割引キャンペーン延長中。

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