風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル @サントリーホール(12月13日)

2021-12-15 20:21:27 | クラシック音楽




コロナ禍を挟んで2年ちょっとぶりのツィメルマン。舞台袖から出てきて、歩きながらP席にもニッコリ。
お久しぶりです~~~~
お元気そうで何よりです~~~~
もうお元気ならそれだけでいいと感じてしまう。今年は悲しいことが多すぎた。。。。。
今月は外国人の入国が禁止されているけれど、ツィメさんは先月には入国していたので、日本ツアーも無事行われました。本当によかった。本日のサントリーホールはその千秋楽。

【J. S. バッハ:パルティータ第1番 変ロ長調 BWV 825】
ツィメルマンのバッハを聴くのは初めて。
プログラムが発表されたときはツィメさんとバッハ…?と想像ができなかったのだけど。
いやあ、極上だねえ。。。。。
ツィメさんのあの音。
清澄で高潔な綺麗な空気。
なんか、ツィメルマンって裏表なく生きている人なんだろうな、とそんなことを感じる。
音も、弾いている姿も、ついでにお顔も(笑)、綺麗な人だなあ。
この曲はyoutubeで28歳の頃のツィメさんの演奏を聴くことができるけれど、コレンテの弾き方が今日の演奏と少し違う?私は今日の弾き方の方が好きでした。
サラバンドのこの上もない美しさ・・・。メヌエットの可愛らしさ・・・。
ツィメさんの音、最近まろやかになった気がする。個人的印象だと2018年のロンドン響との『不安の時代』までは以前の透徹な音だったけど、2019年のリサイタルと室内楽の2回の演奏会以降は今のような感じになったように感じる。あの時はブラームスメインだからかなと思ったのだけど、路線変更したのかな
今日のバッハの音色は2019年のそれよりも研ぎ澄まされていて、まろやかで清澄で、親密で、そして色っぽくて美しかった。
素晴らしい1番でした。6曲全部よかった。ちょっと泣きそうになってしまった。

【J. S. バッハ:パルティータ第2番 ハ短調 BWV 826】
と思ったら、2番も極上だった。。。。。
今日のツィメさん、絶好調ですね。完璧すぎて怖いくらい。弾いている時もいつものようにリラックスされてはいるけれど、集中力が違う気がする。こういうツィメさんの姿を見るの、なんか初めてな気がするな。
2番でも、サラバンドの言葉にならない美しさ・・・。
ロンドーは、バッハぽくない華やかな弾き方で、すごく独特な響きに聴こえました。
カプリッチョの盛り上がりはもう、なんて言えばいいの?あの美しさ。やはり言葉にできない。最高of最高。
極上だなあ・・・と何度も思いながら聴いていました。
ツィメさんの音の前向きさに、私の心は救われる。感謝だな・・・。
弾き終えた後は、とても満足そうな笑顔で前後左右にお辞儀。

(20分間の休憩)

【ブラームス:3つの間奏曲 Op. 117】
2019年に聴いた一連のブラームスは弾き流すような弾き方が私の好みではなかったのだけれど、今夜はとても丁寧に演奏してくれました。
ツィメさんの音はスケールが大きなところが魅力だよね。そしてロマンティック。
どれもよかったけど、私は特に3番が好きでした。3番の最後の沈潜する音色と演奏後の静けさは、2019年のアンコールで弾いてくれたエドワード・バラードの空気を思い出しました。素晴らしかった。

【ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op. 58】
今回の他の都市や8日のサントリーホール公演のレビューでは「第一楽章と第二楽章が雑だった」というのを見かけたけれど、今日の演奏は一楽章も二楽章も強い集中力をもって弾いてくれました。完璧。
一楽章も二楽章も、私には耳慣れないかっこいい弾き方をしていたな。所々のリズムというかアクセント?がすごく素敵で、聞き惚れてしまった。「ツィメルマンのショパン」の演奏って、「シフのバッハ」の演奏から感じるのと同じものを感じる。魂の演奏的な。
ただ一楽章が始まった途端、フレイレの演奏を反射的に思い出してしまい、胸が苦しくなり、しばらくの間ざわざわと落ち着かない気持ちになりました。フレイレが亡くなってから私は彼の演奏、特にショパンの演奏を胸の痛みなしには聴けなくなっているのだけれど、この曲は今回の予習で沢山聞いていたので、こんな風になるなんて予想外でした。生音にはやはり特別な何かがあるのだろうか。
ツィメルマンのこの曲の演奏はフレイレの演奏とは全く違っていて、だからこそ、「ピアニストが自分の弾きたい曲を自分の弾きたいように弾くことができる」というのは幸せなことなんだなと、当たり前のことではないんだなと、それを突然奪われた最後の2年のフレイレを思いながら聴いていました。そしてピアニストのそういう演奏を聴くことができる状況にいる私達も幸せなことなのだ、と。
ツィメさんの演奏はおそらく遠くなく再び聴くことができるだろうけれど、それは決して確実な未来ではないのだと(ツィメさんがお元気でも私に何か起こるかもしれないし)、そんな風に思いながら一音一音を大切に聴かせていただきました。
しかしツィメルマン、本当に美しく弾くなあ。そして相変わらずピアノに対して優しい。ピアノはこの人の大切な相棒なんだな、といつも感じる。フレイレも、ピアノやピアノ曲を当たり前のように擬人化して語るピアニストだったな…。

二楽章を弾き終えた後のツィメさん、一回大きく咳払いをしたら止まらなくなってしまったようで、「ちょっと失礼」とジェスチャーをして、小走りで舞台袖へ。扉越しにも聞こえる咳き込む音。苦しそう… 他の公演でも咳き込んでいたそうなので、お風邪でしょうか。
そう時間がたたずにそ~っと戻られて、客席へシーっと唇に指をあてる可愛いジェスチャー。楽章間なので拍手はしないけど、客席からこぼれる微笑
三楽章も集中力は途切れることはなく。特に終盤の弱音がとても綺麗だったな。あの空気・・・。そして静かに静かに三楽章を終え、終楽章が始まるまでは随分長く時間をとっていましたね。
四楽章は一転して破綻を恐れず怒涛の勢いで弾ききった感じで、繊細なニュアンスを聴かせるという弾き方ではなかったけれど、ツィメさんのショパンのソナタ3番として、これはこれでいいのではないでしょうか。と書くと醒めた感想に聴こえるかもしれないけど、全く醒めていないです。なんだか独特な空気を感じる四楽章だった。破綻を恐れずと書いたけれど、丁寧じゃなかったという意味ではなくて(ちゃんとコントロールはされていた)、「熱い」というのとも少し異なるもので。「静かに熱い」ショパンでした。twitterでどなたかが「ツィメルマンのショパンには切実さがある」と仰っていたけど、言い得て妙だなと。今日の四楽章の演奏にはまさにそういう感じを受けました。ツィメさんのショパンにはやはり強い説得力がある。
こういうツィメさんらしい(私はらしいと感じた)ショパンをこんな風に聴けることは幸せなことだ、と心から感じました。
弾き終わった瞬間の大喝采の拍手のなか、ツィメさんはしばらく動けないように座ったままで。完全燃焼で弾ききった、という感じに見えました。
それから立ち上がって、客席に深く長くお辞儀をされておられた。前回のオーバーアクション気味なハイテンションなツィメさんは姿をひそめ(いつものように投げキッスは2回されていたけど)、しみじみと嬉しそうに、満足そうなお顔をされていました。
繰り返しになりますが、今日の演奏、バッハからショパンまで、2019年の来日時に感じた弾き流すような感じがなく、ミスタッチも殆どなく、全ての音を心を込めて丁寧に弾いてくれていました。心境か体調の変化でもあったのか。なんか、不思議な感じに胸に迫った演奏会だったな。
舞台には”演奏者の記録用”というマイクとカメラ。今回の日本ツアーの全ての演奏会で置かれていたようです。カメラは客席のものを加えると少なくとも2台はあった。個人の記録用にしては随分徹底しているような(まあ完璧主義のツィメさんなので不思議はないけど)。音源、私達にもリリースしてほしいなあ。

