気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

新しい生活様式 服部崇 ながらみ書房

2022-06-29 22:02:18 | つれづれ
窓の外を首から下の人たちが急ぎ足にて歩いてゆけり

めらめらを見たくてひとり紙を焼く冬の渇ける家にこもりて

坂道を登りきりたる先にある坂道を思ふ雨に打たれて

わたくしのことばを聞きて一斉に支持が遠のく ドロップ舐める

美容師はブローをしつつ曲がつたら知らない街に出てゐたと言ふ

いにしへのころより路は斑猫にしたがへばよし晴れてゐる日は

鍵を持つわたしがいつかやつてきて扉を開けてくれるだらうか

夕方の店の前にて立ち尽くすあんとみつとにのれんは割れて

日の当たる場所に置かれてぶら下がり健康器にぶら下がるシャツたち

目を閉ぢて開けばそこにあらはれてくれたりするといいのに小人

(服部崇 新しい生活様式 ながらみ書房)

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心の花所属の服部崇の第二歌集。服部さんとは神楽岡歌会と続きの飲み会でときどきご一緒していた。大学の先生とは聞いていたが、歌集の栞でお仕事のことを改めて知る(ここには書かないけれど)。読んでいると厳しい場面に驚かされる作品もあるものの、どこか気が抜けたような、あなたまかせにしたいような歌があり、わたしはそこに惹かれる。心の花の百首詠の歌を読むと、短歌が気分転換ではなく、その都度真剣に向きあってられるのもよくわかった。

縦になる 有沢螢 短歌研究社

2022-06-14 18:16:57 | つれづれ
わが額(ぬか)に置かれし友の緑の手ひと滴づついのちを注ぐ

ミルク飲み人形のごとき一本の管なりわれは白湯(はくたう)を飲む

冷房のなき病室に見舞ひくれし小池光の白シャツの袖

「短歌人」の八十周年近きと聞きあと二十年は生きむと思ふ

三人の子らを忘れし母が歌ふ「主われを愛す」オルガンにのせ

ありつたけの生きる力で身構へて母の葬儀へ向かふ車椅子

コロナとは孤独の病と見つけたり誰にも会へず死して焼かるる

死ぬるまでわれは歌はむ 看護師の密かにくれし水羊羹を

一年と九箇月ぶりの車椅子庭にコスモス空に夏雲

もう二度と乗れぬと思ひし車椅子身体が縦になるを驚く

(有沢螢 縦になる 短歌研究社)
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短歌人の先輩である有沢螢の新しい歌集。コロナ禍になってから、螢さんに実際に会うことができなくなっていたが、心のどこかで螢さんのことを思っていた。ならば電話をかけるとか、手紙を書くとかすればいいのに、いつも戸惑っていた。そして歌集が送られてきて、また螢さんの底力を思い知ることになった。わたしも短歌人の仲間として、歌に助けられている。ありがとう。