風薫る道

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秀山祭九月大歌舞伎 二世中村吉右衛門一周忌追善 @歌舞伎座(9月18日)

2022-09-22 13:32:29 | 歌舞伎



この秋は怒涛のクラシック音楽祭りの予定ですが、その前に、秀山祭九月大歌舞伎の第三部に行ってきました。
「二世中村吉右衛門一周忌追善」とあるけど、吉右衛門さんが亡くなられたのは11月末だから、まだ一周忌ではないよね(11月は團十郎襲名公演があるからかな?)
でも、吉右衛門さんを偲ぶにはやはり秀山祭をおいて他にないだろうとも思う。
と同時に、歌舞伎座にかかる『秀山祭』の垂れ幕を見て、「吉右衛門さんのいない秀山祭」の寂しさを強く感じました。

【仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場】
吉右衛門さんのお役の中で、第二部の松浦侯とともに5本の指に入るくらい好きな七段目の由良之助。
吉右衛門さんの由良様は最高だと私は思っているのだけど、今回初めて観た仁左衛門さんの由良之助も素晴らしかった。。。

「七段目」は病気全快の仁左衛門の由良助が傑作である。吉右衛門の由良助もよかったが、吉右衛門のそれがハラで見せる由良助だとすれば仁左衛門のそれは姿かたちの風情で見せる由良助。二人の対照的な傑作の一方が欠けても、もう一方の健在はなによりの追善である。

これは渡辺保さんの今月の舞台評からの引用ですが、私も全く同じことを感じました。仁左衛門さんが”仁左衛門さんの由良之助”をこれほど素晴らしく演じられたことは、吉右衛門さんへの何よりの追善になるだろうと。
仁左衛門さんの由良之助は立派でカッコよくて色気もあって。というのは吉右衛門さんと同じだけれど、吉右衛門さんの由良様が鬼平系の大らかな色気なら、仁左衛門さんの由良様は別のタイプの色気というか。雀右衛門さんのおかるとのハシゴ場面のじゃらじゃらは、生々しくてドキドキした。私だったら勘平さんのところに戻ろうとは思わずそのまま由良さんと一緒にいるわ!と思った(ちなみに吉右衛門さんの由良さんのときの感想でも「結婚したい」と書いている)。
全体的に吉右衛門さんよりもリアル寄りの由良さんでありながら、一つ一つの姿が錦絵のように美しくて。立っていても座っていても寝ていても、指先まで全てが絵になるとは…。手鏡を覗くおかると九太夫との三人の場面も一幅の絵のよう。おかるが落とした簪を拾って自分の髪に挿すのは吉右衛門さんはやっておられなかったので、松嶋屋型なのかな。そんな廓で遊び慣れた艶を感じさせる仕草もよくお似合いでした。かつ四十七士を纏めて仇討ちを成し遂げんとする大物感もしっかりあり。蛸を口にする場面も、吉右衛門さんと同じく自然でよかった。また仁左衛門さんはラストの九太夫(橘三郎さん)への怒りもリアルで、由良之助の感情の流れが良い意味でわかりやすかったです。
そんな傑作な仁左衛門さんの由良様を見ながら、仁左衛門さんがいなくなったらもう私は歌舞伎を観なくなるかもしれないな・・・と、前々から思っていることを改めて思ってしまった。
一方、端々で「ああ、ここの吉右衛門さんはああだったな」「こうだったな」と大好きだった吉右衛門さんの由良様を思い出しては涙涙でもあり。
今回は見立てはカットなんですね。”壇蜜”で本当に笑ってしまっていた吉右衛門さんの笑顔を思い出す

雀右衛門さんのおかる、今回も可愛らしかった。
海老蔵は、今月の平右衛門が”海老蔵”としての最後のお芝居とのこと。海老蔵を見るのは久しぶりだったけど、すごく痩せた気がする。前回観たときと同様に、平右衛門の役は彼に合っているように感じました。とても優しそうなお兄ちゃんに見える。時々海老蔵に見えてしまったのも前回と同じでしたが。ただ前回より台詞が聞きとりにくかったのは何故だろう(今回、3分の1くらい聞きとれなかった…)。もっとも黒御簾から音が出ているときは雀右衛門さんの声も聴こえにくかったので、座った席のせいもあるのかも(3階下手)。でも仁左衛門さんの台詞は全て聞きとれたのよね。

竹本は葵太夫さんでした。

(30分間の休憩)

【藤戸】
これは、能の「藤戸」を素材にして吉右衛門さん(松貫四)が構成・演出をされた舞踊劇なんですね。私は今回初めて観ました。
母藤波/藤戸の悪龍は、菊之助。菊ちゃんを見るのも久しぶり。菊ちゃんの女方、やはり私は好きだなあ。菊ちゃんにはこのままずっと”兼ねる役者”でいてほしい。
間狂言で「なんか踊りが上手な子供がいる」と思ったら、丑之助くん(浜の童和吉)だったことを終演後にチラシで知りました。前回観たときは6歳だったけど、今は8歳になったのか。それはそれは可愛がってくれていたお祖父ちゃんのこと、この先もずっと覚えていてくれるだろうか…。
この作品が描いているのは、戦いで子を亡くした親の悲しみと平和への祈り。やはり吉右衛門さんが「一谷嫩軍記」をもとに作られた『須磨浦』にも通じるテーマ(ちょうど2年前の9月だったのだな…)。残念ながら今の世界にもそのまま当てはまってしまう演目です。

尾上菊之助さん・丑之助さんインタビュー「じいたんがつくった大切なお芝居だから頑張る」(婦人画報)



吉右衛門さんの歌舞伎をもう二度と観ることができないこと、まだ信じられないな…。
ところでこのポスター、東銀座の改札を出たところに貼られていて、隣に貼られた新橋演舞場のジャニーズ公演のポスターは若い女の子達がわんさか列をなして写真を撮っていたけれど、こちらの前には誰もおらず。吉右衛門さんの方が圧倒的に素敵だと思うがなあ。


歌舞伎座のショップでは、吉右衛門さんが好んだ品物の販売も。なんかこういうところでも、本当に亡くなってしまったんだなあと感じる…。


日が暮れて提灯が灯ってから壁がライトアップされる前の僅かな時間の歌舞伎座も、艶めかしくて素敵。


木挽町広場で売っていたリラックマの助六、藤娘、太鼓の根付



©松竹

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