気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

短歌人2月号 2月の扉

2014-01-29 23:58:47 | 短歌人同人のうた
ツイッターもフェイスブックも無縁なり朝は納豆ごはんを食べて

横顔のほかは知らざる人ふたり正岡子規はたラフカディオ・ハーン

(田中あさひ 十の紅顔)

めざましとさだまさしとは似ていると言えば十歳の顔はほころぶ

わがくろき財布開ければひとつふたつ明治の顔のあらわれにけり

(室井忠雄 明治の顔)

泣き顔もおまへ次第と手さぐりのこの福笑ひにや黒子が足りぬ

底知れぬ闇のむかうに振り向いたのつぺらぼうの白がまばゆし

(山科真白 顔認証をおこなひますか)

おきなさいおきなさいよと三毛猫がぐうの手にわがかほなでる

ときどきに顔をかへるといふ世間のつぺりとしてわが内にあり

(神代勝敏 かほの顔)

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短歌人2月号、2月の扉。今月のお題は「顔」。

今日の朝日歌壇

2014-01-27 17:35:20 | 朝日歌壇
鯖街道今や原発街道と呼ばれる 孫も暮らしているに
(摂津市 内山豊子)

言霊を尊び父の九十歳「卒寿」を避けて「鳩寿」で祝う
(岡崎市 兼松正直)

まとめれば三段の重(ぢゆう)は一段になりて正月二日更けゆく
(仙台市 坂本捷子)

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一首目。鯖街道の終点である出町柳は、よく行く親しみのある場所。そういえば、鯖街道の起点である若狭には原発がある。原発街道という言い方があるのを今まで知らなかった。孫も暮らしているに・・・に作者の不安なきもちが素直に現れている。
二首目。鳩寿という言葉も知らなかったが「きゅうじゅ」と読める。なるほど、鳩は平和の象徴であるし、まことに目出度い。
三首目。正月三が日も二日がすぎて、お節料理の重箱もまとめられるくらいに減ってきた。主婦の実感そのままの詠いぶりに好感を持った。


短歌人1月号 同人のうた その3

2014-01-25 23:20:43 | 短歌人同人のうた
いまどきの大和心を問いたれば「オモテナシ」との答が返る
(細山久美)

丁寧に折り畳み傘たたみゆく午後の母なり母の指なり
(小田倉良枝)

水に石投げるさみしさケータイに幾つか言葉記して消しぬ
(岩下静香)

アメリカ楓(ふう)の地に落ちぬまま掌に受けて下校の男児ひとり遊べる
(椎木英輔)

エコビルという仕事場の嘘っぽさ草木と呼ばずグリーンと言い
(森澤真理)

てのひらを風吹く野原と思いけり木の実ひとつをまろばせる時
(守谷茂泰)

遠き日の手編みのセーター出できたり胸に貝殻のぼたんをつけて
(木曽陽子)

飴色にぶり大根を煮ておれば主婦という染み濃くもなりゆく
(今井千草)

あやしげな竿竹売りのくるま過ぎハクモクレンの枯葉散りそむ
(小池光)

満天星あかあかと燃え 人生の秋深くして未だ旅人
(西勝洋一)

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短歌人1月号、同人1欄より。

短歌人1月号 同人のうた その2

2014-01-22 18:26:28 | 短歌人同人のうた
取引先へ向かいつつねむる胸元に秋はじめての涎たれたり
(内山晶太)

きのふ買ひし半額のカツカレー弁当を茂吉の墓に座りて食べる
(山寺修象)

ちちははを苦しめたりしわが恋も遠くはるけし雲が流れる
(三井ゆき)

薄明は晩年に来て黒眼鏡の白秋探す阿佐谷界隈
(渡英子)

氷上を舞う浅田真央たまさかに弥勒菩薩のほほえみを見す
(川田由布子)

夕刊に秘密保護なる文字踊り気がつけば足元は暗闇
(藤原龍一郎)

泣きたいやうな夕焼けのいろ 日暮れにはこんな素直な衝動ありぬ
(蒔田さくら子)

このさきは穂すすきの界会ひたしとねがふに父のかの背は見えず
(春畑茜)

千万の人の思いを配り果てわが郵便夫やすむブランコ
(八木博信)

ゆれゐるはコスモスなのかわが影か秋のをはりのきよきゆふぐれ
(岡田幸)

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短歌人1月号、同人1欄より。

今日の朝日歌壇

2014-01-20 17:57:50 | 朝日歌壇
原発で夢稼がんか誘いくる男の背中のるまあるらし
(ホームレス 坪内政夫)

芸多き猫の動画を見せられてわが家の猫は逃げ出しにけり
(岡谷市 岩田正恭)

「聞く耳」は考える耳じっくりと人の意見を吟味する耳
(春日井市 伊東紀美子)

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一首目。朝日歌壇では、数年前ホームレスの公田耕一氏の作品が話題になったが、いまは公田氏の作品は見られない。別のホームレスの方の作品が載るようになった。作者に、原発で働かないかという誘いがあるようだ。本当は「原発で金稼がんか」なのだろうが、そこはあからさまにならないように「夢」にしてある。「のるま」のひらがなが、いかにもという感じで目立ってしまっている。
二首目。一読、よくわかる歌。人間だって、立派な人の行いを見せられると、感心すると同時に疎ましく思うことがある。猫に託しているのがいい。
三首目。こちらは「耳」だけを出して、耳の働きに注目した作り方。吟味という言葉が的確。

きのうは、所属する短歌人会の新年歌会のために上京した。概して新聞歌壇の歌はわかりやすすぎ、言い過ぎが多く、短歌結社に属する人の歌は、わかりにくいものが多い。かく言う私の歌もわかりにくかったらしく、二票という結果だった。今回のわかりにくさは、風習のちがいで、私の場合が特殊だったので理解されなかったようだ。
歌は、つくづくむつかしい。


今日の朝日歌壇

2014-01-13 23:28:38 | 朝日歌壇
冬畑のエンド豆の杖立て終えて夕日に向かい深呼吸する
(加東市 丸山義隆)

菊好きが菊にうもれて作業する呼べば答えは菊の中から
(館林市 川島重利)

芝枯れしサッカー場にかすかなる凹凸ありて冬日うつろふ
(ひたちなか市 篠原克彦)

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一首目。農作業の歌というのが新鮮に感じられた。エンド豆がいい。エンドウ豆と言うことが多いが、実際に育て親しんでいる作者は「エンド豆」と呼ぶ。そこに温かみと実感が
ある。
二首目。こちらも農作業の歌。菊の世話を複数の人数でしているのだろう。菊にうもれて顔が見えないが、声と気持ちは通じている。菊の反復が思いを濃くしている。
三首目。下句がいい。人のいないサッカー場の静けさ。凹凸という言葉を短歌で見ることが珍しく実感がある。ユーミンの「ノーサイド」という歌を思い出した。あれは、ラグビー場の歌だったが・・・。

白へ  藤田千鶴  

2014-01-12 18:41:27 | つれづれ
血のなかを光の通るおどろきに雲雀は高く高く啼くのか

冬空の紙ふぶきかと思うまで遠くに見える白鳥(しらとり)の群れ

白くまの薄汚れているあの感じ貨車のひとつに雪は残りて

喉仏に触れてこれは骨なのときけば神様だよと言いたり

ここへ私を置いていこうか絵のような明るい森の緑の椅子に

葉が枝を離れるようにつぎつぎとカヌーは岸をあとにしてゆく

まっすぐに越えてゆく波うしろから「次は大きい」という声がする

艶やかに私の舟の下をゆく川は大きな冷たい虎だ

木漏れ日を浴び続ければ白樺の木になりそうなほどひとりなり

海は手をかえしてすいと放ちたり白あたらしきかもめ一羽を

(藤田千鶴  白へ  ふらんす堂)

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塔短歌会編集委員の藤田千鶴の第二歌集『白へ』を読む。
藤田さんは、童話作家でもあるので、四編の童話と短歌が交互に掲載されている。神楽岡歌会でご一緒しているが、いままで童話作家ということを知らず、作品も読んでいなかったが、今回その両方を読み鑑賞することができた。

童話を読むことが普段なかったので、これもまた新鮮なことだった。作者は小学生くらいの少女になって書かれているが、どこまでが創造かわからない。わからないなりに、そういう年齢の女の子の気持ちがよくわかるものだと感心した。動物とのふれあい、家族とのふれあいを扱った作品で、ときおり詩的な言葉があり、面白く読めた。

短歌については、安心して読める実力のある人。童話を書く純粋な子供のような目線で描かれている。私の好みでもあるのだが、ここではものの見方に独自性のある歌を選んでみた。
6~9首目は、2008年歌壇賞次席作品「冷たい虎」から。カヌーをする作者の動きと心の動きが、生き生きと表現されてる。

また、装丁がフランス装でおしゃれ。WHITEのWが花文字でデザインされている。



短歌人1月号 同人のうた

2014-01-10 22:55:41 | 短歌人同人のうた
ひらりはらり姑を離(か)れゆくものあまたあれは思ひ出これは意気地か
(武下奈々子)

帰らうと言ひて立ち止まる汝とわれといづれ帰らむ道を知らず
(酒井佑子)

紅い実はまゆみ山ぐみ山ぼうし 聴き耳頭巾がほしい秋の日
(和田沙都子)

あたたかのたたのひびきを口中にひびかすように朝の地下鉄
(鶴田伊津)

死といふは枝に遺れる柿の実が夕陽に溶け込むやうに来るべし
(原田千万)

幼子のわれを溺愛したる養母いまならわかる春のまなざし
(西台恵)

むかしむかしの玩具がつまつてゐるのかもガスタンク視えるところまで歩む
(山下冨士穂)

おそらくは今年最後の台風が去って加速度的なさびしさ
(猪幸絵)

秋なれば風に流るる言の葉も桔梗、刈萱、萩、吾亦紅
(上原元)

口癖は「ケ・セラ・セラ」あのひとはいつも手櫛ですむ髪型だつた
(橘夏生)

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短歌人1月号、同人1欄より。

しろたへの綸子の襦袢に手をとほすしばし冷たくのち温かし
(近藤かすみ)

galley  澤村斉美 

2014-01-08 20:17:31 | つれづれ
「残業の人の背中はさみしい」と向かひのビルの人も思ふらむ

サワムラは水の流れる村にして夜勤ののちをふかく冷えこむ

うどん食べてゐる間に死者の数は増えゲラにあたらしき数字が入る

ハンガーの肩の下がつたワイシャツの夫の形へ「ただいま」と言ふ

「貧困」といふ字の並ぶ新書棚どの貧困も買はずに過ぎる

ガレー船とゲラの語源はgalleyとぞ 波の上なる労働思ふ

ベランダは秋へ漕ぎ出し銀色のせんたくばさみ風に鳴りをり

わたくしの白とあなたの水色をかさねて仕舞ふ給料明細

八時間赤ボールペン使ひたる手を包む泡がももいろになる

死者の数を知りて死体を知らぬ日々ガラスの内で校正つづく

(澤村斉美 galley 青磁社)

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塔短歌会の澤村斉美(まさみ)の第二歌集『galley』を読む。
作者は新聞社の校正記者。集題は、編集途上の「ゲラ刷り」の語源と関わりのあるガレー船から取っている。ガレー船は人力で櫂を漕いで進む軍船のこと。時代が変わっても、それぞれ人の労働に関わる。
歌集には、残業、夜勤、上司という言葉がよく出て来て、労働の歌が多い。地に足のついた生活から生まれる歌には信頼が持てる。
また、三首目のような夫への静かな愛を詠った相聞も魅力的だ。
七首目のベランダの歌は、新しい季節の始まりを詠ってみずみずしい。せんたくばさみやベランダといった日常の何気ないアイテムが、言葉のちからで銀色に輝くようだ。
九首目。わかりやすく労働の厳しさが伝わる。「ももいろ」という言葉がこんなに崇高に見える歌をほかに知らない。

装丁は白を基調にして洒落ている。遊び紙は一見の価値あり。

今日の朝日歌壇

2014-01-06 21:41:53 | 朝日歌壇
フクシマに生きて千日ふと思うムカシハモノヲオモハザリケリ
(福島市 伊藤緑)

日本語の撮りだめドラマとミルクティーで充電をする日曜の朝
(イギリス ボイド知子)

口角をあげて微笑む月がいて冬の夜空に励まされてる
(東京都 西出和代)

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一首目。東日本大震災からそろそろ千日。それまでの穏やかな暮らしを思えば「むかしはものをおもはざりけり」という感想を持たざるを得ないのだろう。カタカナ表記が効いている。
二首目。イギリス在住の作者の気持ちが、素直に出ていて好感の持てる歌になっている。やっぱりミルクティーなんだなと納得した。
三首目。初句の「口角をあげて」が具体的でいきいきした表現。三日月のある夜空に励まされるように思うことができるのは、作者の心が健全だからだろう。