気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

世界樹の素描 吉岡太朗 書肆侃侃房

2019-02-25 23:48:58 | つれづれ
君の見る夢んなかにもわしはいてブルーベル咲く森をゆく傘

だれひとり殺さずだれにも殺されず生き抜くことができますように

ふくれたりちぢんだりして銀の火がそこにあるかのような文鳥

天上の蓮 錠剤を飲む人のてのひらを手でささえていたり

肩と膝ささえて体位を変えるとき天球がそのひとのまわりを回る

生涯をかけてしずめることやろうわしとはわしをおわらせる沼

薄野に寝入るここちの蚊帳とゆうおかしなもんを祖母はしつらえ

くちびるをはずせば鯛は歯を見せて煮汁んなかにわらっていたり

くちばしがとどかん場所にさしてある青菜みたいにことばはとおい

世界樹のこれから描こうとするもんとかかれるもんのあわいに繁る

(吉岡太朗 世界樹の素描 書肆侃侃房)

シロツメクサを探すだろうに 山内頌子 角川書店

2019-02-09 00:13:46 | つれづれ
この梅がこの家でみる終となる枝に透かして月もみておく

まだだれも帰ってこないゆうぐれのおわりは晩のはじまりのこと

こんな風が吹いているなら御所へゆきシロツメクサを探すだろうに

自転車をおもいおもいと漕ぐときに豆腐も砂利をふんでいるなり

簡単なシートベルトを着用し死ぬ時は死ぬ靴脱ぎしまま

「かりるところ」「かえすところ」の吊り板があんな横揺れ地震 これ、地震

辞めざるをえない職場にもらいたるハンカチの増ゆ レースの縁取り

筆と墨少し離して収められ箱の中にも冬がきている

一本も二本も使い編みくれし祖母の時間を今年も羽織る

我が前に立ちいし人がつり革の揺れを残して離れてゆきぬ

謝罪から始まらざるを得ぬような会話ばかりの職場を見切る

(山内頌子 シロツメクサを探すだろうに 角川書店)

八十一の春 奥村晃作 文芸社

2019-02-02 22:04:49 | つれづれ
不忍池埋め尽くす大賀ハスその数かぞえることは不可能

鳥たちの頭小さい 鳩見ても体に比べ頭小さい

大きな雲大きな雲と言うけれど曇天を大きな雲とは言わぬ

一万歩越すや画面にヒト現われバンザイ、バンザイする万歩計

ハンマーで叩いて口語短歌へと文体を移す慎一郎は

目の前の女性手早く化粧して最後は鼻筋白っぽく塗る

つかまれて打たれ裂かれて焼き塗られ鰻はあわれ蒲焼となる

水原紫苑の歌がどうにも分からぬと無理だと判じた「ヘルメス歌会」

ラッシュ時は座席が壁に畳まれる新型詰込み車両に乗りぬ

鉄板の上にちいさな山をなす母九十七の白骨目守る

(奥村晃作 八十一の春 文芸社)