気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

題詠マラソン2004(99)

2004-11-30 18:10:57 | 題詠マラソン2004
099:絶唱

枕辺に迦陵頻伽のあらわれて絶唱みちびく春のゆふぐれ

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五十嵐きよみさん(梨の実通信)の題詠マラソン五首選に参加することになり、5×100首を読んでいる。これはなかなか手ごたえがある。
人の作品をどう読んでどれを選ぶかということは、読み手の眼を問われることなのだ。
それにしても自分の100首が、行き当たりばったりでバラバラで恥ずかしい。2~3日に一首のノルマ?をこなすというスタイルで走ったので勘弁してください。


題詠マラソン2004(98)

2004-11-29 23:22:11 | 題詠マラソン2004
098:溺

魔女ひとり若狭の浜を訪ふて来て溺れ谷までひとを誘(いざな)ふ

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題詠マラソンが切羽詰ってきて、岡井さんへの返歌のつもりで作ったが、
にやっとしてくださるだろうか。

原子炉の火ともしごろを魔女ひとり膝に抑へてたのしむわれは
(岡井隆 鵞卵亭)



題詠マラソン2004

2004-11-28 17:06:45 | 題詠マラソン2004
001:空
そんなにも遠くない気がしています今のわたしと空までの距離
002:安心
心細さふいに募りくる夜更けには<安心牛乳>温めて飲む
003:運
鴨川に冬を運ぶとふユリカモメ見ぬまま今年は春になるらし
004:ぬくもり
パソコンの文字にぬくもり感じつつ今宵もふけて電源落とす
005:名前
子を無事に授かり産みて名前つけしときの思ひを我は忘れず
006: 土
思うよな手帳が見つけられなくて街をさまよう土曜の日暮れ
007:数学
パズル解く感覚を持て数学の証明問題いまは懐かし
008:姫
むかしわれの好みし絵本のいばら姫いまはいずこの城に暮らさむ
009:圏外
携帯をいまだに持たぬわたくしはこの世の中の圏外に居る
010:チーズ
別れたるおとこのにほひ思はせるプロセスチーズひと口で食む
011:犬
飼ひ犬が死ねばその日はちよつと泣き次を探すとあのひとは言ふ
012:裸足
まだきみの前で裸足になりしことなきと思へばすこしさみしき
013:彩
垣根より侘助の紅のこぼれ来て雪のさ庭の彩りとなる
014:オルゴール
オルゴールの蓋閉ぢられて束の間の休息をとる若き踊り子
015:蜜柑
蜜柑の筋を丁寧にとる男だね 結婚前に祖母は言ひをり
016:乱
花冷えの今宵もいまだ片付かぬサイバードールの部屋の乱雑
017:免許
黄泉の国へひとを連れゆく舟ありて操縦免許持つは三人
018:ロビー
ロビーにてフラノのジャケット見かければあの日のきみかと目を凝らしたり
019:沸
珈琲が沸くまでわたしを抱きしめて 窓のそとには雨が来てゐる
020:遊び
リリヤンを編んで遊びし放課後のあの教室へわれは戻れず
021:胃
胃がキュンと痛くなるよなひとと居て頬うすきまま春秋を過ぐ
022:上野
北大路辺りを夫婦で散歩せし上野瞭氏の姿もう亡い
023:望
われはいまやうやう歌に出会ひたり長生きするゆゑ希望は捨てず
024:ミニ
おとなりのガレージにあるミニクーパー屋根に桜の花びら乗せて
025:怪談
岸恵子有馬稲子に久我美子亡き母と見し映画「怪談」
026:芝
われの知らぬ快楽あるときみは言ふ庭の芝桜眺めつつ言ふ
027:天国
天国に役者揃ひてさて今宵芝居の幕はにぎやかに開く
028:着
レインコート着ぬこと久し阿倍野へと向ふ日曜春の雨降る
029:太鼓
少年のこゑは魔法の周波数ブリキの太鼓を首からさげて
030:捨て台詞
ちよいと粋な捨て台詞思ひついたらば別れてもいい ただ、今はまだ
031:肌
素肌には男のシャツがよく似合ふ? 常套句など破り捨てたし
032:薬
いつものあの薬を取りに帷子の辻まで行かむけふは本名
033:半
もうとうに半ばを過ぎしわれの生(よ)に冒険あるやまた恋あるや
034:ゴンドラ
観覧車のひとつひとつのゴンドラに十数分のドラマが廻る
035:二重
後ろよりひとに見らるる心地して二重に扉を閉ざしてをりぬ
036:流
こいのぼり二十数匹並び泳ぐ高野川その流れの上を
037:愛嬌
えくぼには愛嬌あると母の言ふ乙羽信子の情念はるか
038:連
雨の匂ひ連れてかへりしあをいろの傘たたまれてちひさくなりぬ
039:モザイク
夕映えをモザイクにしてビルの窓朱から藍へといろ変へてゆく
040:ねずみ
パレットを洗へば流るる水の色しだいにねずみ色になりけり
041:血
われに血を授けし母の命日の夜にひとり観る雷蔵シネマ
