気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

蓬萊橋 伊東一如 六花書林

2020-04-29 12:45:44 | つれづれ
指呼の間の五重塔の見えぬほど蓬萊橋にふりしきる雪

長命の人のことなど聞こえくれば母の享年口惜しと思ふ

はすかひに秋の陽させば萩の花しぶきのごとくきらめきにけり

「蔑」の字の点は斜めか横一か校閲部会の侃侃諤諤

一如さんと呼ばるるやうな歌詠まな方代さんにはおよばざれども

どこまでも堕ちてゆきたき日もありぬ『安吾全集』校閲係も

「鹽壺忌」と名づけ偲ばむ車谷長吉が逝きし五月十七日

夏休み 結膜炎の眼をあらひならんでかへるあねとおもうと

わたくしがどんな子供でありしかとかたりてくるるひとはいまなく

見えざれば見えずともよし雲のなか弥陀のごとくにおはす不二の峰

(伊東一如 蓬萊橋 六花書林)

どんぐり 大島史洋 現代短歌社

2020-04-23 23:25:13 | つれづれ
最後には歌が残ると言いたれどおのれの歌にあらぬさびしさ

人はついに分からぬからに卓上の眼鏡の玉を見つめていたる

絵のような写真は残る若き母父にもたれてリラの花の下

だんだんと変になりゆく自分なりそれを知りつつ少し楽しむ

ねんてんの随筆をよむつまんないなあと浮かぶねんてんの顔

始めあれば終わりがあるということば平凡にして身に沁みるなり

公園に陽を浴びているあたたかさこんな時間を吾は得たりき

比較するおのれの性を人間のゆえと思えど寂しきろかも

思うべし誰にもわからぬ終末を迎えつつあるホモ・サピエンス

暗闇の中に聞きいる朝のニュース生きたければみずからに守れ、と

(大島史洋 どんぐり 現代短歌社)