気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2005-10-31 22:17:44 | 朝日歌壇
葡萄食む甘さ酸っぱさ分かち合う人ある幸せトロントの秋
(カナダ 堀千賀)

珈琲屋の珈琲煎る歌冴えしままたそがれ苦く秋の風吹く
(小平市 宮下矩雄)

吸い上げてソバ喰う男その音の凄さが店の中心となる
(東京都 豊英二)

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食欲の秋らしく、食べ物を歌ったものから感想。

一首目。カナダ在住の作者の歌。甘さ酸っぱさが人生の味をも思わせる。俵万智の歌で、「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ、に似た感覚。こういう種類のほのぼのした幸福を歌にすることを嫌がる人が歌人の中には多い。新聞歌壇の読者と歌壇の違いかもしれない。

二首目。馬場あき子の評やここしばらくの様子から、朝日歌壇の常連投稿者である阿部壮作氏への挽歌と知る。背景を知ってますますわかる歌。

三首目。一読して状況も音の凄さのわかる歌。なんとはなしに奥村晃作の歌を連想する。たとえば「大男といふべきわれが甥姪と同じ千円の鰻丼を待つ」。この店のどこかに奥村さんとそのお連れがいる風景を想像して笑いがこみ上げる。

猫と短歌

2005-10-30 23:49:44 | つれづれ
猫のする正坐のかたちに韻(ひびき)あり森岡貞香をつとおもはしむ
(小池光 滴滴集)

「猫投げるくらいがなによ本気出して怒りゃハミガキしぼりきるわよ」
(穂村弘)

ほんたうはわれの妻なり五号室の白猫(はくべう)が夜の階で待つてゐる
(高澤志帆)

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短歌人11月号、特集*猫と短歌を読みすすむ。
編集長の小池さんの影響か短歌人会には猫好きが多い。全国集会では猫の歌は人気がある。現実の生活の周辺に短歌をやる人がいないので、森岡貞香の名を上げて盛り上がることはないが、言わばマニアックな話題で「うんうん。知ってる。なるほど」と思えることが短歌の愉しみだろう。
最近では、ほかでも「短歌人会の近藤です」と自己紹介するようになった。

穂村弘の歌は、以前の関西歌会研究会で大橋麻衣子さんが好きだと言ってた歌。会話の中に勢いと怒りがある。

高澤さんの歌は、題詠マラソン2003の歌。猫の持つ艶っぽさがよく表わされている。高澤さん、今年もマラソン完走されて良かった。

穏やかな陽だまりで寝る猫のごと静かにほどけて流れる時間
(近藤かすみ)

題詠マラソン2005(89~91)

2005-10-29 12:51:46 | 題詠マラソン2005
089:巻
巻き髪を諦めぬをんな桃色の輪を偶数個あたまに散らす

090:薔薇
<薔薇>の文字ならび咲きてふるふると花びら幾まい便箋のうへ

091:暖
手のひらに暖かさ無用ひとの個を示す模様を鑑識は見る

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題詠マラソン2005、いよいよあと三日。ラストスパートになってきた。
私は、先日10月21日に159着でゴール。ほっとしました。
さて、短歌人会チームからは、私の把握しているところでは21名が参加。
完走しているのは、伊波虎英さん 春畑茜さん 近藤の3名かな?
こうしているうちにも、次々ゴールされるだろう。
短歌人会、がんばれ!!!


ただごと歌

2005-10-27 20:50:36 | つれづれ
うつくしきをとめの顔がわが顔の十数倍になりて映りぬ
(斎藤茂吉)

大地震予知出来たとてその日その時全員どこにおれと言うのか
(奥村晃作 男の眼)

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短歌人会関西歌会の詠草〆切が迫ってきたのを思い出し、一首を詠草係の谷口龍人さんに送る。
そう言えば次回の研究会のテーマがただごと歌で、それも1~2首選ばなければならない。一応、上の二首を書いて送った。茂吉の歌は、小池光『現代歌まくら』のハリウッドの項目で見つけた。茂吉のどの歌集の歌かすぐわからないので、これは宿題として調べる予定。
ただごと歌のなんたるかを皆さんと語るのが楽しみだ。
私が思うのは、気持ちが納得してストンと落ちる歌。

栗もみぢ菊のかたちの菓子食みて秋と思へば秋の味する
(近藤かすみ)

あかあかと

2005-10-26 19:20:19 | つれづれ
あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり
(斎藤茂吉 あらたま)

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先日、府立図書館で見つけた『斎藤茂吉』(日本の作家100人・人と文学)を読み始める。著者は小倉真理子、勉誠出版。あちこちで茂吉の歌を読み、断片としては知っているが全体の評伝を読んでいなかった。この本は手ごろで読みやすそうだ。何より、リニューアルした府立図書館に新本であったのがうれしい。このシリーズで次に読みたいのは『谷崎潤一郎』。
ほかに並行して読んでいるのが『頭がいい人、悪い人の話し方』樋口裕一、PHP新書。『現代歌まくら』小池光。短歌はそのうち何か出来るだろうと鷹揚に構えることにする。

栞ひも眠りし凹みJの字の乳房のごとく白く向き合ふ
(近藤かすみ)

