気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2011-01-31 23:17:39 | 朝日歌壇
ねんころりあめゆきふるふるつちのしたはるのゆめみるくさばなのたね
(横浜市 秋鹿素子)

外観がきれいであれば安堵して老を預ける荷物の如く
(新座市 中村偕子)

寒き日と言ふほかに無しただ独り畑の大根抜き続けをり
(尾道市 堀川弘)

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一首目。すべてひらがなにした面白い作品。内容もやわらかくやさしい。ひらがなをゆっくり追って読むうちに、こころが温かくなるような気にさせられた。
二首目。老人介護の現実なのかもしれない。私は早くに両親を亡くしているので、実際のところはよくわからない。荷物のように預けられる日も近いかと思う今日このごろ。大人になったわが子と一緒に暮らすのは、まず無理。施設に入った方が、お互いに気楽だろう。
三首目。たしかに今年の冬の寒さは格別。夏も暑かったし、地球のさまざまなことが変わってきているのかもしれない。独りの表記が、孤独感を強調している。こんな寒さの中を収穫された大根だと思うと、味もひとしお濃く感じられる。

短歌人2月号 同人のうた その1

2011-01-30 19:10:18 | 短歌人同人のうた
窓の結露をてのひらばかり拭ききよめ天に二十日の月を見たりき
(酒井佑子)

竹群の蒼きなだりにときをりは盛り上がりつつ風わたる見ゆ
(大谷雅彦)

青柳守音がまづ立ちあがる筆ぐるめ年賀状住所録とりあへず閉づ
(有沢螢)

雪の日の店内暗き魚屋に鰈の腹のしらじらとあり
(梶倶認)

蔦の葉はかがやくまでに錦せりとほい廃校の壁をおほひて
(川本浩美)

古書店に歌を探せばひっそりと活字の隅に鳴けるこおろぎ
(守谷茂泰)

晩秋のそらの把手にぶらさがる小公園に車いす止めて
(紺野裕子)

消えてゆく虹をながめてたたずめばかなしみとうもの風に流るる
(岡田経子)

墨流しの雲残りおり大風が掃き忘れたる空の一隅
(山本栄子)

幽霊になるなら図書館憑きがいい古きミステリ積まれるあたり
(森澤真理)

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短歌人2月号、同人一欄より。

短歌人2月号 二月の扉

2011-01-29 01:11:16 | 短歌人同人のうた
終電に遅れたときは始発まで待てばいい まあそんな感じで

旅びとのごとくH氏が橋渡りゆきてそのあと木枯らしが追ふ
(長谷川莞爾 H氏-木枯らしの歌)


天辺に賞味期限を示したるシールを載せてならぶ卵は

慌ただしく出会ひと別れをくり返しわが細胞も移りにけりな
(真木勉 卵)


ふくらんでふくらみきって耐えられず照葉(てるは)の森を飛び出す小鳥

水仙のすべては海を向いて咲くひと色だけを目に染みこませ

ふさいでもふさいでも空くみぞおちの穴から夏が夏が流れる
(谷村はるか まだ感謝ではない)

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短歌人2月号、二月の扉から。

長谷川莞爾さん。題のH氏はご自身のことだろう。軽さと自分を客観視する目線の歌。

真木勉さん。選んだ二首は、針小棒大に物事を言う種類の歌。はじめて全国集会に出たとき、私の歌を取り上げてくださったことを忘れない。

谷村はるかさん。口語のストレートな詠いぶりから、何かが変わりつつあるように思える。言いさしの表現が多かった。リフレインから切羽詰まった感覚が伝わる。

今日の朝日歌壇

2011-01-24 20:35:18 | 朝日歌壇
ひゆんひゆんと己が周りに透明の繭を成しをる二重跳びの子
(可児市 前川泰信)

映らねば上をたたきし日のありきテレビは家族のまん中に居た
(我孫子市 梅田啓子)

売り出しののぼりはためく冬の街百円ショップに爪切りを買う
(群馬県 眞庭義夫)

