特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

トイレへGO!

2007-06-10 08:21:52 | Weblog
私は晩酌をする人間なので、夜中に尿意をもよおすことが多い。

トイレへGO!
せっかく寝ているところを尿意で起こされるのは辛い。
ただでさえ、不眠症なのに・・・。
だったら、酒を飲まなきゃいいんだけどね。
自業自得。

私は若い頃、どんなにトイレに行きたくても丑三時(深夜2:00頃~4:00頃)には起きなかった。
時計を見て、その時間帯だと我慢していたのだ。

何故かって?
「丑三時は、幽霊がでやすい時間帯」
って聞いたことがあって、私はその類が大の苦手だから。
〝足がない〟とされるそれらのモノと、会いたくなかったんだよね。
でも、よく考えると、幽霊なんてトイレだけにでるもんじゃないはず。
そう考えると、自分の恐怖心がバカバカしく思える。

そんな私は、
「そんなんで、よくその仕事をしてるな」
とバカにされることもあるけど、私にとって幽霊と死体は別物なんだよね。

ちなみに、今は丑三時も気にしない。
丑三時だって平気でトイレに起きている。


肝臓を悪くした経験のある私は、深酒をすると決まって翌朝腹をくだす。
(汚い話で申し訳ない。汚い話はもう慣れてる?)
しかも、一度のトイレでは済まないこともある。
外出した後にもよおしてくるとツラさも倍増。
電車に乗っているときは、〝途中下車の旅・トイレ編〟となる。

トイレへGO!
しかし、朝の通勤時間帯はどこの駅で降りてもトイレは満員。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍んでやっとたどり着いたトイレが満員だったときの絶望感は例えようがない。
それでも、もう場所(駅)を変える力は残っていない。
ただ、トイレの行列に加わってジッとしているほかないのである。
わずかに残る忍耐力を、尻の穴筋に集中して。

しかし、並んでいる人のほとんどは緊急事態のはずなのに、誰もが平静を装っているところが人間臭くておもしろい。
そういう私も、平気そうな顔をして並ぶ一人。
そんな所で格好つけたって仕方ないのにね。


「ん!?ギョッ!!」
私は、開けたばかりの玄関ドアをバタン!と閉めた。
そして、ドアノブを握ったまま俯いて硬直。
ショートした思考回路を直すのに、少しの時間がかかったのだ。

「俺が見たアレは何?」
「人の頭じゃなかったか?」
「そんなはずは・・・とりあえず、もう一回見てみるか・・・」
私は、ゆっくりドアを開け、片目を閉じて視線を上げた。

「オ゛ーッ!」
最初よりは長くもったけど、それでも強い拒絶感を覚えて再びドアを閉めた。

「やっぱり頭だ!」
急に心細くなってきた私は、一旦、玄関から離れた。
そして、深呼吸しながら空を仰いだ。

「遺体は警察がさげているはずだし・・・拾えないところは残して行ったのか・・・でも、さすがに頭は置いてかないよなぁ・・・肝心なところだし・・・」
私は、自分が見たものについて、何らかの結論が欲しくて、グルグルと考えた。

「どちらにしたって、中に入るしかないよなぁ」
私は、重くなった足を引きづって再び玄関の前に立った。

「よっしゃ!次は中まで入ってやるぞ!」
それが、腹に力の入っていない空元気であることは自分でも分かったけど、とりあえず自分に勢いをつけてみた。
そして、再々度、玄関ドアを開けた。

玄関から延びる廊下の脇にドアがあり、そのドアは開け放たれていた。
そして、その床には腐敗汚物が広がり、そこに人の頭らしきモノがあった。
遠目からも黒々とした頭髪が確認できた。

「どう見ても頭だよなぁ・・・どうしよぉ・・・」
「当然、顔面も腐乱してるだろうなぁ・・・」
「目が開いて睨まれたら気絶するかもな・・・」
私は、非現実的な妄想に襲われ、背筋には悪寒が走った。

「これじゃ仕事になんないよ・・・違うことを考えよ!違うことを!」
私は、玄関に立ちすくんだまま脳のリセットを試みた。
しかし、そう簡単にはリセットできないのが特掃現場。
しばらく悶々と戦った。

「失礼しま~す」
しばらくして、何とか気分を取り直した私は、中へ足を進めた。
そして、〝頭〟に近づいていった。

トイレへGO!
「うへぇー、そういうことかよぉ」
故人が倒れていたのは廊下脇のトイレ。
そして、〝頭〟に見えたモノは、故人の頭皮・頭髪だった。
それが、シッカリした状態で床に立体していた。
警察は、中(顔・頭蓋骨etc)だけ抜いて持って行ったのだった。

「ついでにコレも持って行ってくれよぉ・・・俺は液モノだけで充分だからよぉ」
言葉は悪いけど、そこはとてもヒドイ状態。
液も脂も粘土もタップリでウジ・ハエの天下。

特掃現場の中でも、トイレは難易度が高い。
ただてさえ狭いうえに、中央には便器が座っている。
作業のやりにくさは相当なものだ。
自分の手を道具にするしかなく、身体も汚れまくる。
作業の手順と内容をシュミレーションすると、おのずと気分は暗くなった。

「これをやんなきゃいけないのか・・・」
特掃除なんて、もともと明るい気分でやる仕事ではないけど、この時は一段と気分が重くなった。

子供の頃、楽しいイベントが控えていると、それが楽しみで楽しみで夜もろくに眠れなかった経験はないだろうか。
この現場の場合も似たようなパターン。
過酷な作業が控えていると、不安で不安で夜もろくに眠れない。

私にとって、トイレは安らぎの場所とは限らない。
時には、戦場(仕事場)になる。
それでも、どんな時でも、トイレへGO!するしかない私なのである。






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