今日の朝日歌壇

2005-10-24 22:02:56 | 朝日歌壇
運動会にマツケンサンバ踊る子は光る鉢巻はにかみて締む
(広島市 長久つた代)

闘志こめ球を打つたび藍ちゃんのほぞ見え隠れする若きウェア
(那覇市 蜂谷かほる)

懐かしき藤山寛美の笑みを持つ岡田監督夜空に舞いぬ
(東京都 西出和代)

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今日の朝日歌壇から、時流に乗った歌。

一首目。マツケンサンバと光る鉢巻から、様子がすぐに目に浮かぶ。大人の企画した大人の喜びそうなものは、子供にはけっこう恥ずかしいものだ。でもやってみると、いつまでも残る良い思い出になる。はにかみて・・・が良い。
二首目。結句の「する若きウェア」が強引な表現だが、それも勢いで押されていい感じ。
三首目。岡田監督と藤山寛美。そういえば似ているように思う。野村監督も似た系列。これをすぐ歌にして投稿する気合に一票。

新聞歌壇について批判的に書いてあるものを読むことがあるが、世相を切り取ったイキのいい歌をよむのは文句なく楽しいことだ。


題詠マラソン2005(86~88)

2005-10-22 12:19:07 | 題詠マラソン2005
086:占
京極で買うた辻占懐に三月書房のガラス戸開ける

087:計画
計画を立てる計画スタジオの鏡の奥の奥までわたし

088:食
濃きうすき縞目うつくし卓の上のおぼろ昆布の潮の香を食む

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題詠マラソン2005を、ようやく完走した。
一日に一首以上すすまないと言う自己ルールを今年も達成した。
要するに行き当たりばったりで、その都度一首ずつ作って、ようやく100首に到達。
三月のスタートのころに作った歌は、もうすっかり昔のことのように思える。

これから、何をどう作っていくのだろう。
バレリーナが毎日レッスンを続けて肉体を維持するように、歌人も休まずに歌を作りつづけなければならない(らしい)。
当分は短歌を読むことで言葉の在庫を増やしたい。

関係ないけど今日は時代祭です。

歩道

2005-10-21 12:27:18 | つれづれ
鋪道には何も通らぬひとときが折々ありぬ硝子戸のそと

(佐藤佐太郎 歩道)

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先日、三月書房で買った短歌新聞社文庫『歩道』を読み始める。
昭和15年の歌集。いまの私には、しんとした時間が大事だと思う。
プロの歌人でもないし、ただの趣味なのに、あれこれ忙しくしている自分にちょっと疲れる。

アーモンド

2005-10-20 10:51:13 | つれづれ
オーブンの捨て火に入れるアーモンド焼けるを待ちてけふを終はりぬ

「手づくり」のクッキー店とふ不自然が眼にちらつきて歩む街なり

「ふくろ」とふ言葉の自在一枚のふくろとなりて眠りにつかな

柔らかに喜怒哀楽も示せとふ教師のこゑが母の吾を打つ

「好きなのだそれで足らぬか」ぎこちなく視線ゆれあふ湾口なりき

(林悠子 湾口 ながらみ書房)

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林悠子『湾口』を読みすすむ。
先日紹介した歌は新かなで、それ以前(歌集の後半)は旧かなで作られている。

一首目。捨て火という言葉に引かれて調べると「物を煮るとき、今まで使った火をけがれがあるとして捨てて用いないこと」とあった。それとも残り火をも「捨て火」というのだろうか。なんとも趣のある言葉。アーモンドの香ばしさが伝わってくる。
二首目。クッキーは「手づくり」と言っても、やはりどこかから既成の材料を仕入れて作らざるを得ない。製菓を仕事とする作者は余計にこの「手づくり」にひっかかったのだろう。林さんの歌に、コンビニの店員の言葉つかいが気になったという内容の歌があった気がする。私も同類だ。
四首目。母親として、周囲の期待に応えねば…というプレッシャーから出来た歌だと思う。以前、PTAの講演で「親が変われば子が変わる」というテーマがあった。たしかにそうなのだが、子の出来の悪いのは、母親の努力が足りないからだと責められているようで辛かった。ここでも同じ気持ちを代弁してもらって納得した。
 
内容に共感するという短歌の鑑賞は浅いかもしれないが、やはりこれが歌の吸引力だと思う。


湾口 林悠子

2005-10-19 12:00:37 | つれづれ
ふるさとの博奕岬は黒白(こくびゃく)のいずれの石も降る雪の中

風吹けば…東宮(ひつぎのみこ)が娶るとぞ我が家はクッキー焼き増している

仕掛人見えいるブームであるといえ乗るほかあらず仕込む「ティラミス」

今日ひと日に何をなししか幾百のマドレーヌ菓子包みたる他は

弥次郎兵衛の重しの先に居るひとと思いぬ永遠に距離持ちて廻る

(林悠子 湾口 ながらみ書房)

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短歌人会の先輩である林悠子さんから、歌集「湾口」を贈っていただく。林さんとは何度か歌会でご一緒して、城陽市で洋菓子店を営んでおられることは知っていたが歌集のことは、知らなかった。一冊を読むことで歌人の全体が掴めてくる。
1996年の出版なので当時の世相も見えてくる。少しずつ読みすすみたい。