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一首目。縄跳びという言葉を使わずに巧みに縄跳びの様子を描いている。透明の繭という言葉がうまい。ひゆんひゆんというオノマトペも効いている。情景が目に浮かぶ。
二首目。内容はなつかしい昭和レトロ。歌の作りは、文語と口語の混合。上句で「たたきし」「ありき」で文語の過去の回想の助動詞「き」を使っているので、下句でもこれを使うわけには行かない。そこで「居た」の口語になった。文語と口語が違和感なく収まっている。わたしなどパソコンが立ち上がらないと抱っこして温めてやったりする。非科学的で効果は疑問だが、せずにおられるような気持ちになって・・・。
三首目。百円ショップは便利だが、世の中全体として、いかがなものかと思う。京都出町の枡形商店街など、百円ショップができて、むかしからあった雑貨屋も文房具屋も、商売が成り立つのかと思うほど活気がなくなった。売り出しののぼりが虚しく見える。
爪切りというささやかな具体が出て歌は生き生きしているが、冬の街はやはり寒々しい。

短歌人1月号 同人のうた その3

2011-01-19 17:37:57 | 短歌人同人のうた
あるときは聖母のやうな 笑み方の種類の増えてもうすぐ二歳
(本多稜)

鶴わたるピザ配達の青年のうえを遥かな夢のごとくに
(八木博信)

ものくるる友はよろしと口ずさみ宅配便に記す印影
(森澤真理)

雨やみし空は大皿かたすみにちぎれ雲置きあなた待つなり
(梶田ひな子)

天井を見上げ笑いの止まらないメタボリックな布袋様は
(岩本喜代子)

初春(はつはる)の端っこの席 酔(よ)ノ助が永久の別れの場所だったとは
(岡田悠束)

終の日の息を思いつ湿りもつばらの花びらふたひら、みひら
(佐藤慶子)

プードルにセーター着せしむ人の貌貧相である黄昏れてゐる
(ふゆのゆふ)

外国人墓地に眠れるあまたなるジョンの望郷アンの望郷
(藤原龍一郎)

わが妻のどこにもあらぬこれの世をただよふごとく自転車を漕ぐ
(小池光)

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短歌人1月号同人1欄から。
今月は青柳守音さんの挽歌が多かった。

私自身は、パソコンの調子が悪くブログの更新まで手が回らない感じ。
なんとなく気ぜわしい。

今日の朝日歌壇

2011-01-17 20:26:33 | 朝日歌壇
朱雀門はるかかなたに大極殿今日の雲きて今日を流るる
(館林市 阿部芳夫)

藍ふかき空よりはやく街並は影絵のように夜をひきよせる
(春日部市 宮代康志)

息止めて若きナースがセットする点滴聖夜の時間を刻む
(相模原市 岩元秀人)

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一首目。平城京の朱雀門、大極殿の大きな光景が目にうかぶ。空には今日の雲。一期一会という言葉を思う。今日のくりかえしも効いている。
二首目。夕暮れの街の描写が美しい。夕方が近づくと人は早めに明かりを点けるので、それが夜をひきよせるように見える。下句が魅力的。
三首目。点滴も若いナースも清らかなものに見えるクリスマス。ナースという言葉の響きも爽やかで清潔感、緊張感がある。

短歌人1月号  同人1欄 その2

2011-01-13 17:08:37 | 短歌人同人のうた
妻にまた聞いているのだ吉岡が何になるのだ娘の苗字
(吉岡生夫)

持たせ忘れし体温計を買いにゆく夜の九時過ぎ満月である
(平野久美子)

縄跳びの上達したる子が縄を持つた途端に鳩の飛び立つ
(宇田川寛之)

廃校のさくらもみじは散りながら冬眠のまま死ぬ熊もいる
(今井千草)

街灯に照らせる下に降り止まぬ雪それぞれにそれぞれの影
(梶倶認)

霜月の男の声を聞くために右耳だけの私となりゆく
(高野裕子)

次こそは物語のある歌集をと青柳守音のこゑがささやく
(有沢螢)

まな板はからんの乾くおとがするひとりの午餐の茗荷きざめば
(紺野裕子)

絵でいへば自画像ばかり描いてゐる画家のやうなり歌人といふは
(長谷川莞爾)

みつちりと高野豆腐の盛られたる大皿しづか法事の膳に
(川本浩美)

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短歌人同人一欄から。

寒い毎日。パソコンの不調が続く。
自信喪失することもいろいろあるが、ゆっくり歩くほかに方法はない。

今日の朝日歌壇

2011-01-10 22:17:47 | 朝日歌壇
野の川に白く光りて冬日ありかすかな風にも小波拾ひて
(西条市 亀井克礼)

試着室鏡の中に私より先にセーラー服着た私
(富山市 松田梨子)

