風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

Ivo Pogorelich plays Chopin Nocturne op. 62 no. 2

2020-12-14 20:21:32 | クラシック音楽

Ivo Pogorelich plays Chopin Nocturne op. 62 no. 2 - live 2005



今年の初め頃から、コロナの流行とは関係なく、なんとなく鬱ぽさが続いているワタシです。
以前職場で行われた臨床心理士の方のセミナーで言っていたのですが、こういうときにまず大切なのは、「そういう自分の状態を冷静に自覚する」ことなのだそうです。いつもと違うな、いい状態ではないな、と。そして植物に水をやるように、早めに、意図的にその状況を変える努力をすることが必要なのだそうです。好きな音楽を聴く、友達とご飯を食べにいく、好きなアロマを焚く、など自分が心地いいと感じることなら何でもいいそうです。その引き出しは多ければ多いほどいいので、普段から一つだけでなく、数種類用意しておいた方がいい、と。
また、自分の頭の中で、今の自分の状態をイメージするのだそうです。臨床心理士の方が教えてくださったのは、「悩みを箱に入れて、一端自分の外の棚の上に置く」イメージでした。これ、なかなかいいのですが、先日の夜はそれがあまり効果がなくて。そこで自分で思い浮かべてみたのが、「四角い自分の心の世界の中に、白いクマさん(通常の心理状態の安定した私)と黒いクマさん(鬱鬱大魔王。バイキンマン的な顔をしている)がいて、今は悪い黒いクマさんが私の心の世界を支配しようとしている(白いクマさんを追いやろうとしている)」イメージ。でも今は一時的に面積が小さくなってしまっているけれど、ちゃんと白いクマさんはそこにいるのです。負けるな白いクマさん!というイメージです。これ、いいです。イメージした途端に自分自身が白いクマさんのような気分になって、自分の中の黒い部分がすっと消えていきました。黒いクマさんと戦おう、という気持ちになりました。イメージするクマさん達(クマじゃなくてもいいですが)はリアルな感じじゃなく、キャラクターぽい可愛い感じがいいですよ。
そして思ったのが、一番心にとって良くないのは、四角い自分の世界の全体を灰色にしてしまうイメージだな、と。白いクマさんがいなくなってしまうと戦う気力が持てなくなる。だからどんなに小さくなっても白いクマさんは心の中に絶対に残っているから、残っていればいつかはきっと勝てるから(本当に強いのは白いクマさんだから)、そういうイメージを持つのがいいですよ。と、自分用覚書も兼ねて、書いておきます。同じような状況になったら、騙されたと思って試してみてね。

そんな心理状態が影響しているのか否かはわかりませんが、最近ポゴレリッチの演奏をよく聴いているのです。ガヴリーロフの記事を書いた際にポゴさんのリストのロ短調ソナタを聴き直したら、他も聴きたくなり。
上に載せたのは、ショパンの夜想曲op.62-2。
この2005年の演奏は、ケゼラーゼが亡くなった後のポゴさん暗黒期の演奏ですが、とてもいい演奏だと思います。ポゴさんの弾くショパンの音色がとても好き(と感じるようになるとは、初めてリサイタルに行ったときには思いもしなかったよねえ・・・)。ポゴレリッチの演奏を「自己陶酔」と批判する人がいるけれど、私の耳には自己陶酔から最も遠いところにある演奏に聴こえます。
この曲は、2017年のサントリーホールのアンコールでも弾いてくれました。ポゴさんの59歳の誕生日をサプライズでお祝いした日ですね(ちなみにアンコールのもう一曲は、ラフマニノフの『楽興の時』より第5番でした。そちらも素晴らしい演奏だった)。その数日後に奈良の正暦寺福寿院客殿で撮影されたのが、同曲のこちらの映像。
2005年と2017年のどちらの演奏でも、最後の3音(私の耳にはラソーファーと聞こえるので、おそらく楽譜ではソファーミー?)の弾かれ方が天才的だと思うのである。ぼんやりとした頬に涙がつたっているような、そんな音。

この夜想曲op.62は、ショパンの結核が悪化し、ジョルジュ・サンドとも別れた1846年の作曲。先日のガヴリーロフのリサイタルでショパンとモーツァルトに同じ空気を感じたように、ショパンの特に晩年の音楽にはどこか子供のような必死さ、焦燥、諦念、透明感、哀しみが感じられて胸に迫ります。
上記動画のコメント欄によると3:50~の記号はagitatoなのだそうで、「興奮して、急き込んで、不安な、動揺した」の意。ですが我を忘れて激しく弾くのではなく「自分の中に冷静さは残しつつ、感情の高まりや切迫した感じを表現する」のがagitatoなのだそうです。ポゴさんの演奏からはそういう感じが伝わってきますね。

Ivo Pogorelich ..Interview ..."Mezzo" TV

youtubeの関連動画に出てきた、比較的最近のポゴさんのフランスのテレビ局によるインタビュー。
私の目はポゴさんの腕の中のワンコに釘づけ。可愛い!でっかいポゴさんに、ちっさいマルチーズ。リードを指で弄んでるポゴさんも可愛い。
最も影響を受けた人物は?の問いには。
「私が出会った中で最も重要(important)な人物は、私が後に結婚することになった女性です。それは明らかです。ですが私に影響を与えた人物というなら、沢山います。特に作曲家達からは毎日影響を受けています。その音楽を毎日弾いているのですから、当然ですね(笑)。ですから、どこにいても、私はいつも良い仲間に囲まれています」と。
無人島に一曲だけ持っていくなら?と聞かれたポゴさん。
「独奏の曲はあり得ません。たとえそれがギターのパコ・デ・ルシアであっても、歌手のマリア・カラスやモンセラート・カバリェであっても。三重奏や四重奏も違いますね。合唱付きのオーケストラがいい。ですから、無人島の孤独に堪えるために、私ならブラームスのドイツ・レクイエムを持っていきます」と。
へえ、ブラームスのドイツ・レクイエムとは、思いつきそうで思いつかない選曲ですね。確かに大人数の演奏で人の声が入っている曲の方が寂しくないかも。レクイエムだけど、生きていく意志があるなら、ブラームスのこの曲はピッタリですよね。ポゴさんはきっと、寂しがり屋で、現実的で、そして前向きな人なのだな、と感じた回答でした。

Ivo Pogorelich ..Interview with Adriaan van Dis ..Amsterdam, 1984 ..

1984年、ポゴさんが25歳の頃のアムステルダムでのインタビュー映像。いいインタビュー
まだケゼラーゼが生きていた頃の映像で、この後に色々なことが起きたけれど、インタビューを受けている表情や落ち着いた話し方は今もあまり変わらない。
それにしてもチャーミングな青年だなあ。へたなハリウッド俳優より遥かに魅力的だよね。奥さんだったケゼラーゼが羨ましいと素直に思ってしまう(しかもこの時のケゼラーゼは今の私よりも年上なのであった。魅力的な人だったんでしょうね。音楽的にも女性としても)。
でもってポゴさん(25歳のポゴさんだけど)も演奏中の客の咳が気になるタイプだったのか!気にならないタイプかと思っていた。好きなピアニストはラフマニノフと。この当時から曲のrecreate、reproduceについても話していますね。「ショスタコーヴィチのように、ソヴィエトで音楽を学ぶ中でイデオロギー的な問題に直面することはなかったのか?」の問いには、「演奏家に比べて作曲家は曲の中で具体的に社会を反映し表現することができるから、より非難を受けやすい」と。ヴィルサラーゼだったかな?も似たようなことを言っていましたね。最後のスクリャービンもいい演奏

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする