気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

にしんそば

2004-12-31 13:53:39 | つれづれ
鶏インフルエンザの件も今年のニュースだったが、もうずっと昔のことのように思われる。
災いの多かった一年。まさか自分のブログを作ると思っていなかったのに、ふとその気になって、はじめる。はじめると、しつこく続ける。いろんな人と出会い、収穫の多い一年だった。
本当にありがとうございました。

一葉の札を手放し購ひぬ大つごもりに食ふにしんそば 近藤かすみ


まっすぐな雨 鷲尾三枝子

2004-12-30 01:25:43 | つれづれ
十四歳の捕われ人は映されぬサンダルばきの白き踝

もうなにも欲らぬ母には永代橋(えいたい)に架かる大きな虹を差し出す

まっすぐな雨には勁き腰ありて負けないように傘たて直す

まずガスが電話が鍵がははの手に負えない明日がまたひとつくる

フォークソング世代のわれらの気の弱さたとえば「フランシーヌの場合は」

(鷲尾三枝子 まっすぐな雨 短歌研究社)

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たまたま縁あって手に取った歌集。かりんの方で、1948年生まれとある。まっとうな生活をしている人の、まっとうな歌として共感した。

淋しいのはお前だけじゃな 枡野浩一

2004-12-28 12:13:35 | つれづれ
「じゃあまた」と笑顔で別れ五秒後に真顔に戻るための筋肉

振り向いてくれたけれども「がんばれ」はたぶん自分に言った言葉だ

ギクシャクと向こうから来るひょろひょろはショーウインドウにうつった自分

クールさを競い合っても死体にはかなわないから生きてる僕ら

ファミリーがレスってわけか真夜中のファミレスにいる常連客は

(枡野浩一 淋しいのはお前だけじゃな 晶文社)

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晶文社の本は装丁がしっかりしている。この本は1400円。
オオキトモユキの可愛い絵とともに、あっという間に読んでしまう。
なんでこんなにサクサク読めるのだろう。字数が少ない。
字の大きさを変えてメリハリをつけてある。しかし・・・

「淋しいのはお前だけじゃな」図書館で借りた枡野を10分で読む
(近藤かすみ)


寄せ鍋

2004-12-27 16:49:51 | おいしい歌
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

(俵万智 サラダ記念日)

寄せ鍋の泡ぶく立つた煮え立つた この世のことはごちやごちやとする

(小島ゆかり 希望)

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「寒いね」の歌は、数年前テレビのCMにも登場した。
自分が短歌に関わる前は、最近の歌人と言えば俵万智だと思っていたが、歌壇での評価はいろいろあるらしい。歌壇には暖かい情を敢えて避ける人がいる。むしろそれが多数派かもしれない。

小島ゆかりの歌は、単純でいて深い。
「この世のことはごちやごちやとする」と言う下句が頭の中でリフレインする。

春菊を入れてもだれも怒らない一人鍋には天国の味
(近藤かすみ・推敲中)

歩く 河野裕子歌集

2004-12-26 16:38:19 | つれづれ
失せてのち形思はるる鍵ひとつ金色のひもの結び目なども

捨てらるるための歳月そよりと老いそよりと彼らを遠退(とほぞ)きゆかむ

賀茂神社夏の古書市で買(こ)うて来ぬ君がたいせつの『寒雲』樺いろ

田の真中にのんのんのんのん働きて機嫌よかりし脱穀機の音

賢くならんでよろしと朝のパン食ひつつあなたが私に言ふ

(河野裕子 歩く 青磁社)

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二首目の「買うて」を音便で「こうて」とするのは、関西風。これにますます近しさを感じる。
いつかすれちごうたら、声をかけてみようかしらん。ご迷惑やろな。

八月の下鴨神社の古書市に埋もれし松下竜一に会ふ
(近藤かすみ 題詠マラソン2004)

クリスマスイヴ そして

2004-12-24 19:34:56 | つれづれ
クリスマス・ツリーを飾る灯の窓を旅びとのごとく見てとほるなり

(大野誠夫 薔薇祭)

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クリスマスがイヴェントになって、プレゼントの交換やケーキを食べるようになったのはいつごろからだろう。しかし、それを旅人の目で見ている作者がいる。そして今日は私の誕生日。友人から花束が届いたり、娘からCD(ノラ・ジョーンズ)をもらったり、嬉しい一日を過ごす。それをまた、照れくさく思っているもうひとりのわたしもいるのだ。いやいや素直に、おおきにありがとう!

豆ごはん

2004-12-23 21:35:10 | おいしい歌
豆ごはんつぶりつぶりと食うてをり一粒ひとつぶ緑(あを)いなり 豆

(河野裕子 歩く 青磁社)

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近所のマーケットで買い物をしていて、小学校時代の恩師中村先生に会う。
短歌をやっていることを、ひた隠しにしているものの懐かしい先生にふと言ってみたくなり白状する。永田河野ご一家のこともよくご存知で、永田純氏はときどき歌集を持ってこられるとのこと。ウワサ話がはずむ。「私は子供のころから人が集まるのは苦手でした」というと、「そうやな。ほんまにそんな子やったな」と遠い目をされていた。やさしい目だった。

仙川心中 辰巳泰子歌集

2004-12-23 17:08:22 | つれづれ
ほたる散つて水のあまさに痴れてゐたあれはたしかに十九(じふく)のころか

君は来で雨に庇のゆふまぐれ去年(こぞ)の残りの花火してゐる

梅雨寒や蛸が食ひたし銀ねずの濡るる路上に蛸はをらぬか

夢のなかの父も男も冬ざれにあたためられし鋼のにほひ

ちんまりと小さく生くるついでなり歌詞まちがへて歌をうたふも

(辰巳泰子 仙川心中 砂子屋書房)

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蛸が食ひたしの歌の粘っこさに感心する。大阪の人なのだ。

九花 馬場あき子歌集

2004-12-22 19:31:33 | つれづれ
昼でんしや女ばかりのゆたかさがあるごとし街へゆく匂ひして

三等国に堕ちつつありといふ国の秀麗の秋を生きて濁れる

夕餉作りの好きな夫と住みなれて居ない夜はだがもつと伸びやか

雨の日に今年も咲いてしまふ沙羅雫の花の重いあきらめ

使ひ捨てのやうに手荒く棲んでゐる地球さびしく梅咲きにけり

(馬場あき子 九花 砂子屋書房)

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二十番目の歌集。地球を日本を愁う。