特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

人始末(前編)

2007-05-23 15:34:22 | Weblog
私の仕事は色々あるけど、その中の一つに遺品の回収処理がある。
〝遺品〟と言っても明確な定義はなく、その種類や量は案件毎に様々である。
家財・生活用品を丸ごと撤去することもあれば、特定の物だけを回収することもある。

単遺品で最も多いのは布団。
故人が、生前だけでなく亡くなってからも安置されていた布団だ。
次にくるのは仏壇。
その他には、神棚・写真・人形(縫いぐるみ)・衣類が比較的多い。

ある中年女性から遺品処理の依頼が入った。
品目は仏壇。
回収するモノが特定できている場合は事前見積も必要ないので、私は、仏壇のサイズと付属品を確認してから料金を伝えた。

私が提示した費用には問題はないようだったが、電話の向こうの依頼者は回収処理を依頼しようかどうしようか迷っているようだった。
そして、理由も告げず歯切れの悪い口調で、回収依頼を撤回してきた。

「落ち着いたら、また電話します」
依頼者にそう言われて、その場の話は終わった。

「何なんだろう・・・」
料金が折り合わなかったのなら仕方がないけど、どうもそんな風ではなかったので、私の頭はしばし消化不良状態になった。

その数日後。
同じ依頼者から、再び電話が入った。

「仏壇を処分することに決めましたので、引き取りに来て下さい・・・できるだけ早い方が助かるんですけど」
特掃ほどの急務ではなかったけど、私は、依頼者の希望に沿うように時間を見つけて現場に出向いた。

現場は、古めの一軒家。
家は古くても、その周囲は整理・清掃がきれいに行き届いていて、清潔感のあるたたずまいだった。

インターフォンを鳴らすと、中から年配の女性がでてきた。
電話で話したその人であることはすぐに分かった。
女性は、私を丁寧に迎えてくれた。
通された家の中も、きれいにされており、そこから女性の人柄を知ることができた。
何はともあれ、異臭もないし靴を脱いで上がれる家に、自然とリラックスする私だった。

「これなんです」
女性は、奥の和室にある小さな仏壇を指差した。
「これですかぁ」
私は、床の間に置いてある古ぼけた仏壇に近づいてシゲシゲと眺めた。
そして、その扉を開けてみた。

「あれ!?」
中には、本尊(仏画)・位牌がそのまま残っていた。

普通は、回収処分する仏壇からは本尊・位牌は出されている。
本尊・位牌を含めて処分することはない。
しかし、ここでは、それが残されたままになっていたのだ。

「あのぉ・・・これも一緒に処分ですか?」
私は、本尊・位牌に手を触れながらそう尋ねた。

「ええ・・・できたらお願いしたいんですけど・・・ダメですか?」
女性は、少々言いにくそうにそう応えた。

女性は独り暮らし。
夫や子の有無までは尋ねなかったけど、近い身寄りもいないらしかった。
今回の仏壇も亡くなった両親から受け継いだもの。
それを長年一人で保ってきた。
しかし、女性も自分の老い先を考える年齢になり、心体がシッカリしているうちに最期を迎える準備をしようとしているところらしかった。
片付けなければいけないモノは色々あれど、中でも、仏壇の処分は特にキチンとやっておきたいようだった。

コノ世での命がある限り守るべきか、しかし、後継ぎがいない自分が死んでしまったら、誰も仏壇の面倒はみてくれない・・・女性は相当に悩んだ様子。

「バチ当たり!」
と言われてしまうかもしれないけど、私にとっては仏壇も位牌もだだの木製品。
何かの霊や魂が宿っているなんて、とても思えない。
だから、祟られる心配もしていない。

乱暴な言い方をすれば、人体も死んでしまえばただの肉塊。
しかも、腐ってしまえばただの汚物。
それと似たような感覚で捉らえるから、御本尊も御位牌も、私にとってはただの木製品。
依頼者の立場や心情・故人の遺志を無視していいなら(実際はできないけど)、仏壇や位牌を廃棄物として処分するのに躊躇いはないのだ。

「位牌でも何でも、問題ありません」
「当方の処分法を了承していただければ、位牌も引き取りますよ」
私は、そう言って仏壇の扉を閉めた。

女性は、私が位牌の処理には難色を示すと思っていたのだろう。
その予想に反して、迷わず即快諾する私に、女性は安心したようだった。

「でしたら・・・これはいかがでしょうか」
女性は、仏壇の脇の四角い箱を静かに持ち上げた。

「え?それですか!?」
それは、明らかにアレだった。

「さすがにソレは・・・」

つづく





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