気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ…遅れてきた私
著作権は近藤に帰属します
白日傘さして私を捨てにゆく とつぴんぱらりと雲ケ畑まで

冷えたひだまり 梶黎子 六花書林

2018-09-12 19:49:23 | つれづれ
湿りたる風にさらされ裏庭に眼のなき石の神様がいる

膝を折る家族の前にレンタルの介護ベッドは解体されつ

木々はいま沐雨の時間てのひらを春の流れる風にさしだす

運転席にひとの姿は見えざるをゆるやかに坂を走り出したり

きさらぎと弥生をつなぐ糊代に冬を閉じゆく閏日にして

今日よりは石の下なる母の部屋 ああ繊月が疵のようなり

殻の底にふたつの日付記されて卵はあいだの時間を生きる

躰よろこぶこと何もせずイチローの白髪見ている朝のテレビに

日に一軒消えてゆくなりこの国の町のたばこ屋ではなく本屋

ふたつ膝まげて力を溜めながら眠りぬいつか飛び立たむため

(梶黎子 冷えたひだまり 六花書林)

逆光の鳥  伊東文  青磁社

2018-09-09 18:42:52 | つれづれ
左胸の乳房なければ右側へ傾く身体 きくきく歩く

墓石に刻まれてある命日は被爆の日より秋が多かりき

E線を押さへるきみの左手の指輪はづされ匣(はこ)にをさまる

黒板のすみずみまでも拭いてゆく児らの帰りし教室はしづか

百合鷗と漢字に書けば甦るくれなゐの脚 蘂のごとしも

潦(にはたづみ)くつをぬらして立ちどまる嫁菜のひくく咲く道の辺に

句碑の字のくぼみ翳らせ石肌のあふとつにそふ冬の日射しは

渋滞に動かぬバスの窓拭ふゆびの幅だけ夕闇が来る

ああほんの束の間わか葉も幼子もまだやはらかく照り翳りせり

被爆せし母の身体が火葬炉の烈しき炎が灼きつくしたり

(伊東文 逆光の鳥 青磁社)


つららと雉 黒﨑聡美

2018-07-21 11:43:17 | つれづれ
折り鶴のおりかた思い出せなくて畳のにおいの立ちのぼる部屋

鯉たちにわたしの影を見つけられわたしの子どもに会える気がした

じゅうたんをさか撫でにしてまたもどすひとり遊びのような年月

散ってゆく葉の影うつす食卓を見つめていれば十年過ぎる

雨の日はすぐに暮れゆく差し出された診察券から煙草のにおい

待合室はさいしょに暮れてさかさまに戻されていた雑誌を直す

歩いて歩いてカーブミラーに辿り着きわたしのなかからまだ抜け出せない

ソーラーパネルの土台ばかりが放置されあかるい方へ向かされたまま

少しずつ点が小さくなるようなきみとの暮らしにあかりを灯す

それぞれの記憶を話せばあらわれるどこにも存在しない薔薇園

(黒﨑聡美 つららと雉 六花書林)

あらがね 本田一弘

2018-07-13 11:19:25 | つれづれ
山鳩はかなしみを啼く此世(これのよ)に生まれ出でたるたれのかなしみ

雪の息聞(きこ)ゆるといふ嬬の耳やさしく咬みてそを聴きてをり

ちのみごのうぶ毛のやうなふくしまの桃のはだへを愛せりわれは

ふくしまの米は買ふなといふこゑをふふむ土満つフレコンバッグ

枇杷の花香(にほ)ふゆふぐれ喪ひし人をおもへばにじみゆく白

復興は進んでゐますといふ言葉から漏れつづくCs(セシウム)と水

東京は大丈夫ですー係(かかり)助詞「は」に其の人の心根を見る

ふるゆきは誰のてのひら 瓦礫より骨の見つかる七歳の子の

歌ふとはうつたふること磐梯を映す田の面をわれらは愛す

亡きひとのゐてあたたかき月の夜の声かき抱(むだ)くふくしまのそら

(本田一弘 あらがね ながらみ書房)

カミーユ 大森静佳 書肆侃侃房

2018-05-31 01:15:37 | つれづれ
狂うのはいつも水際 蜻蛉来てオフェーリア来て秋ははなやぐ

老けてゆくわたしの頰を見てほしい夏の月影揺らぐさなかに

わたくしが切り落としたいのは心 葡萄ひと粒ずつの闇嚥む

曇天に火照った胸をひらきつつ水鳥はゆくあなたの死後へ

遠ざかるときがいちばんあかるくてあかるく見えて夕暮れの頰

唇(くち)もとのオカリナにゆび集めつつわたしは誰かの風紋でいい

冬の虹途切れたままにきらめいて、きみの家族がわたしだけになる

全身できみを抱き寄せ夜だったきみが木ならばわたしだって木だ

何があったか全部言って、と迫るうちに蔓草の野となってしまった

肉体の曇りに深く触れながらカミーユ・クローデル火のなかの虹

(大森静佳 カミーユ 書肆侃侃房)


古今さらさら 河野多香子 不識書院

2018-05-31 00:53:35 | つれづれ
黙祷はまだしたくないこの国の揺れて揺られて漂う姿

木洩れ日をつかまえようと手を伸ばすおさなの指から夏の鳥飛ぶ

野良猫と呼ばれるほどの魂をもつ猫おらずビルの町には

飛び立とう冬が近づく身の内の水の部分は君に預けて

残された父の日記に細々と戦争当時の食べ物の値段

武蔵野の父が愛せる槻の木のいま春が来て新芽を降らす

紙風船 折ってたたんで息吹いて母が呟くあのころの恋

こんな夜は三匹が揃って嘲笑うドイツワインのラベルの猫が

夜更けには月が窓辺を訪れて古き歌集の吐息をのぞく

嘘つきな女がほそい指で折る造花のような夜の東京

(河野多香子 古今さらさら 不識書院)

柿の消えた空 喜夛隆子

2018-05-01 12:22:51 | つれづれ
み吉野の鳥獣虫魚啼きをらむ草木悉皆さやぎてをらむ

月光の夜ごとにそそぎあふれけむ棚田百枚に早苗そよげり

みはるかす大き円弧のかすみつつ海境(うなさか)といふやまとのことば

さにつらふ梅の実笊に盛りあげて潮満ちてくる朝のわたし

むかし一度ひとを載せたる月輪とふと思ふなり冴えかへる空

あをによしならのならぼけはるがすみはなもさかむよゆつくりゆかう

つたかづら生き生き家を巻き締めて閉ぢこめられし仏壇ひとつ

さみどりの斜面かぐはし一番茶摘みゆく人に立夏のひかり

とうめいのみづのひびきにつつまれてほとけもわれらもひとつこすもす

鹿たちが立つて葉を食む高さなれ鹿(デイ)の(アー)線(ライン)と名付けられたる

(喜夛隆子 柿の消えた空 角川書店)

「ロフ」と言うとき なみの亜子 

2018-04-12 00:44:11 | つれづれ
朝露に膝下までをひたしつつ深くなりたる草を刈りゆく

雲ふかき山の家にも人の住むまばらまばらに住むさびしさに

たっぷりと踏み込んでゆく山みちに渓流にきみのむかしの歩みは

廃校の旗立てに金具こんかんと風のリズムを鳴らす泣いてまう

晴れてさえいればなんでもないことに泣きたくなって雨中の紅葉

いつからが春でありしか羊歯となりそよげる蕨を谷に数えぬ

山帽子ことしの花のおおぶりなひらきに夜の一角白む

あさなさな尿瓶あらえる草むらにミントそだちて香りをはなつ

杖に立ち朝(あした)の窓にブラインドあげてあなたがあらわす山並み

人の世は苦痛にまみれつゆ草は雨にひらきて青いろ洗う

(なみの亜子 「ロフ」と言うとき 砂子屋書房)

かたじけなくも 植松法子 本阿弥書房

2018-04-07 12:32:51 | つれづれ
右ひだり交互に出すを疑はぬ足に一軀ははこばれてゆく

雨粒にうたれうなづく秋海棠ははの部屋から見る母の景

十六夜と暦にあれば十六夜とうべなひ仰ぐまん丸な月

消ゴムのひとつ失せたるほどならむわれのポトリと抜けしこの世は

はろばろと高麗の風ふきわたり青磁の空をゆく鶴の二羽

大きさの目安となしてカラス、ハト、スズメはものさし鳥と呼ばるる

蚊を連れて入りこし人が蚊を置きて出でてゆきたり良夜深更

あぢさゐのつゆけき花に会はぬまま空梅雨あけてその後の雨

右岸に育ち左岸に暮らす歳月の栞のやうにひかる富士川

いつの日のわれか草生に腰おろしボンタン飴のオブラート剝く

(植松法子 かたじけなくも 本阿弥書房)




鱧と水仙50号

2018-02-27 18:49:13 | 鱧と水仙
鱧と水仙50号が出ました。

25年間の歴史をふりかえる年表があります。
作品30首「地図のない旅」を出しています。

現代短歌3月号、作品時評を書いています。

併せてお読みいただければ、幸いです。