風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

『ジゼル』 K-BALLET COMPANY @オーチャードホール(6月30日)

2013-07-01 22:33:24 | バレエ



私に生舞台の感動を教えてくれたのがウエストエンドの『オペラ座の怪人』なら、バレエの面白さを教えてくれたのは熊川哲也さんの『ドン・キホーテ』です。
昨夜は、私にとって二度目のKバレエとなる『ジゼル』に行ってまいりました(狙ったわけではなかったのですが、千秋楽でした)。

とはいっても、昨年秋のドンキから早8ヶ月。
幸いなことにあれから数々の素晴らしい舞台(バレエに限らず)に出会うことができ感動の連続だった私は、もはやちょっとやそっとの舞台では感動できないのではないか・・・という贅沢な不安を抱えておりました。
しかし、そんな不安はアルブレヒトの登場場面で一瞬にして吹っ飛びました。
彼が舞台に躍り出たその瞬間、「ああ、やっぱり熊哲はいい。。。」と感じさせてくれた熊川さん。
そうだった。この人はちょっとやそっとなどというシロモノではなかったのだった。

熊哲にはバジルのようなやんちゃな役が一番似合うという印象は今も変わらないけど、今回のアルブレヒトを見て、王子系も意外にしっくりくるのだと知りました。
もともと華と品を備えたダンサーなので似合わないわけはないのですが、彼が演じるとアルブレヒトにもどこかやんちゃな愛嬌が漂うからです。
普段はあんなにエラそーなのに、舞台に立つとどうしてこう可愛らしくなるのだろうかこの人は笑。
踊りも、やっぱり周りのダンサーと違う。
その伸びやかさ、力強さ、スピード、軽やかさ、そして決めるところはピタリと決める軸のブレなさ――。
もっとも技術的には、他の方もとても上手なのです。
でも熊川さんには、「この人の踊りを見たい」と思わせる強い魅力がある気がします。
二幕で、踊って踊って踊り疲れて舞台下手に倒れこむところ、素晴らしかった。youtubeに過去のKバレエ公演の動画が上がっていましたが、今回のアルブレヒトはその何倍も悲愴感が溢れていて全く別の舞台を観ているようでした。ほんとうに素晴らしかった。
またカーテンコールで一人で躍り出たときの姿も、この人ならではのカッコよさで。魅せるなぁ。

佐々部さんのジゼルは、ドンキのときよりも格段に良くなっていて驚きました。素直な踊りはそのままにずっと安定感が増していて、いい意味で自信が出てきているように感じられました。一幕での熊哲とのラブラブぶりも、相変わらずいい感じ^^
もっとも、一幕終わりの気狂いの場面や、二幕の精霊になった場面の表現力は、もう一つかな・・・。まぁyoutubeで観たザハロワと比べた場合ですが^^;。いずれにしても、とても美しく華もあるダンサーなので、これからが楽しみです♪

S・キャシディさんのヒラリオン。嫌味なところがなく、ただ強くジゼルを愛している男となっていたところがいいなと思いました。その分最後に精霊ウィリ達の餌食になってしまうのが気の毒ですけど、ウィリ達は性格の良し悪しにかかわらず若い男は須らく餌食にしているわけですから、ヒラリオンを悪役にしすぎないことで、そんなヨーロッパの童話にあるようなぞくっとする雰囲気が上手く表現されて良かったと思います。

その点、山田蘭さんのバチルドは少々イジワルにしすぎではないかと(村娘のジゼルに手にキスをされて露骨に顔を顰めるetc)。これが熊川さんの演出によるものかどうかはわかりませんが、バチルドをわかりやすい意地悪に描くことでストーリー的にわかりやすくなった分、同じだけ薄っぺらさも増してしまったように感じました。この場面だけ、まるで漫画か昼ドラを見てるみたいだった・・・。個人的にこの手の役は、昨年観たコンダウーロワのガムザッティのような品のある演じ方の方が好みです。熊哲のアルブレヒトは一幕では若者らしい軽い気持ちでジゼルとの恋愛を楽しみ、彼女の死により、彼女が自分にとってかけがえのない存在であったことに気づき、そして二幕で懺悔と悲しみの念にかられて彼女の墓を訪れるのだと思います。それならばあえてバチルドを意地悪く描かなくても、アルブレヒトの誠実さは十分に出せるのではないかと思うのですが、いいかでしょう。

G・タップハウスさんのベルト、浅川さんの女王ミルタ、池本さん&井澤さんの村人、素晴らしかったです。ほとんど足音をさせないコールドの皆さんも見事でした。

舞台全体の感想としては、明るく軽快な一幕も良かったけれど、白眉はやはり二幕。
アルブレヒトはジゼルの気配を感じることができても、その姿は見えません。どんなに焦がれても、すでに二人の世界は違うものになってしまっている。やがて夜が明け(この朝の光の美しいこと!)ジゼルが消え、アルブレヒトの腕から零れ落ちる真っ白なユリ。永遠に腕の中から消えてしまったジゼルの面影を抱き締めるように一人舞台に蹲るその姿から感じるのは、“別離の悲しみ”などという言葉では生ぬるい、凄絶な喪失感と絶望――。
それほど深く、アルブレヒトはジゼルを愛していたのです。しかし、もうジゼルはいない。
だからこそ、ひたすらに美しく、観る者の心に深い深い感動と余韻を残すラストでした。
一晩たった今でも、この光景が頭から離れません。

舞台の良し悪しを決めるのは、「感動できるか否か」だと私は思います。
どんなにたくさん欠点があっても、観終わった後に感動が残る舞台は、私にとって素晴らしい舞台です。
一方、どんなに技術的にレベルが高くても、感動が残らなければ、決して良い舞台だとは思いません。まあ、当り前のことですが。
そして昨夜の舞台からは、大きな大きな感動をもらうことができました。
歌舞伎座のこけら落としでも散々味わった感覚ですが、今後これ以上に魅力的なアルブレヒトに出会えるのだろうか、と本気で感じてしまいます。これは、昨年のドンキのバジルに対しても思いました。
また、熊哲の舞台はいつも観客に「この劇場で思いきり楽しい時間を過ごしてもらいたい」という気持ちが強く強く伝わってきて、そのことにも感動してしまいます。客を適当にごまかそうという感じが全くありません。それがこのバレエ団を観に来ている観客にちゃんと伝わっているのだと思います。
永遠に続くのではないかと思われるKバレエ独特のカーテンコールも、観客が心から拍手を送り、そしてスタオベをしていることがよくわかるから、まったく嫌な感じがしない。
いつまでもいつまでも拍手を送りたいと心から思わせてくれた、そんなKバレエの『ジゼル』でした。

そして勢いで、秋の『白鳥の湖』のチケットを買ってしまいました。。。
歌舞伎も観たいし、バレエも観たいし、旅行にも行きたいし。。。。。
どうしましょう。。。。。。。お財布。。。。。。。。


Spring Tour 2013『Giselle』



Tetsuya Kumakawa Giselle




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