アンコールはなし。前回(2019年)も前々回(2016年)も私が聴いた日はアンコールがあったので、必ずしも「アンコールをしないピアニスト」というわけではないと思うけれど、基本はしない人だと聞いています。
何度も拍手で戻されるツィメルマン。他の都市では黒マスクをして「アンコールはしないよ~」アピールをしていたそうだけれど、今夜はマスクはせずに何度もステージに戻り、何回目かに舞台袖に行ったら随分と長い時間戻られない。
なかなか出てこないな、と思ったら、なんとサンタさんの赤い上着と帽子と口髭(ドンキで売ってそうなアレ)姿でご登場 といっても舞台中央までは行かず、下手の方でちょっと恥ずかし気で、大喜びの客席に挨拶してすぐに舞台袖に引っ込んでしまいました(笑)。ジャパンアーツの人達に着せられたんだろうか
ツィメさんはこのまま日本で年越しでしょうか。以前ジャパンアーツの忘年会?に参加されてる写真を見たことがある。正月は普通にコタツ入って、日本酒飲んで、お節料理食べてそうだ
ツィメさん、一足早い最高に素敵なクリスマスプレゼントを本当に有難うございました。お体をお大事に&良いお年を!!!

クリスチャン・ツィメルマン、英国の所属事務所とトラブル
今年も”闘うピアニスト”だったツィメさん。日本でゆっくり一年の疲れを癒してくだされ
そして少しでも長くツィメルマンがご自分の好きな曲を好きなように演奏し続けることができますように。。。

※twitter情報。反田さんと愛実ちゃんと真央君が客席にいらしていたそうです。この方達は前にシフの演奏会でも一緒になった気がするな。ツィメさんも客席にいた協奏曲のときだったか、リサイタルのときだったか。客席のツィメさんといえば、ポリーニのときもツィメさんと吉右衛門さんが客席におられたなあ。吉右衛門さん、ポリーニの大ファンだったんですよね…。ツィメルマンはポリーニの弾くドビュッシーが好きだと以前インタビューで言っていた、とのネット情報。その日のメインプロもドビュッシーでした。







亡くなった友人はいつも溜池山王からサントリーホールに行っていて、私はいつも六本木一丁目からで、「溜池山王からの道ってお店が全くなくて味気ないんだよねえ…。六本木一丁目はどう?」と聞かれたので、「六本木一丁目は沢山お店があって楽しいよ~」と教えてあげたことがありました。
今日初めて溜池山王から行ってみたのですが、あの地下通路、想像以上に何もなくて驚いた 地上に出るとすぐにANAインターコンチネンタルホテルがあって素敵だけど、演奏会は前後の時間も重要なのでやはり今後も六本木一丁目を使おうと思いました。


Nelson Freire - Live 2017 | Brahms: Intermezzo op.117 no.2 in B flat minor

例え隠し撮りのものでなくてもツィメさんのyoutube動画を載せる勇気は皆無なので(今日も「撮影禁止」のプラカードを持ったスタッフ達が客席を練り歩いていた)、フレイレの追悼をさせてください。フレイレは普通に「youtubeで観られるよ~」と仰っていた方なので。もちろん隠し撮りのことじゃなくて、ドキュメンタリー映像のことですが。
上の動画は、私の大好きなフレイレのブラームス。op.117-2。2017年の来日で弾いてくれたop.118-2も、最後の来日で弾いてくれたop.119も、忘れられません…。

