気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

RERA  松木秀  つづき 

2010-04-03 01:25:20 | つれづれ
アリコジャパンの新商品が売り出されてごろに生きててごろに死ねる

サイモンとガーファンクルの「と」のような気恥ずかしさが来て夕まぐれ

にっぽんの政治をいつも揺るがすは金(かね)の問題金(キム)の問題

『渡辺のわたし』の中にただひとつら抜き言葉があるをよろこぶ

そっとさす小さな傘の部分だけわたくしたちはまもられている

岡井隆とミッキーマウスや同い年どちらも不自然に元気なり

宅間守死刑執行されにけり自殺の一つの類型として

これもまた振り込め詐欺の一種かと思いつつ短歌雑誌予約す

決められた世界に生きて今日もまたローソンで買う野菜ジュースを

(松木秀 RERA 六花書林)

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気取ったところもわらかないところもなく、作者の気づきを差し出した歌がほとんどで、読みやすい。常識と思われていることに疑問をもって、言葉にしてみることから生まれる歌。
作者は、ご病気であるらしいが、繊細でさまざまなことを「流す」ことができない方なのだろう。だから、気づくことがあり歌が生まれる。しかし生きづらい面がある。どうぞお元気で、またわたしたちに歌を読ませてください。


RERA 松木秀  

2010-04-01 00:44:24 | つれづれ
勝ち組は何に勝ったか負け組は何に負けたかよくわからない

「止まったままの時計」がまたも惨劇を忘れぬためのアイテムとなる

平等院鳳凰堂のオの音のなんとも調子よく浄土へと

将軍様のプライベートな競馬場もグーグルアースはもれなく映す

検索でひとまず少し知ってみる深く知るため電源を切る

われよりも歳をとりたる十円を自販機に投ず がんばれ十円

「昔のコンクリートは気合い入っとる」母は原爆ドーム見て言う

ごみ箱は何でもごみにしてしまうミカンの皮も記念写真も

一人なら孤独で二人なら地獄三人集まれば社会学

わが街で親子惨殺事件ありようやくここも郊外となる

飛び降りる人とか首を吊る人とかも大抵の場合「前向き」である

触れたなら死ぬような線が数メートル頭上にありてその下をゆく

「無」の文字は「無」というものを示すにはちょっと画数が多すぎである

はつなつの風れられらと過ぎゆきて銀のしずくのしたたるまひる

(松木秀 RERA 六花書林)

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短歌人同人の松木秀さんの第二歌集『RERA』を読む。
松木さんは北海道登別市在住。集題の「『RERA』は「レラ」と読み、アイヌ語で「風」を意味します。」とあとがきにある。北海道では「レラ」がショッピングモールやプロバスケットチーム名になって、ちょっとした流行語となっているらしい。

歌はどれも一読わかりやすく、発見の歌、納得の歌が多い。日常生活の中で見逃しそうな、些細なことを拾って歌にしている。また、作者は死を意識していることが多く、ブラックユーモアの歌もあり、これは読者の好みの分かれるところだろう。
「…風れられら…」の歌など、松木さんにもこういう短歌らしい歌もあるんだと思ってしまった。