気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

短歌人6月号 6月の扉

2013-05-31 01:00:33 | 短歌人同人のうた
宝石箱の蓋をひらけば鳴り出だす「春の海」より波はよせくる

屍(しかばね)の羽虫ひとつを閉じ込めて琥珀のブローチ胸に温とし

(ラピスラズリの空 関谷啓子)

宝石箱のなかのくらやみ息づけり子の乳歯二十粒を蔵ひて

てのひらゆきさらぎの水に放たるるタピオカパール春をはらみぬ

(宝石箱 春野りりん)

台湾の旅にもとめし赤さんご腕輪にしてをりすこし派手かも

形見分けの僅かな宝石まづは姉泣きつつえらぶアクアマリンを

(春のこゑ 岡田幸)

物憂げに「ルビーの指輪」歌いつつ架空の恋に燃えていた頃

硬派でも軟派でもなく半端ゆえいつしか消えた週刊宝石

(宝石雑詠 村田馨)

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短歌人6月号。6月の扉より。今月のお題は「宝石」

人生はひと色ならず亡き母のオパールの指輪秋の陽にかざす
(近藤かすみ 雲ケ畑まで)

今日の朝日歌壇

2013-05-27 22:31:03 | 朝日歌壇
密会のわが楽しみぞ天蚕の棲む一本のくぬぎ見守る
(成田市 神郡一成)

引き継ぎの資料と共に肩書を置いて静かに会社から去る
(生駒市 宮田修)

足早に五月の風を追い越してどこかへ行ったっきりの修司よ
(八尾市 水野一也)

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一首目。天蚕はヤママユのこと。初句の「密会の」でドキっとさせられるが、自分だけが知っているという喜びが感じられる。
二首目。定年退職は、こういうのが理想的。最近は、定年が65歳になった会社もあり、働けるうちは働く、という人も多い。退職後、いつまでも過去の役職にこだわる人は、周りも付き合いにくいだろう。作者には、短歌があってよかった。やることのない人はどうするのか、恐ろしいことだ。
三首目。寺山修司への挽歌。47歳の死は早すぎるが、その存在は大きく、五月になれば、修司を思い出す人が多い。
私のベストワンを選ぶなら、
「人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば二月のかもめ」

瓊花  英保志郎  

2013-05-26 00:14:04 | つれづれ
眼を病みし和上の記憶に映したる花影は白きたまなす瓊花

水に生(あ)れしとほき記憶の目覚めつつ梅雨の窓辺に読む散文詩

をみなごの掌にて掬へる螢火のみどり女(をんな)の咽頭(のみど)を照らす

咲ききはむる花の哀しみ これ以上咲くことはない今年の桜

きちきちと水面に鳥の声ながれみなつき杜に夏闇ふかし

晩秋の古寺にあかき野苺を喰みつつ錯誤の坂下りゆく

生きて在る罪と悲しみわれにあり甕満つ水のほのにほふ夜

散り敷ける花びらを喰む鹿のゐて飛火野(とびひの)に春は緩らかに過ぐ

肩車の高さより見し春の空 そののちの父の無念は知らず

口中に死者の悲しみ包むごとしグラウンド-ゼロのzi‐rouなる韻き

(英保志郎 瓊花 短歌研究社)

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短歌結社「青樫」の編集・発行人である英保(あぼ)志郎氏と、先日行われた「日豪合同歌会」でお会いする機会があり、歌集を交換することになった。
青樫のことを、よく知らなかったが、塚本邦雄が関わっていた結社だと、教えていただいた。もの知らずで、失礼をしてしまったが、親切に経緯を話してくださった。
歌集の題名『瓊花』は、「けいくわ」=「けいか」と読むのだろう。紫陽花のことのようだ。
歌集は、短歌のお手本といった様相で、端正な歌が並ぶ。
歌歴四十年の満を持しての第一歌集。装丁も美しく、読み応えがあった。

今日の朝日歌壇

2013-05-20 23:01:52 | 朝日歌壇
兵隊になるのは君ら君らだと言へば私語止む午後の教室
(島田市 水辺あお)

首かしげ敗因さがすプロ棋士のコンピューターは余熱を冷ます
(伊賀市 上門善和)

歌一つつくって眠る聖五月明日という語のふいに愛しき
(垂水市 岩本秀人)

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一首目。作者は中学か高校の歴史の先生なのだろうか。歴史を昔に終わったことと思って授業を聴いていると、つまらなく私語もしてしまうが「兵隊になるのは君らだ」と言うと、生徒もはっとして聞き耳を立てる。午後の教室の眠くなる様子もよく伝わってくる。
二首目。上句だけを読むと人間のプロ棋士かと思うが、下句まで読むとコンピューター。「余熱をさます」がリアルで面白い。
三首目。作者は寝る前に、歌を作ることをノルマにしているようだ。今日も無事ノルマを果たして、余韻に浸っている。聖五月という言葉が美しく、明日に希望がわくような気がしたのだろう。「歌ひとつ」という表現はどうだろう。「歌一首」とするべきなのか、意見の分かれるところだ。

昨日は、奈良で日豪短歌朗読イベントに、今日はそのメンバーでの歌会に参加した。そこで、ある方が「もっと明るい歌を」と意見を言われた。たしかに、何か辛いことがあって、歌を作ると、訴える力が出ることも多いが、明るい歌の良さが軽く扱われているという気もした。

短歌人5月号  初夏のプロムナード

2013-05-19 01:35:46 | 短歌人同人のうた
三月になっても澱のような冬 人を亡くせば時が乱れる

感情をほぐすまもなく日常は子らがそれぞれ色塗りたくる

空色の自転車だった靴紐を結ぶわたしを追い越したのは

(猪幸絵 メタルバード)

永遠を生きるとは何まつすぐにわれを見すゑる絵のなかの人

ちちははを欠くこれの世の庭隅に牡丹の芽吹きまた春は来つ

枝さきにみかんを刺せばめじろ来てついばむときに白き腹みゆ

(杉山春代 夢)

空と山の分かれ目もなく暗みゐて不定愁訴のごとき時食む

弥生なかば白波の立つ湖(みづうみ)の水に重なる風襞をなす

並びゐる風車それぞれ回る午後原発阻止の記事を思ひぬ

(藤本喜久恵 湖の景)

そこここに時計は秒を刻みいて黴のごとくにはびこる一秒

シーベルトは人の名にして国中に広く知られる現世となりぬ

測定を初めて為せし人は誰これより人は競い止まざり

(長谷川富市 測る)

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短歌人5月号、初夏のプロムナードより。

本日、奈良市・キャンベラ市姉妹都市提携20周年記念認定事業

日豪短歌朗読コンサートが、開催されます。

「短歌とTANKA」

智内威雄ピアノ演奏+短歌朗読

5月19日(日)14:00

奈良市音声館(奈良市鳴川町32-1)

入場料2000円です。

短歌人5月号 初夏のプロムナード

2013-05-15 23:13:59 | 短歌人同人のうた
健軍の夏のあかるき電停に来てくれたりき下駄を鳴らして

瘋癲院偏頑横行居士となり二年は過ぎてけふ琅玕忌

遺影へとささげられたつ一枝に白梅幾つ咲きて匂ふも

(琅玕忌 青輝翼)

夢の中で泣くこといつあなくなりぬ今日も遠くに雲うかぶ空

クロッカスの芽吹きの光にかがまりて何も思わぬ時のすぎゆく

チェロのかたちのケースに凭れ若者は目を閉じており春の電車に

(過ぎゆく 木曽陽子)

手ごたへのないこともない現実のタッチパネルにあてる指腹

円グラフもつとも狭い面積の「その他」に今日は座つてゐたい

いづれの日うまるるあそびぎしぎしとねぢくぎくさびのたぐひ弛みて

(いづれの日 阿部久美)

人の手が均しし土をわれは好く二畝ばかりネギがならんで

毛沢東が若き一時期に就きし職司書職に我は長かりき

犬がいれば必ず人がいて犬連れてる人と犬と等分にみつ

(等分に 小野澤繁雄)

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短歌人5月号、初夏のプロムナードより

今日の朝日歌壇

2013-05-13 17:45:03 | 朝日歌壇
折りたての折り紙のよう先生はスーツに身を包み家庭訪問
(諏訪市 宮澤恵子)

