特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

アルコール

2007-05-20 16:33:24 | Weblog
今更言うまでもなく、私は大の酒好き。
飲み始めると、ビール・焼酎・日本酒とすすんでいく。

学生時代は、無茶な飲み方を重ねてきた。
店のトイレや駅のホームで吐いて、人に迷惑をかけたことも何度かある。
社会人になってからも、その癖は治まらず、自分の服はもちろんタクシーをゲロまみれにしたこともある。
まったく、恥ずかしいかぎりだ。

歳を重ねるに従って、飲み方はおとなしくなってきたけど、今でもその名残はある。
「俺ってアル中?」
と思うこともしばしば。

酒は人を変える。
自分が自分ではなくなる。
気分が大きくなり、イヤなことを忘れさせてくれる。
しかし、その代償も小さくはない。

ある日の午後、一本の電話で依頼者に呼ばれた私は、現場に急行した。
道程が遠かったこともあり、私が現場に到着する頃には外は暗くなっていた。

先に訪問したのは依頼者宅。
家の中に入るよう促されたが、
「時間がないので」
と断って玄関での立ち話にした。
そこへ行く前に、別の現場で作業してきた私は、見た目には普通でも実際は〝きれい〟ではなかった。
そんな状態で他人様の家に上がり込むのは申し訳ない感じがしたのだ。

現場は平屋の一戸建、場所は寝室のベッド。
亡くなったのは依頼者の兄弟。
アルコール依存症で長年の独り暮し。
警察の見立てでは、死後二週間。

話をする中で、私が普通の掃除屋ではないことが分かると、依頼者はえらく驚いた。
そして、興味深そうに私をジロジロと眺めた。
私は、依頼者との会話が世間話に変化しそうな予感がしたので、それをかわして現場に向かった。

現場に到着した私は、預かってきた鍵を使って玄関を開錠。
そして、息を止めてドアを開けた。

「アレ!?」
〝死後二週間〟と聞いてきたのに、その現場に腐乱臭はなかった。
濃い腐乱臭が充満していることを覚悟していたので、私にとっては幸いなことなのに拍子抜けした。

玄関から奥の部屋は真っ暗。
しかし、電灯はつかない。
私は、懐中電灯を上下左右に揺らしながら電気ブレーカーを探した。
見つけた電気ブレーカーは上がった状態のまま。
電気代未払いのせいだろう、この家の電気線は外されており、電気は全く使えない状態になっていた。

「まいったなぁ」
私は、電気が使えないことが判明した途端に心細くなってきた。
それでも、現場確認は進めなければならない。
懐中電灯の明かりだけを頼りに、歩を進めるしかなかった。

「失礼しま~す」
小声でいつもの挨拶。
当然、返事はない。
聞こえてくるのは、自分の足音のみ。
仮に、返事があったら退却するところだけど。

〝暗闇〟って普段でもあまり気持ちのいいものではない。
しかも、閉ざされた屋内の死体発生現場では。
酒でも食らって、気持ちに勢いをつけたいくらいだった。

ゆっくり進む家の中に、家財・生活用品は少なかったけど、台所の隅には焼酎の空ボトルが山と積まれていた。
〝アル中〟と聞いていた通りの状況。

「故人は、酒が好きだったんだなぁ・・・俺と一緒だ」
故人に、ちょっとした親しみを覚えた。

「寝室は・・・ここか?」
細く伸びる懐中電灯の光の先、一つの部屋の奥にベッドがあった。

「あのベッドで亡くなってたのか・・・」
心の警戒注意報が警戒警報に切り替わった。

「ウジ君・ハエさんもいないようだし、特に異常なさそうだな」
部屋に足を踏み入れる前に部屋全体を確認した。

「さてと、肝心要のベッドを見てみるか!」
私は、ゆっくりと問題のベッドに近づいた。

布団の乱れはなく、汚腐団の気配もなかった。
それでも、めくり上げるときは少し緊張した。
掛布団をめくってみると、オネショでもしたかのような汚れがあっただけ。
気温の高い時季でないとは言え、とても〝死後二週間〟とは思えなかった。
ただ、枕に付着した大量の毛髪が、ここで人が死んでいたことを暗に示していた。

科学的根拠は不明だか、〝酒飲みの人間は、身体が腐りにくい〟ということを聞いたことがある。
〝生前に多量の酒を飲んでいた人は、身体にアルコールが浸透していて腐りにくい〟という話。
事の真偽は、法医学者にでも尋いてみないと分からないだろうけど、そうなると、ここの故人にヒドイ腐乱がなかったことに合点がいく。

しかし、アルコールの摂り過ぎは、身体は腐らせなくても心を腐らせる危険がある。

摂取?節酒?
そんなことを考えながらの晩酌は、今日も続く。







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