気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

花の渦 齋藤芳生 現代短歌社

2019-11-28 23:06:31 | つれづれ
林檎の花透けるひかりにすはだかのこころさらしてみちのくは泣く

怒らせたのはきっとわたくし秋草のなかの飛蝗はおとたてて跳ぶ

ひとを恋う髪すすがんとする水のするどくてはつか雪のにおいす

うつくしき扇ひらきて持つのみのそれのみの手よ古りし雛の

山桜の花をはさんだのはあなた藍深き広辞苑のなかほど

もう痛くはないがあまたの傷をもつ舟として青葉若葉をくぐる

「フクシマの桃をあなたは食べますか」問いしひとを憎まねど忘れず

先に帰れと言われても兄を待っている弟は兄と同じ瞳をして

大きな花束(グランブーケ)を落ちこぼれたる花として暮れゆく丸の内を仰ぎぬ

授業へ向かうわたしと歌をよむわたし青葉の交差点に見交わす

(齋藤芳生 花の渦 現代短歌社)

水湧くところ 永良えり子 砂子屋書房

2019-11-01 23:10:14 | つれづれ
通ひ来る鶴の一生二十年出水の人はこの子らと呼ぶ

暗闇に母が待つかと錯覚すハンガーに掛かる形見のコート

おほかたはスマホと書きて或るときはスマートフォンと書かるる機械

去る人へ贈る色紙に餞の言葉は下から埋められてゆく

トラックが震災による廃材を載せて往き来す臭ひ伴ひ

待ち針の色明るきが針山に刺さるを描きしフジタの小品

売る家の各所を撮すウェブサイト父母のつかひ来し便器も載れり

遺されしノートの端に俳句あり夜寒に耐ふる吾が知らぬ母

カーテンを引きたる音に鵯は素早く離る水盤の縁

履歴書に書かるる文字と文字の間(かん)その行間を人は生き来し

(永良えり子 水湧くところ 砂子屋書房)