042:映画
母とゆく海辺の町の木曜座大映映画専属館へ
043:濃
Oの字に口あけうたふマドンナの口をふちどる濃きべにのいろ
044:ダンス
たそがれのダンススタジオ・ルネ芦屋姑の靴音たからかに鳴れ
045:家元
両親の仕事は元画家元モデルいまはスナック経営らしい
046:練
山城の国の竹よりエジソンはフィラメント生みぬ練実として
047:機械
自らを機械屋とよぶ男らは「ご安全に」と声をかけあふ
048:熱
本棚のすみの地図帳ひらいては熱帯雨林をあるく五月に
049:潮騒
潮騒を閉づるむらぎものこころ捨て食べられやすし鰆の切り身
050:おんな
鍋の火をすこし小さくしてごらん 煮こぼれぬようにするのがおんな
051:痛み
指先に針を刺しては痛みから陶酔を待つ少女のいたみ
052:部屋
新しきメガネを買ひてこの部屋にまたひとりわれを招き入れたり
053:墨
墨跡の掠れのゆくへ見届けむとじつとしてゐる蜘蛛が一匹
054:リスク
アガリスク茸は戸棚に残りをり執念き姑の匂ひをさせて
055:日記
だれにでも裸体をさらすマネキンのやうな日記をまた読みに行く
056:磨
雨露に磨かれひとに拝まれて何処へも行けぬ美男大仏
057:表情
をりをりの表情変へて太古より風景変へず深泥池は
058:八
八角のビードロ細工の皿の上(へ)の若鮎あまき求肥を抱く
059:矛盾
肩書きに囚はるる夫(つま)に囚はるる専業主婦とふ立場の矛盾
060:とかげ
身のうらのやはらかき肌を玻瑠窓にゆるすとかげよALL YOU NEED IS LOVE(愛こそはすべて)
061:高台
高台寺蒔絵の文箱の蓋のうら手触られぬまま艶めきてゆく
062:胸元
手花火のひかりひととき胸元を照らしふたたび闇へとかへる
063:雷
響もして雷(いかづち)は鳴る暗雲に鋭き光走りしのちを
064:イニシャル
イニシャルの謎に阻まれ気みじかに紫煙くゆらす松田優作
065:水色
透くみづのいろは水色と名づけられギタークレヨンの箱に収まる
066:鋼
鋼鉄の匂ひをさせてそのをとこ吾にちかづけり驟雨のあとに
067:ビデオ
大相撲力士の髷のゆるべどもビデオ戻せばすぐに結はるる
068:傘
たらちねの母の日傘はくるくるとまわつてまつて空のぼりゆく
069:奴隷
地下室の床に竜骨眠りゐて遥けきときを行く奴隷船
070:にせもの
にせものでゐたしこのまま日暮れても何にもならぬことの安穏
071:追
追ひかけて来るもののなき夏の終て ぎりりと柱時計の捩子巻く
072:海老
髪多き晶子好みし海老茶色 大正生まれの母のはをりの
073:廊
額縁が不思議に目立つ画廊より個展のハガキ届く木曜
074:キリン
黄金の麦酒のあわのつぶつぶの花なるアキノキリンサウ咲く
075:あさがお
わたくしのあさがほだけがまだ咲かぬ天上の青であれよと祈る
076:降
雨降れば極彩色の花咲くとナマクワランドを教へしひとよ
077:坩堝
歌会とふ言葉の坩堝に身を投げむ<覚悟はよいか>いざ台湾へ
078:洋
その果ての洋に至らぬ鴨川のみなもとの湖近江のくにの
079:整形
整形をする前の顔なつかしくまたアルバムを見てゐるわたし
080:縫い目
子の衣の綻び繕ふ三ヶ島の葭子の手なるちひさき縫ひ目
081:イラク
ふくらはぎのなんとはなしに痒きこと昨夜イラクサに触れたるゆゑか
082:軟
炎天のショーウィンドウに飾られて女(ひと)を軟禁に導くドレス
083:皮
羊皮紙に到る歳月ほのぼのと牧の羊は草を食みけり
084:抱き枕
干し草のかをり放てよ抱き枕そのゆるやかな凹凸の間に
085:再会
獄窓で母との再会待ちわびるローンサム・ハヤト平積みされぬ
086:チョーク
日暮れまで路地の敷石に「街」を描く姉は蝋石でわたしチョークで
087:混沌
リビングのにほひの混沌ゆるさぬとファブリーズ撒くちからこめ撒く
088:句
海へゆく単線電車で隣りあふをとこの手帳の俳句の頁
089:歩
歩くたびわれの足裏を押してくる小さき石よ この靴脱げぬ
090:木琴
放課後の木琴鉄琴手風琴春琴慕ふは温井佐助ぞ
091:埋
八月の下鴨神社の古書市に埋もれし松下竜一に会ふ
092:家族
吹き抜けのある玄関で家族を待つ犬は生きやすし母生きがたし
093:列
湖の西を和邇から蓬莱へたどる九月の快速列車
094:遠
遠つ国へゆくエアメールにさくら咲く アラビア糊のほのかな甘み
095:油
たうたうと弁舌ふるふをとこなり鼻の頭のその油照り
096:類
図書室の鳥類図鑑の表紙にはこの世にゐない鶯が啼く
097:曖昧
曖昧をゆるしてくれるか 君は杉 われは出町の枝垂れの柳
098:溺
魔女ひとり若狭の浜を訪ふて来て溺れ谷までひとを誘(いざな)ふ
099:絶唱
枕辺に迦陵頻伽のあらわれて絶唱みちびく春のゆふぐれ
100:ネット
赦されてうは言を百つぶやきぬ魔法のネットに囚はれしのち


鳥総立

2004-11-28 13:34:45 | つれづれ
わが彫りし刳舟ならむみどり児を乗せて逝くなり春の運河を

瑠璃色の磁石の針のふるへをり朴の花そらにひらくひかりに

百合の香を身にまとひつつ山道を飛び去りしもの父かもしれぬ

朱泥もて落款押せば山の鹿ふたたび鳴けり家近く来て

銀漢の闇にひらける山百合のかたはら過ぎてつひに山人

(前登志夫 鳥総立 砂子屋書房)

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とぶさだて。「総」はもっとむずかしい字。
奈良県吉野の山住みの歌人前登志夫の歌集を図書館で見つけて読んだ。
図書館で借りた本には、得体の知れないものが挟まっているが、この本には草の実が挟まっていた。そのままにしておく。

草食獣第五篇

2004-11-26 19:15:12 | つれづれ
ペコちゃんを遠くみてゐしポコちゃんの暗く切なき少年の季(とき)

食卓を補ふやうにテレビには世界の料理が並びてをりぬ

一粒で三百メートルの看板のグリコの選手は橋を渡らず

のぞむらく二人子なれば喧嘩せずよき仕事得よよき伴侶得よ

(吉岡生夫 草食獣第五篇 柊書房)

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二人子なれば…のうた、思わず身につまされてほろっとします。
吉岡さんの新しい歌集が青磁社から出るということを聞きました。
お体に気をつけて、がんばってください。

ココア

2004-11-24 20:22:13 | おいしい歌
一匙のココアのにほひなつかしく訪(おとな)ふ身とは知らしたまはじ

(北原白秋 桐の花)

冷えてくると暖かい飲み物が欲しくなる。そんなときの定番がココア。
明治から大正にかけての時代でさえ、ココアは懐かしさを感じさせるものだったらしい。
去年の秋に買った飲みさしがあるのに、また買ってしまうのは、なぜだろう。

草食獣第四篇

2004-11-24 10:46:38 | つれづれ
タコあげに来しがいつしか子らの散り広場にわれのみたこあげてゐる

「桃太郎」「一寸法師」妻は子の耳にふきこむ拝金主義を

子供用のネクタイ締めてやるときの首やはらかし危めたきまで

文鳥にうまれかはりて先の世の妻の手にのることのあるべし

少年のわれの不思議は喧嘩せぬ近江兄弟社にはじまりぬ

(吉岡生夫 草食獣第四篇 和泉書院)

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吉岡さんの家族詠は面白い。ご本人を知っているからだろうか。
この本の装丁は川本浩美。川本さんの歌が読みたい・・・

わかからんどりえ

2004-11-23 13:27:55 | つれづれ
黄昏にふるるがごとく鱗翅目ただよひゆけり死は近からむ

たゆたひて通暁寒し運命のつばさみづから断つに及ばず

海へ向く石の十字の一基さへ冬日に遺す言葉うつくし

身辺をととのへゆかな春なれば手紙ひとたば草上に燃す

(小中英之「小中英之歌集」砂子屋書房)

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はじめて手にした短歌人誌が、小中英之追悼号だった。ゆうべこの号を探したが、見当たらない。
短歌のことも歌人のことも結社のことも、何も知らないスタートだった。
まとまって現代短歌文庫で出たので、三月書房で購入。「わがからんどりえ」の部分を読んだが、なかなか進まない。辞書を引きながら、楽しみながら。

短歌研究11月号に、春畑茜のこんな歌があった。

小中英之その死の翌朝生(あ)れし子よはや三度目の秋を迎うる
(春畑茜 銀の秋)



題詠マラソン2004(91)

2004-11-23 00:06:14 | 題詠マラソン2004
091:埋

八月の下鴨神社の古書市に埋もれし松下竜一に会ふ

(画像は下鴨神社 糺の森と泉川)

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この日、私が買ったのは「ルイズ 父に貰いし名は」講談社文庫
松下竜一は、朝日新聞歌壇の投稿から出発した歌人でもあった。

「泥のごとできそこないし豆腐投げ怒れる夜のまだ明けざらん」

という歌がある。
自費出版した「豆腐屋の四季」は翌年講談社より出版されベストセラーになり、
テレビドラマにもなった。主役は緒方拳。
しかし、手元にある岩波現代短歌辞典、現代短歌大辞典を調べると、松下竜一の名はない。