気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

短歌人4月号 同人のうた その3

2016-04-24 14:39:23 | 短歌人同人のうた
早朝のひかり差し込む部屋内に晩年といふゆたかさにゐる
(山中重子)

暖房の部屋に籠りてはてさてとこれより地図の旅愉しまむ
(小川潤治)

名をつけしゆゑに死なせし兎かとわがかなしめり歳月すぎて
(金沢早苗)

満州に梅は咲きしか牧師館の庭に白梅けふは開きぬ
(吉浦玲子)

太郎雲次郎雲うかぶ休日の午後の海辺の道を歩めり
(大橋弘志)

立春に味噌を仕込んで眠りたり我よりふかく味噌は眠らむ
(岩下静香)

那智瀧の真上の空の芯くろく風があつまる冬のはじめに
(大谷雅彦)

ささやかな内臓ならむに精緻さのきはまりとしてむささびが飛ぶ
(三井ゆき)

あらたしと読むに驚き牛飼ひの左千夫の歌をあたらしく読む
(中地俊夫)

挽歌など見たくあらずとざらつきて籠るこころに死者は明るむ
(西勝洋一)

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短歌人4月号、同人1欄より。

飴色に切干大根たきあがる祖母のふところ日なたの匂ひ
(近藤かすみ)

バスを待つ 牛尾誠三 

2016-04-17 14:56:24 | つれづれ
バスを待つ見知らぬ人にも辞儀をする少年のゐて春のゆふぐれ

飛行船が浮かんでゐればいいのにな目覚めて狭き部屋の窓開く

十時発町なか行きの京都バスは敬老パスで満席となる

冬の夜の仕事帰りの坂道は立ち止まつては星を見る場所

少しづつ荷の減つてゆくホームレスと荷の増えてゆくホームレスがゐる

バス停に着くまで立つなといふ声が聞こえぬように老い人ら立つ

このごろはお寺の前の掲示板に書いてあるやうな歌作りをり

何気なく首をさはるとセロテープ貼られてをりて故のわからず

デパ地下で上司を見かけ目を逸らし上目づかいに人ごみに入る

俯いてゐては短歌が生まれぬと見上げた空に虹の架かれり

(牛尾誠三 バスを待つ 六花書林)

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短歌人所属、牛尾誠三の第一歌集『バスを待つ』を読む。

牛尾さんは私と同じ地域に住んでいる。バスの路線が一緒なので、何度かバスや近所でお会いした。
この歌集は集題を『バスを待つ』としたように、バスに纏わる歌が多い。もっと言えば、左京区岩倉から町なかへ行こうとすると、京都バスを利用するのが便利。叡電もあるが、駅がこの地域の南部にあり、やっぱり京都バス、という選択になる。

一首目。少年はたまたま見かけただけだろうが、律儀さが牛尾さんの性格を表していているように思えた。昔の自分のすがたと重ねて見たのかもしれない。
三首目、六首目は私も実感していること。三~四十年ほど前宅地化が進んだ岩倉は、いまや高齢者の町となっている。「町なか」という言葉に親しみを覚える。やはり岩倉は、町でありながら町とは言いにくい部分もあり、出町や河原町は町なかと思えてしまう。町なかの表記は、町中とすると漢字が続くので、それを避けた配慮だろう。
五首目は、ホームレスと呼ばれる人にも性格の違いがあることを、荷に注目することで出来た発見の歌。なるほどと思わせる。
九首目の何となく知り合いを避ける気持ち、とてもよくわかる。挨拶をしないと失礼だろうな、と思いつつ、人ごみに紛れる方が楽なのだ。少し罪悪感も持ちながら。
四首目、十首目のような歌を読むと読者としてほっとする。真面目な人間は、そうでない人間にとって、鬱陶しい存在らしい。かく言う私も某俳人氏には鬱陶しがられているようだ。
細かいことが気になり、気を病む人は歌人に多い。短歌に向いているとも言える。定型に嵌まっていることで安心できるのだ。俳句は、短すぎて却ってものが言いにくい。

歌集全体に老いを意識した歌が多く、その点で損をしている気もする。黙ってたら年なんかわからない、短歌は虚構だ、と近ごろの私は思うのだが、どうだろう。しかし、牛尾さんは正直で誠実なお人柄だから、老いの感慨を詠っていて、それでいいのだ。共感する人も多いはずだと思う。
ますますのご健詠をお祈りします。

短歌人4月号 同人のうた その2

2016-04-11 00:38:43 | 短歌人同人のうた
悲しくて読めずなりたる『思川の岸辺』を閉じて窓辺に呆たり
(宮田長洋)

軍隊を持たぬ国などありませぬ 露西亜語教師薄くわらひき
(加藤満智子)

師をおもふこといつも夜半わたくしがわたくしに引きこもるゆたかさの
(菊池孝彦)

如月朔の空のかなたの北帰行始まりしといふ鶴おもひみつ
(蒔田さくら子)

一輛に乗客はわれひとりのみ下野(しもつけ)春の小金井すぎて
(小池光)

川風がうなじに触れて通り過ぐ木母寺に飲む「い・ろ・は・す」美味し
(斎藤典子)

みづの辺に紅梅の花ひらきそめ自転車止めてあふぐ数(す)分を
(渡英子)

高英男の「雪の降る街を」流れくるラジオの前の姉妹でありき
(高田流子)

川本さんの言葉を思い出している「リアルとリアリティは違うんですよ」
(猪幸絵)

さざなみのしがのみずうみ寒ざむの月照る景を独りに観るも
(おのでらゆきお)

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短歌人4月号、同人1欄より。