きんかんのこと、きいかんと云いし父 もっと優しくすればよかった
(可児市 林寿鶴子)

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一首目。お手本のようによく出来た自然詠。もともと短歌というのは、こういう物だと改めて感じさせられる。
二首目。試着室の鏡の私に追いついていない現実の私(の気分)を、短歌の定型のなかにうまく納めている。自分を客観視できることは、歌を作る大事な条件だと思う。
三首目。下句のストレートな物言いに泣かされる。上句はそれを支えて、父親のクセを言って、人物像を立ち上がらせている。


幻月  長谷川と茂古  

2011-01-08 01:14:55 | つれづれ
たくさんの問ひや答へが繁りをり公園にきて煙草を吸へば

「恵まれた環境ですよ」移り来し科学のまちは自死おほき街

いつせいにさやぎし枝の黙したり 今ゆるやかに天使が通る

二次会をパスして電車にぼんやりとがたごとぐでんゆゆらられれれ

愛知らぬASIMOは走るぬばたまの黒き面(おもて)に人を映して

はるのみづ吸ひ上げ頭蓋重たきをごろり転がす春昼である

何方(いづかた)の人のたましひ運ぶらむ くれなゐの蜻蛉(あきつ)目の前を過ぐ

日和見の世渡り上手みぎひだり冷蔵庫さへいづれにも開(あ)く

消費社会楽しむために<お金では買へないものがある>とふ神話

髪型も服も雑誌と同じもの<自分>を探すあなたが見えない

(長谷川と茂古  幻月  ながらみ書房)

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中部短歌会所属の長谷川と茂古さんの第一歌集を読む。
長谷川さんは、つくば市在住。短歌人の全国集会がつくば市であったとき、参加してくださった記憶がある。お名前の「「と茂古」は、おそらく「ともこ」と読むのだろう。
不思議な名前で一度見たら忘れられない。一瞬、長谷川と茂吉と誤読してしまう。

私より数年?若い主婦のようだが、歌そのものに家族が登場することはない。独りの歌人としての歌がならび、さっぱりしていて心地よい。
一首目は巻頭の歌。煙草を吸う女性の歌は珍しい気がする。いつも頭の中に問いがあり、答えを探しているのだろう。結婚していても精神的に独立した女性を感じる。
四首目の下句は、電車のゆれそのものを歌の言葉にして面白い。たしかに電車はそう揺れそうだ。冷蔵庫の左右開閉を日和見と見立てたのも慧眼だと思った。

夏桜  中野昭子

2011-01-05 02:16:59 | つれづれ
夏木立の暗き森へはまだやれぬこの子笑ふとまへ歯がなくて

そこここが薄れきたりて夕映えはこれはこれはといふ間に薄暮

熟柿(うれがき)はわれを抱きし伯母のやうぽたぽたとして皮破れさう

大阪のおばちやんになり果(おほ)せずて重信房子捕まりたりき

放尿のしづくの露が先つぽに輝くわらべに初夏きたる

空洞のなかはくすくすわらひしてつるつる石のほとけが御座(おは)す

抽斗の団栗にまた秋のきて中身が縮むにつぽんのやうに

部屋の隅日本の片隅にもたれをり義足はしづかに父を離れて

ちよび髭をなでつつ父の見上げゐきアトムが広ぐる日本のそら

木の葉つぱふんはり頭にとまりたる狸のわれがたつ庭の隅

みづからを家のふかくに進めゆく音せりよるの老い母の杖

四つ辻の夜の灯(あかり)のさみしけれわれより引き出す影ふたつみつ

(中野昭子 夏桜 ながらみ書房)

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中野昭子の第四歌集『夏桜』を読む。
中野さんは鱧と水仙の先輩。短歌を始められたのはおそかったらしい。
家族詠が多いが、ありきたりでなく独特のユーモアがある。
例えば、三首目の伯母を熟柿にたとえた歌など、実感がこもる。
一首目、五首目は、孫歌だろう。夏木立という言葉が詩的で、歯がないというユーモラスな事実に深みを持たせている。放尿のうたも愛情を持って孫の世話をしてこそ生まれた歌だと思う。
八首目、九首目は戦争で障がいを得てしまった父の歌。十一首目の母の杖の歌でも、杖という媒体を介して詠っているので、表現が単純ではない。
十首目では、自らを狸と称している。
また「ぽたぽた」「くすくす」「つるつる」などのオノマトペも面白い。
巧まざるユーモアが全体に満ちている。