気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

食悦三六五日 吉岡生夫

2005-08-31 23:05:54 | おいしい歌
串にさす丸いものにはめがなくて焼き鳥屋ゆゑつくねをたのむ

ヤキトリを食べてレバーにつくね食べウヅラを食べて戻るヤキトリ

ヤキトリを焼くは備中炭をいふ紀州は備後屋長右衛門殿

(吉岡生夫 食悦三六五日 短歌人9月号)

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吉岡生夫さんのHPで食悦三六五日が始まった。
以前から、ちょくちょく見ていたが、これをまとめて読めるのは楽しみだ。

http://www.pat.hi-ho.ne.jp/yoshioka-ikuo/sykuetu365niti/index.htm

歌会果て恨みつらみももろともに生中乾杯!飲み干すわれら
(近藤かすみ)


題詠マラソン(51~55)

2005-08-30 23:56:06 | 題詠マラソン2005
051:泣きぼくろ
いつの間にか吾子の目許に泣きぼくろ生るるを知らず暮らせり四年を

052:螺旋
その茎と縒り合ふて立つ螺旋花は定めのままにくれなゐひらく

053:髪
いろ恋を捨てよと生ふる白髪を色とりどりに染むるおみなら

054:靴下
くるぶしを覆つて終る靴下のほんにちひさい儚いかたち

055:ラーメン
自販機のカップラーメンを友と分け啜りき冬の広小路学舎

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律儀な性格の自分をしんどいと思うことがある。今日もようやく更新できた。
そう言えば、ブログ「気まぐれ徒然かすみ草」をはじめて一年!
ご来場ありがとうございます。

早熟がもてはやされるこの国で一周おくれの青春をする
(近藤かすみ)


今日の朝日歌壇

2005-08-29 21:28:28 | 朝日歌壇
上司、部下、クレームの客、友、妻子ごちゃまぜに棲むこの携帯に
(和泉市 長尾幹也)

産み月のわれにしあれば満月も梨も葡萄もよりまるく見ゆ
(高槻市 有田里絵)

しゃぼん玉消えてみどり子しばらくはなにもない空もてあましおり
(東京都府中市 東恵理)

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一首目。もう携帯と言えば携帯電話のことになって定着した感じがある。その携帯の中に、持ち主の関係者が脈絡もなく棲んでいるという不気味な風景。棲むという字が、凄みを出している。

二首目。出産を意識していると何もかも丸く見えるのかもしれない。丸いものが、満月→梨→葡萄とあとへ行くほど実は丸くなくなっていくのが面白く、作者の工夫を感じた。

三首目。みどり子は三歳くらいまでの幼児ということなので、そんな幼い子がしゃぼん玉を見失ったあとの空を見ていると読むのが順当だろう。作者には失礼な曲解だが、しゃぼん玉=みどり子とも読める。子供の居なくなったあとの空は、もてあまして見上げるものである。
なんとなく、二首目と三首目を関連づけて読んでしまった。

銀杏を拾ひに行つて帰らないおまへの部屋に空気を通す
(近藤かすみ)

初菖蒲

2005-08-27 19:20:45 | つれづれ
藍染めの作務衣似合ひて初菖蒲咲きたる庭にわが男立つ

杖を立てて倒れし方角へ行くことがそれほどをかしいことであるのか

高瀬氏は恋人なのか それつきりもの言はぬ夫と夕餉を終へぬ

どなたさまか醜きものを美しくして下さるといふ海へ行きます

(若林のぶ)

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二年ぶりくらいにNHK短歌を見る。以前はNHK歌壇だった。
そこで、若林のぶさんの藍染めの歌が紹介されていた。
若林さんは、また歌集を出されるらしい。私の憧れの人である。

題詠マラソン(46~50)

2005-08-26 22:18:32 | 題詠マラソン2005
046:泥
泥のごと眠るふりしてその背中さらす男の膏薬はがす

047:大和
絶え間なく口にのぼせよ大和うた相聞は金諧謔は銀

048:袖
父さんの鞄に袖珍コンサイス英和辞典と仁丹ケース

049:ワイン
ワイングラス樫の戸棚に伏せられて三年前の空気を抱く

050:変
変な人あまた集ひて走りたる題詠マラソンいま折りかへす

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藤原龍一郎氏の日記を読むと「基本はたくさん読んで、たくさん作る」とおっしゃっている。これを実践したいが、短歌雑誌は読んでも読んでも終らない。
息抜きに、光文社新書『人生相談「ニッポン人の悩み」幸せはどこにある?』(池田知加)を読む。
今月は平泳ぎをかなりがんばったので、達成感あり。

出来ないと言へば出来ない平泳ぎプールの底に陽炎が見ゆ
(近藤かすみ)


