気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

短歌人12月号 同人のうた その3

2013-12-25 01:09:07 | 短歌人同人のうた
手のひらに水かきが生え月明かり満ちた夜空を子らは泳ぎぬ
(村田馨)

務さん逝きて過ぎゆく歳月をなぐさめ顔のおつきさまのぞく
(岡田経子)

老年の始まりはいつ曼珠沙華が切り取っている真昼のひかり
(守谷茂泰)

「雨のにほひがする」と人の言ひしのちしづかに雨の降りはじめたり
(山寺修象)

カサブランカの大きくひらく花束はコンクリートの電柱のそば
(三井ゆき)

柿とどく雨の玄関入りきれぬほどの雨の匂いとともに
(川田由布子)

カナブンの青と緑と金の色かがやきながら秋の陽をあぶ
(神代勝敏)

干してゐる傘にしづかに触れてゆくべつかういろの蜻蛉の翅は
(渡英子)

芥川自死せる家の跡を見て金木犀の匂う裏道
(藤原龍一郎)

小宮さんありしゆゑ今の「短歌人」あるを書きおくはわが最後の使命
(蒔田さくら子)

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短歌人12月号、同人1欄より。

府立図書館 (現代短歌11月号)

2013-12-24 09:58:49 | 総合誌掲載
おはやうと軽く声かける人をらず猫をらずネコジャラシ揺れてゐる

 
並びたるケヤキ背にして二宮尊徳(そんとく)の胸像の佇つ府立図書館

ひと文字のために二行となる歌をかなしみ読めり二行目の「り」を

いくつもの孤独寄りきて本ひらく閲覧室にひぐらしの声

類語辞典に「昇天」引けば液晶の面にさまざまな死が現れる

廃駅と書き疒(やまひだれ)でなきことにはつか安らぐ インクはブルー

しかすがに衰へしるきサルスベリうするる紅をいとしみて見つ

(近藤かすみ 現代短歌11月号 特集・六十歳の歌人)

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私が生まれた昭和二八年は、テレビ放送が始まった年。新し物好きの父は14インチを早々と買った。母の縫った別珍のカバーが掛けられたり、目を護るための樹脂カバーが取り付けられたりした。ひょっこりひょうたん島、時間ですよ、ナポレオン・ソロなど、見たい番組に合わせて暮らしていた気がする。新日本紀行というのもあった。あのテーマ音楽が怖くて、蒲団に潜り込んだものだ。同年の女優さんに、竹下景子、仁科亜希子がいる

今日の朝日歌壇

2013-12-23 20:06:52 | 朝日歌壇
両替の紙幣確かめ深々と機に礼をして媼は去りぬ
(福岡県 住野澄子)

廃線の鉄路踏まえて親しげな羚羊の瞳に今朝もまた会ふ
(気仙沼市 千葉迅太)

胸元を沢村貞子のように着て祖母は火鉢のはたにすわり居き
(枚方市 小川洋子)

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一首目。ATMのことだろう。機械なのに、両替してもらったことを人間に対するように礼をするおばあさん。律義さがわかる。事実だけを述べて媼の人柄を伝える。
二首目。廃線と羚羊の取り合わせがいい。廃線を詠むとたいてい魅力のある歌になる気がするが・・。佐佐木幸綱氏の評を読んで、大船渡線の気仙沼駅・盛駅間の不通のことを知った。
三首目。沢村貞子という固有名詞になつかしさを感じた。昭和の働き者で品のいいお母さんという役をよくされた女優さん。エッセイも何冊も書いてられたはず。着物の胸元はきちんと合わさっているのだろう。結句、すわり居きの「居」の漢字に存在感がある。

短歌人12月号 同人のうた その2

2013-12-18 15:32:18 | 短歌人同人のうた
なつかしき電磁気学の教科書が本棚のうしろに落ちてゐにけり
(小池光)

洗ひたてのシーツの端を死に場所に決めてゐたらし塩辛とんぼ
(山下冨士穂)

にぬきの黄身に口汚しつつ永遠にタチバナナツオはわたくしひとり
(橘夏生)(にぬきの上に、点あり)

愛想の好すぎるバスの運転手ありていささか不安になりぬ
(宮田長洋)

四万十のみどりの水は捩れつつ海に向かへる九月の海に
(大谷雅彦)

風にのり昏き廊下をひとすじの金木犀の香ははしりたり
(木曽陽子)

テレビにてラジオ体操するときの「ラジオ」はどこか可笑しみ醸す
(林悠子)

才知なき頭であるが惚けぬようへなぶり歌を詠まねばならぬ
(石川良一)

祖父(おおちち)の好みし花を知らぬまま生き来て供ふるりんだうの青
(洞口千恵)

広島よりもどりて日日に読み返す『ドームの骨の隙間の空に』
(平林文枝)

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短歌人12月号、同人1欄より。

何事もなかつたやうに岩倉の町は鎮もる日日是好日
(近藤かすみ)




今日の朝日歌壇

2013-12-16 19:03:33 | 朝日歌壇
履歴書を茶色いペンで書いてきたマスブチ君が職場に馴染む
(横浜市 原田彩加)

木枯しに車を誘導する男車とだえて足踏みしおり
(三原市 岡田独甫)

小春日のニコライ堂に登る道バッハのチェロ曲似合う道なり
(東京都 三戸悠紀)