「わかったわ」「わからないの」を繰り返しやがては童女に戻りゆく母
(高槻市 川上由起)

蒲焼きの煙で飯を食えとばかり団扇であおぐアベノミクスは
(青梅市 津田洋行)

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一首目。上句の「折りたての折り紙のよう」の比喩が素晴らしい。先生も生徒も生徒の家族も緊張しているのがわかる。家庭訪問があったときは、いまほど家が散らかることはなく、人を呼べる家だったな・・・と反省する。
二首目。会話が生きている歌。親が長生きをして、それに付き合うとこういう感慨を持つのだろう。
三首目。この歌も比喩がうまい。景気がよいという実感はまるでない。いつも無駄使いしないか、びくびくして生活している。しかし家計簿をつけて管理する能力はなし。

日豪短歌朗読コンサート のご案内

2013-05-11 01:06:52 | 交友録
歌友、田中教子さんが中心になって、下記のイベントが開催されます。

奈良周辺にお住まいの方、ご参加いただけますよう、ご案内いたします。

智内威雄さんは、左手のピアニストとして有名な方です。
先日も、智内さんの演奏を聴き、それに触発されて数首作りました。
当日、その歌の朗読をしていただけるようです。
智内さんの演奏を聴くだけでも、行く価値はあります。
ご都合つく方、ぜひご来場くださいますようお待ちしています。

よろしくお願いいたします。

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奈良市・キャンベラ市姉妹都市提携20周年記念認定事業

日豪短歌朗読コンサート

「短歌とTANKA」

智内威雄ピアノ演奏+短歌朗読

5月19日(日)14:00

奈良市音声館(奈良市鳴川町32-1)

http://onjokan.city.nara.nara.jp/access.html

短歌人5月号 同人のうた その3

2013-05-10 22:49:45 | 短歌人同人のうた
白粥に小倉屋えびすめ二片ほど吉井勇を読まむ今宵は
(原野久仁子)

鈴のごとく震えていたり白梅の蕊と蕊との間の空気
(守谷茂泰)

福寿草のあかるい黄は放射能浴びても褪せぬ色と知りたり
(岡田悠束)

立ち返る父の言葉をひとつひとつわれはなぞりぬ脈絡もなく
(関谷啓子)

菫色のかすかな明かり見えし日か石巻に生きると君は呟く
(梶田ひな子)

喜楽沼、斯かるバス停あるをしも知らず来し古希にならん歳まで
(宮田長洋)

雑貨屋のサンタクロースをつまみあげ見つめたり 同じところに戻す
(内山晶太)

生きたつてせいぜい八十年なれば美味いうまいと食ふ牡蠣フライ
(中地俊夫)

黄砂ふる春よゆつくりカート押す野菜売場のなかの菜のはな
(渡英子)

歌会の下見の帰りふたりしてかつ丼食べしことも偲ばる
(斎藤典子)

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短歌人5月号、同人1欄より。

短歌人5月号 同人のうた その2

2013-05-10 01:30:09 | 短歌人同人のうた
あちら側は母を送りて生きている者らの食ぶる膳にしゃぶしゃぶ
(今井千草)

金宮の梅割り一杯三百円三杯飲みて小舟を漕ぎぬ
(宇田川寛之)

白梅と紅梅より添ひ咲きゐるはやさしきかたち宵の緑道
(蒔田さくら子)

しっかりと磨いたやうな星たちが頭上にありて春の立つらし
(檜垣宏子)

生と死はわづかな違ひかもしれぬ雪は水面にふれて融けゆく
(原田千万)

許される許されないは薄紙の一重ほどにて嘘の数々
(村田馨)

遺影にする写真がないという義母の髪ととのえて撮る冬の午後
(平林文枝)

老いと言ふ面妖なものにいざなはれ顔が顔みる鏡の面
(新谷統)

もう乗らなくていい病院行きのバスが行く静かに揺らるる三人見えつ
(松崎圭子)

臨終に袋のひもを握りしめ何をあちらに持っていったの
(廣西昌也)

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短歌人5月号、同人1欄より。

近づけばたちまち点る灯のしたをひかりのかたちにふる春の雪
(近藤かすみ)