花籠に月を入れて 吉川宏志

2005-08-25 21:48:40 | つれづれ
夏至過ぎて雨多きかな切られたる鰻が飯のうえでつながる

ゆうぐれのポストを傘のなかに入れ投函したりワインの礼を

颱風の近づく夕べ連打して空き家の鉄の風鈴が鳴る

巻き癖のまだ残りいるカレンダー野分の風に波打ちており

帰りたや若かりし日に ふなうたは舟を離れて水の上ゆく

(吉川宏志 花籠に月をいれて 短歌研究9月号)

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第41回短歌研究賞受賞の吉川宏志の受賞後第一回作品50首を読む。
「ポストを傘のなかに入れ」「巻き癖の・・・カレンダー」などうまい表現だと感心する。
この人は、まだ36歳なのに「帰りたや若かりし日に」と思っているのかと、また別の意味で感心。そんなに早く老成しなくてもいいのに。


今日の朝日歌壇

2005-08-22 23:16:54 | 朝日歌壇
赤んぼの泣き声どこかすずしくて記憶の昼の風鈴が鳴る
(相模原市 岩元秀人)

誰(た)も行かぬ陸橋三本架かる道路(みち)炎暑にとろりと溶ければ良いに
(堺市 平井明美)

江戸の粋語り終わりてまた江戸へ戻りゆきしか杉浦日向子
(塩瀬市 百瀬享)

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一首目。暑くるしいはずの赤ん坊の泣き声を、作者は涼しいと感じている。それは子育てについて、もう他人事になってしまったからだろう。下句、記憶の昼の風鈴が良い。

二首目。炎暑の熱気が立つ様子が伝わる。「溶ければ良いに」という結句に人の意地悪さが表れている。そこがいいと思う。短歌には悪意が出てしまっても、31文字の詩形の中でむしろ際立つ。

三首目。先日亡くなられた杉浦日向子氏への挽歌。享年46歳。彼女の好んだ江戸に戻ったと思えば、何か救われる気がする。

サニー・サイド・アップ 加藤治郎歌集

2005-08-21 17:46:45 | つれづれ
もうゆりの花びんをもとにもどしてるあんな表情を見せたくせに

ひとしきりノルウェイの樹の香りあれベッドに足を垂れて ぼくたち

書きなぐっても書きなぐっても定型詩 ゆうべ銀河に象あゆむゆめ

たれの子も産める体のかなしさに螢光に照る葡萄をほぐす

ぼくはただ口語のかおる部屋で待つ遅れて喩からあがってくるまで

(加藤治郎 サニー・サイド・アップ)

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題詠マラソン2005。今年で三年目で四苦八苦している。
毎日一首以上すすまないというおかしな自己ルールを作っていて、それなのに作り置きはない。
74番「麻酔」まで来て、治郎さんの「ゆりの花びん」を思い出して、返歌のような歌を作った。そのために『サニー・サイド・アップ』を再読。うたう☆クラブでは治郎さんにお世話になって、ペンネーム近藤かすみで行こうと決心した。あれから3年・・・勝手に治郎さんなんて気軽に呼んで、不義理をしたままだ。

麻酔から還るあなたを待つ夕べゆりの花びんをもとにもどそう
(近藤かすみ)

黒砂糖 今井千草歌集

2005-08-20 21:36:58 | つれづれ
市庁舎のロビーに一人の”ウォーリー”を見つけておりぬ書類待つ間に

風下の少女のピアスはその耳に逆らうごとし従うごとし

カマンベールチーズ右手につまみあげわが指紋さえ食べてしまいぬ

組み上げてはすぐに壊せり手すさびの洗濯ばさみのエッフェル塔を

ペデストリアンデッキの手すりに年老いたまいまいだろうゆっくりと這う

(今井千草 黒砂糖 ながらみ書房)

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短歌人会の今井千草さんの第一歌集を読みはじめる。
今井さんとは同年代。去年の台湾歌会のとき、一緒にエステに行ったような・・・。「こんなこと二度とないからね~」と言って、シャンプーや足裏マッサージをしてもらったっけ。ペデストリアンデッキの意味がすぐにわからなくて、ネットで調べると、歩行者用の通路のことだった。画像は東京品川駅。


夏あかね

2005-08-19 22:42:21 | つれづれ
さよならの然様ならとふ意味思ふ筒型ポストに雨粒ひとつ

たはむれにとらへてしまつた夏あかねアンダースローで空(くう)にかへせり

紅葉の木々吐く冷気か頬に沁む殺むるほどは人恋はず来し

男には首のサイズがあるといふ歌思ひつつ見る美容師の首

「凹」「凸」の筆順おのおのちがひゐて父も笑ひし遠き日のこと

(小潟水脈 空に吸はるる)

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小潟さんの歌を読んでいて、私の発想と似ているものを見つけた。
一首目、三首目。偶然だと思うが、似た発想で歌を作ったことがある。
五首目は、凹凸という字の筆順まで気にかけるところに彼女の生真面目さを感じた。