特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

朝靄

2007-04-17 07:57:42 | Weblog
不眠症の私は、目覚時計がなくても寝坊することはない。
時計を見なくてもだいたいの時刻が身体で分かり、どんなにゆっくり寝ていたくても、毎朝、決められた時間を前に目が覚めてしまう。
特に、デカい現場・困難な現場を抱えている時や夜中の電話が鳴るときは、熟睡なんてしていられない。
重い緊張感とプレッシャーが、一晩中、私の神経にチョッカイをだし続けるのだ。

胸騒ぎの夜も平安な夜も、時は冷たく過ぎるのみ。
そのうちに明るくなってくる窓のカーテンが、重圧になってのしかかってくる。
疲れている時などは特に、カーテンが明るくなるのが辛い。
「このまま夜が明けなければいいのに・・・」
なんて、靄がかかる気分を晴らせないままガックリ。

朝、カーテンを開けるときに思うことがある。
「はぁ・・・またいつもの朝か・・・」
マンネリの毎日に、朝っぱらから溜息をつく私。
「今日も、変わり映えのしない一日が始まるんだなぁ」
同じことを繰り返してばかりの毎日に飽き飽き。
混沌とした気分で仕事に向かう日が少なくない。
また、生活に追われるばかりの毎日に輝きを見出だせないまま、意味もなく惰性で生きているように思えてしまうことも多い。
〝時間がないのに、なんだか退屈〟
そんな雑然とした気分。

「仕事をしなくて生きていけたら、どんなにいいだろう」
私は、そんなバカみたいなことをよく考える。

毎日の労苦は、いわば宿命。
仕事が楽じゃないのは、なにも死体業に限ったことではないだろう。
その中にささやかな生き甲斐や楽しさ・幸せを見出だし、そんな毎日と悪戦苦闘しながら適当なところで折り合いをつけている私。

私の日常の楽しみと言えば、食べることと寝ることくらい。
それくらいしか思いつかないことに、自分でも苦笑い。
それでも、
「夜は何を呑もうかな」
「肴は何にしようかな」
等と考えると幸せな気分になる。
「今日も、一日が無事に終わるな」
「あとは寝るだけだ」
等と考えると、平穏な気持ちになる。
こんな小さな幸せを噛み締めながら、翌朝までのわずかなひとときを安らぐ。

変わり映えのしない日々に埋もれていると、脱日常を求めたくなる。
休暇・趣味・レジャー等に代表されるそれらは、刺激的で新鮮。
人生に膨らみをもたせてくれる。
しかし、〝マンネリの日常があるから脱日常が光るのだ〟ということを忘れてはならないと思う。

「仕事なんかしなくても生きていけたらいいのになぁ」
遊んでばかりじゃ、そのうち遊びも楽しくなくなるだろう。
「何かうまいもの食べたいなぁ」
御馳走ばかりじゃ、御馳走だって美味しくなくなるだろう。
「なんか面白いことないかなぁ」
快楽ばかりじゃ、何が幸せなのか分からなくなるだろう。

私が仕事を通じて会う人々は、ある意味で〝脱日常〟の状態になっている。
普通の人にとって「死」は非日常的なこと。
〝変わり映えのしない日常〟が、どれほど貴重なものであるかが、その人達を通じてヒシヒシと伝わってくる。

病死・事故死・自殺・孤独死etc
世間の人々にとっての非日常が、私にとっては日常。
そんな特異な環境に長く生きている私は、どこかの神経がイカれているかもしれない・・・酒癖・不眠症・不安症・情緒不安定・頭痛・胸痛etc。

私にとって特掃は、淡々とできる仕事ではない。
現場に行けば、冷えた心と疲れた身体でも熱くなり、おのずとテンションが上がる。
人体腐乱への嫌悪感とは裏腹に、得体の知れない興奮とマイナスのパワーがヒートアップする。

どんな現場でも、一度入ってしまえばイヤでも作業を強いられる。
「退屈」なんてセリフはとても吐けない。
特に、元人間の掃除は極めつけ。

そんな特掃を黙々とやりながら、私は色んなことを考える(脳停止が必要なときもあるけど)。
そして、辛い作業の中に、自分を鍛練してくれる何かを感じる。
逃げたいような、逃げたくないような・・・まるで、何かの修業でもしているかのような感覚だ。
流れる汗と涙は、命のトレーニングの証。

誰もいない自分一人だけの特掃では、自分を丸裸にして曝け出す。
どこかの劇団員が芝居でもしてるかのようなオーバーアクションで、人目や格好・面子を気にせず心の腐敗ガスを抜きながら格闘。
そんな作業と自分との戦いを終えたときの達成感と疲労感は、私自身に何らかの収穫をもたらしてくれているような気がする。
そして、それが朝のカーテンを少しでも軽く開けるための、貴重な一日を力強く生きるための力になるのだろう。

いつか、いつの日か、朝靄の向こう広がる晴天を仰ぎたい。
そのために、私は今朝も重いカーテンを開けてきた。






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