風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

二月大歌舞伎 夜の部 @歌舞伎座(2月24日)

2019-03-07 23:58:06 | 歌舞伎



千穐楽直前に行ってきました。
※3階9列上手


【熊谷陣屋】

――登場人物のほぼ全員が悲しみを背負っていますね。

 反戦の芝居とおっしゃる方がいますが、そうだなと僕も思います。相模、藤の方、義経、弥陀六、鎧櫃(よろいびつ)の中に入っている敦盛さんも悲しいんです。それを華やかな舞台で華やかな衣裳で綺麗な化粧(かお)で見せるのが歌舞伎だと、僕は思っています。

 熊谷が泣かずにお客様が泣いてくだされば最高です。熊谷の気持ちを察していただけるぐらいお客様を自分のほうに引き寄せられるかが勝負ですが、それが難しい。初代吉右衛門という人はそれができました。一度でもいいからこっちは全然泣かずに、お客様に泣いていただけたらと思います。

ようこそ歌舞伎へ:中村吉右衛門『熊谷陣屋』

杮落し以来6年ぶりに観る、吉右衛門さんの熊谷陣屋。
直実が相模と藤の方に「お騒ぎあるな」と言う場面は、吉右衛門さんがインタビューで「直実が一番騒いでいるように見えないよう工夫したい」と仰っていたとおり、今回は直実の心情がより感じられて、緊張感が維持されていたように感じられました(前回はここで客席から笑いが起きていた)。
この場面に限らず、全体的に直実の心情が強く伝わってくる演技をされていたように感じました。首を相模へ渡した後に相模の様子をじっと見守る様子も、妻である相模への愛情が感じられた。吉右衛門さん&魁春さんの夫婦役は、やっぱり好きだなあ。相性がとてもいいと思う。
他には、菊之助の義経が凛とした透明感と品格があってニンだなあと。
そして今回は「十六年は一昔」の前の「今は早や」の台詞を言う吉右衛門さんに、心動かされました。息子をあのような形で亡くした彼は、当然この道を選ぶよね・・・とすごく強く感じられた。。。

 今は早や、何思う事なかりけり、弥陀の御国に行く身なりせば・・・。
 十六年は一昔、嗚呼・・夢だ、夢だ・・・。

【當年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)】
左近君を観るのはいつ以来かな。蘭平以来?と思ったら違った。南総里見八犬伝以来だった。まさかの4年ぶり?大きくなったなあ。化粧をするとミニ松緑だ。お父さんと同じで、五郎のような役が似合いますね。
松緑のブログによると左近君は松緑よりもお祖父さんの辰之助さんに似ているとのことですから、彼の舞台姿を見るのは松緑も感慨深いでしょうね
しかし演目自体は、体調がよくなかったせいもあり、あまり楽しめず・・

【名月八幡祭】
仁左衛門さん(三次)&玉三郎さん(美代吉)がもうひたすらに極上だった・・・・・・・・・

最近ご無沙汰気味な歌舞伎だけれど、こういうのを観てしまうと
VIVA歌舞伎
という気分に心底なる。
この三次と美代吉の軽薄さの見事なことと言ったら!
仁左衛門さんの三次が下手から駆けてくる駆け方、戸口への入り方、金を無心するときの仕草&台詞回し。ああもうすべてが極上に軽薄!
玉三郎さんの美代吉が魚惣裏の川を舟で通るときに新助にかける「待ってるよ~~~~~~」。ああもうカンペキな軽薄加減!
彼らって、グレートギャツビーのトム&デイジーとギャツビーの関係に少し似ているなあと。自分達の行いがどれほど純朴な人間を振り回し、その人生を滅茶苦茶にし得るかなど考えもしない都会の人間の不注意さ、無責任さ。性格の良し悪し、悪気の有り無しではなく、ただ彼らが“そういう種類の人間”であるということ。
泣き崩れる新助に「こんなところに長居は無用だ」と魚惣が言うときに、上手に座る三次と美代吉が纏っている空気。江戸という街の闇が見えて、ぞくっとした(でもそれを見て嫌~~~な気分にならないところが歌舞伎のステキなところよね。嫌な気分どころか「ニザさま~~~玉さま~~~もう最高すぎます~~~~」とさせてくれるのだもの)。
魚惣はそういう種類の人間ではないけれど、彼らの闇をよくわかっている人なんですよね。免疫のない新助のような田舎者が迂闊に近づいてはいけない人種であることがよくわかっているから忠告した。そういう魚惣のさり気ない凄みがまた素晴らしくて。歌六さん、玉三郎さん、仁左衛門さんが並ぶ舞台には、確かに”江戸”が浮かび上がっていたのでした。ああ、歌舞伎ってすごい。。。。。

そんなお見事すぎる三人の脇役に囲まれて主役を務めなければならないのだから、松緑は大変だよね。。
松緑がこの役をやるのは二度目とのことだけれど、私が観るのは今回が初めて。
この役は吉右衛門さんでしか観たことがないけれど、松緑も前半の演技はとてもよかったと思う。本当に田舎者で、本当に美代吉を信じてしまっていて、「うわぁ、信じ切っちゃってるよ、やばいよ」という空気が出ていて、ニンといっていいのではないかと。ただ肝心の狂ってからの場面が、、、吉右衛門さんのそれと比べてしまうと狂気の迫力がまだまだ乏しく(松緑、気狂いの演技が苦手?)。。。それまでがよかっただけに残念。。
とはいえ正直なところあの魚惣&三次&美代吉を観ることができたというだけで既に1000%満足しちゃっているのですけれど。

そういえば最後の演出が吉右衛門さんのときと違ったような。殺し場の雨が本水ではなかったし(ふわ~っとしたミストみたいな感じだった。本水の方が迫力あるのになあ)、吉右衛門さんのときはワッショイ!で担がれて花道を退場した後に満月が静かに昇ったと思うのだけれど、今回は若衆達が集まってきたときにもう昇っていた

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