湿りたる風にさらされ裏庭に眼のなき石の神様がいる
膝を折る家族の前にレンタルの介護ベッドは解体されつ
木々はいま沐雨の時間てのひらを春の流れる風にさしだす
運転席にひとの姿は見えざるをゆるやかに坂を走り出したり
きさらぎと弥生をつなぐ糊代に冬を閉じゆく閏日にして
今日よりは石の下なる母の部屋 ああ繊月が疵のようなり
殻の底にふたつの日付記されて卵はあいだの時間を生きる
躰よろこぶこと何もせずイチローの白髪見ている朝のテレビに
日に一軒消えてゆくなりこの国の町のたばこ屋ではなく本屋
ふたつ膝まげて力を溜めながら眠りぬいつか飛び立たむため
(梶黎子 冷えたひだまり 六花書林)
膝を折る家族の前にレンタルの介護ベッドは解体されつ
木々はいま沐雨の時間てのひらを春の流れる風にさしだす
運転席にひとの姿は見えざるをゆるやかに坂を走り出したり
きさらぎと弥生をつなぐ糊代に冬を閉じゆく閏日にして
今日よりは石の下なる母の部屋 ああ繊月が疵のようなり
殻の底にふたつの日付記されて卵はあいだの時間を生きる
躰よろこぶこと何もせずイチローの白髪見ている朝のテレビに
日に一軒消えてゆくなりこの国の町のたばこ屋ではなく本屋
ふたつ膝まげて力を溜めながら眠りぬいつか飛び立たむため
(梶黎子 冷えたひだまり 六花書林)