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一首目。履歴書を茶色いペンで書くとは、常識はずれ。しかし、そんなマスブチ君も職場に慣れてきたことを作者は喜ぶ。上句の具体的な行動で、マスブチ君の人柄がわかる。マスブチというちょっと珍しい名前もリアリティがある。
二首目。労働の歌。車を誘導して動いているときは、寒さが紛れるが、車がとだえるとしんしんと冷気がしみて足踏みしてしまう。この歌も現実味があっていい。
三首目。ニコライ堂は東京神田駿河台にある。数年前、新年歌会のために上京したとき、一度だけ行ったことがあるが、たしかにバッハの曲が似合いそうな雰囲気があった。
http://www.geocities.jp/ynicojp2/seido-haikan.html

短歌人12月号 同人のうた

2013-12-14 19:35:17 | 短歌人同人のうた
肘すらりと空に伸べたる少年のなほ在り川本浩美在らず
(酒井佑子)

この先は海につづけり砂の泣く声を聞きしはわが空耳(そらみみ)か
(関谷啓子)

あさがほの青よりあをき夜のそこひ漂ひゐたりみじかきゆめに
(佐々木通代)

左は死、右は生なるやもしれず ふたつを分けて咲く曼珠沙華
(原田千万)

食べをへてとなりの皿よりひよいと桃ひと切れぬすむ男かはゆし
(紺野裕子)

たれからも要なしとされているやうで雑巾かたくもう一度しぼる
(杉山春代)

筆柿を深夜に剝いている手より一語一語のように皮落つ
(岩下静香)

栗きんとんほこりと口に崩れたり晴れては曇る午後のつかのま
(春畑茜)

十五夜の月見泥棒来ぬ夜半の母に教へるダブルクリック
(澤志帆)

水面に擬宝珠の影を映しつつ月光は橋を渡りゆきたり
(平野久美子)

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短歌人12月号、同人1欄より。
酒井佑子さんの歌。初句を読んだだけで、川本浩美のことを思ってしまった。これ以上言わなくても、みな同じ気持ちだ。

今日の朝日歌壇

2013-12-08 22:05:15 | 朝日歌壇
にほさんぽしほでざうりを履きなほし履きなほしつつ千歳飴がゆく
(宗像市 巻桔梗)

山宿の炉火あかあかと学徒兵の夫ははじめて戦を語る
(三島市 石井瑞穂)

よき友と永の別れとなりにけりしぐれに濡るる根津の坂道
(東京都 石黒敢)

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一首目。結句「千歳飴がゆく」となっているが、歩いてゆくのは七五三の子供。慣れない和服と草履に千歳飴を持って、歩きにくそうにしている。上句のひらがな表記のつたなさが幼い子供の様子を伝えているようだ。テクニカルな一首。
二首目。今年は、終戦から六十八年になる。学徒兵だった夫はおそらく九十歳近い年齢なのだろう。山宿の炉火のそばで、戦争の体験をはじめて語るという。語りたくない、思い出したくない体験。しかし、いま言わなければと決心なさったのだろうか。話す方も聞く方も緊張している。胸を打たれる一首である。
三首目。何も説明することはない。下句の舞台設定がよい。三句目の「なりにけり」の重々しい言い方が効いている。

秋袷 青木昭子 

2013-12-07 18:18:32 | つれづれ
楽しみは心しだいでつねにある往きに戻りに見る桜の樹

棄てられた親のやうにも六月の日暮あかるくさびしい日暮

紫蘇の花ひつそり咲いて秋まひる淋しくて死んだ人はあらずも

ため息はたつぷりゆつたり吐(つ)くがよいわたしに買はれし末期のヒラメ

晩ごはん何回残りをらむかとふと手を止めるとき涙箸

ご破算で願ひましては、かくいへば前半生の消えゆくごとし

七色の野菜をさむる腹の中さうね虹など生んでみせましよ

開(あ)いたならもう閉ぢられぬ木通の実さうして誰もあきらめを知る

煮含める大根の香(かう)たちこもり帰りくる人ある秋の家

開運招福巳(み)年(どし)兄弟(えと)飴(あめ)口中を右へ左へゆききして消ゆ

(青木昭子 秋袷 本阿弥書店)

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ポトナムのベテラン歌人、青木昭子の第六歌集『秋袷』を読む。
短歌総合誌「歌壇」に一年間連載した「短歌と随想十二か月」を中心に、編まれている。あとがきに、テーマは「食」とあるように、食べ物の歌が多く、楽しく読めた。
一首目の上句「楽しみは心しだいでつねにある」という前向きな気持ちが根底にあるが、あきらめを知ったり、老いを肯ったりしながらの歌つくり。しみじみとした気持ちにさせられた。


今日の朝日歌壇

2013-12-02 22:55:47 | 朝日歌壇
哲学に四季はなけれど哲学の道に四季あり四年学べる
(横須賀市 丹羽利一)

前科者ばかり演じてきましたと言いて健さん勲章を受く
(日向市 黒木直行)

出棺の亡き父送る木遣(きやり)歌職人の声切々と響く
(東京都 尾張英治)

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一首目。哲学の道は、京都市左京区の銀閣寺あたりから南禅寺に至る疎水沿いの道を言う。京都大学に近く、この周辺は昔から学生が思索にふけりながら散策するコースだった。いまは観光客が多く訪れる。作者もきっとこのあたりで学生生活を送ったのだろう。上句にやや説明的な感じがするが、わかりやすい歌。
二首目。このたび文化勲章を受章した高倉健へのお祝いの歌。そういえば犯罪者の役も多かった。前科者役と勲章のギャップが興味ふかい。映画「鉄道員(ぽっぽや)」で、仕事一途なために子供の死に目に会えなかった話が印象深いが、仕事熱心というより仕事依存。家族から逃げている男のように思えた。
三首目。事実を述べた歌、職業の歌として好感を持った。「切々と」にやや感情が入っているか。