Nelson Freire - Chopin Sonata Op.58 No.3

2017年の来日でも弾いてくれた、ショパンのソナタ3番。大好きな演奏です。もうあの音の風景を二度と見ることはできないんだな…。
ブラームスもそうだけど、この演奏も、フレイレの音は過去の幸福だった頃を思い出しているような、そういう種類の美しさを感じます。ノイマイヤーの『椿姫』ではこの三楽章がアルマンが亡くなったマルグリットとの幸福だった時を回想する場面で使われていますが、フレイレの演奏にも同じものを感じる。フレイレはドキュメンタリーで子供時代のことを「自分の人生で最も幸福だったとき」と言っていたけれど、ご両親を20代前半で事故で亡くしてることも思うと、本当にそう感じていたのだろうと想像します。
フレイレはショパンについて「私は、ショパンはけっして声高に叫ぶ音楽ではないと思う。最近の若いピアニストは鍵盤をガンガン力任せに叩き、猛スピードで突っ走るような演奏をするけど、私はそのような演奏はしたくない。ショパンの楽譜をじっくり読み、時代を考慮し、ショパンの意図したことに心を配りたいと思う」と仰っていた(伊熊よし子さんのブログより)。

ところでフレイレは2019年4月のインタビューでトリフォノフのショパンを褒めていましたが、先日twitterで2010年のショパンコンクールのスコア表を見かけたけれど、確かにアルゲリッチとフレイレは突出してトリフォノフに高得点をつけていました。優勝したアヴデーエワにも低得点ではなかったけれど(アヴデーエワに対してはフレイレよりはアルゲリッチの方が高い点をつけていた)。
2015年のCDジャーナルのインタビューでは、こんな風に仰っていました。伊熊さんのブログで書かれてあることとちょっと異なるけれど、フレイレが言いたいことはわかる気がします。
「私は2010年にショパン国際ピアノ・コンクールの審査員をしましたが、いつも審査員をするときはオープンかつ自然な気持ちで臨みます。”ショパンはこうあるべき”という考えは持ちません。ショパンは自分のアイディアで弾いていいのです。もう時効だと思うのでいってしまいますが、2010年のコンクールでは、私もマルタ・アルゲリッチもダニール・トリフォノフを第1位にしたのです。でも、結果は第3位でした。彼はその後、ルービンシュタインとチャイコフスキーの両コンクールで優勝しましたから、マルタと私の考えは正しかったことになりますね」
こちらは2010年のショパンコンクールのトリフォノフのthird stageの演奏です。こちらはfinalの演奏。確かにフレイレが好きそうな演奏だと思う。
トリフォノフが優勝した2011年のチャイコフスキー国際コンクールでも、フレイレはjuryを務めていたんですよね。
また2019年のチャイコフスキー国際コンクールでもjuryを務めていたことは、ゲルギエフのフレイレへの追悼メッセージで初めて知りました(基本コンクールの話題に興味がないもので…)。動画の説明欄には"He was twice a member of the jury of the Tchaikovsky Competition, in 2011 and in 2019, on both occasions being invited by maestro Valery Gergiev."と。
サンクトペテルブルクでゲルギエフが開いてくれたフレイレの追悼コンサートのソリストが真央君とカントロフで、どういう人選?と不思議だったのだけど、これで納得。ゲルギエフ曰く「ネルソンはコンクールで審査員を務めていたから、彼らのこともよく知っていた」と。チャイコフスキーコンクールの採点表は私は見たことはないけれど、おそらくフレイレは真央君とカントロフの演奏を気に入っていたのではないかな。親友であるフレイレが低得点をつけたピアニストをゲルギエフが追悼コンサートで演奏させることはないように思うので。
ツィメルマンの演奏会の感想なのに、フレイレのことばかりですみません。まだ気持ちの整理ができていないんです。その音楽からあんなに沢山の感動と励ましをくれた人が、どうしてあんな悲しい最期を迎えねばならないのだろう、と…。考えても仕方のないことなのだけれど…。

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