気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2010-11-29 20:12:01 | 朝日歌壇
いつか死ぬでも今じゃない。信号が青にかわってみな歩きだす
(東京都 無京水彦)

兵隊さんの服にするため兎飼い兎殺めき十さいの手にて
(城陽市 山仲勉)

トスの上がる画面の右にレシーブを受けし選手が転がりて消ゆ
(美唄市 寺澤和彦)

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一首目。真実を言い当てている歌で、ドキリとさせられる。日常の生活のなかにこそ死は潜んでいる。「。」が場面を転換させて巧み。
二首目。戦時中のことなのだろう。子どもに言うときの「兵隊さん」という言葉がリアルだ。兎が二度出てくるが表記を同じにしたことで、同じ兎を飼って殺めたことが表わされている。「十さいの手」がいたましい。兎というおとなしい生き物であることが悲しい。結句八音で字余りだが、「にて」まで丁寧に言って効果をあげていると思う。
三首目。テレビの実況中継のような歌だ。歌を作るときは、画面の隅まで見て作れ、隅にこそ詠むべきものがある・・・と言われるが、まさにそれを実践した歌。

京都は観光シーズンで、人がいっぱい。道幅が狭く、車が渋滞するので出かける気がしません。画像は、岩倉実相院の「床紅葉」。一度だけ歩いて見に行きました。

短歌人12月号  十二月の扉

2010-11-28 01:26:00 | 短歌人同人のうた
予報士は「やさしい雨が降る」と言ふ今のわたしに土砂降りをこそ

三日月のかぼそくありて一瞬と永遠の間(あひ)ふたりで漕ぎぬ

(真狩浪子 おんなじことば)

少年と女衒を隔て河の辺に天にきらめく千の夜の星

一つ鎖に囚徒ふたりを繋ぐ刑 わが思うとき夕日みている

(久保寛容 余談)

通年を青くしげれる葉のかげに御霊は在す ガイド嬢いう

カーテンを開ければ素肌の富士が立つ窓いっぱいを塞ぐがに立つ

(立花みずき 谷風に揺る)

金木犀ふいに匂へば友はいふ六十年は呆気ないもの

門口に椿の黒き実は降れりひとつぶごとに空はふかまる

(大橋弘志 旧友(とも)来たりし後(のち)秋深まりぬ)

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短歌人12月号、十二月の扉から。

真狩さん、若々しい感性のある歌。「一瞬と永遠の間(あひ)ふたりで漕ぎぬ」という下句に惹かれた。
久保さん、高瀬賞受賞作「チェイン・ギャング」を彷彿とさせる作品。
立花さん、青木ヶ原樹海へのバス旅行に取材した歌。窓いっぱいを塞ぐような富士を、私も見てみたいと思った。
大橋さん、旧友との出会い、そして追憶。



霜月祭  筒井早苗歌集

2010-11-25 15:33:52 | つれづれ
ほろほろと縁どりほぐれ白雲は漂ふ日暮のびたる空に

昂りしことも鎮まり独りなる思ひ濃くなる  死ぬときはひとり

信号の青が続きて佳きことの待つや大和はしたたるみどり

雲ひとつなけれど被膜せる青さ若かりし日の空とは違ふ

てのひらを零れたるもの得たるものこの世限りのことと思へば

満ち欠けは世の常としてやじろべゑいづれどこかで辻褄の合ふ

遅速ある時間の流れ感じつつ待ちをり待たれゐるより安く

頼られずさりとて労りくるるなく如何なる位置に母として在る

胸に火を点しくれたる言葉ありわづかながらも未来が展く

新年号の原稿束ねて送り出すピーヒャラドンと霜月祭

(筒井早苗  霜月祭  短歌新聞社)

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結社「新月」の編集発行人である筒井早苗さんの第五歌集を読む。
去年、日本歌人クラブの関西の会で、私の歌を選んでくださったことからご縁が出来た。
「新月」は、昨年創刊六十五周年を迎えた伝統のある結社。
歌集の内容から、筒井さんは独り暮らしでがんばっておられることがわかる。
孤独と上手く付き合うというのは、こういうことだと教えられるような気がする。
いつまでもお元気で、ご健詠をお祈りします。


今日の朝日歌壇

2010-11-22 18:17:45 | 朝日歌壇
納豆をかきまぜながら見ておりぬ救出される人人人人
(香川県 藪内眞由美)

ほんのりと昼を灯せる本屋なり立ち読みひとりくすりと笑ふ
(長野県 沓掛喜久男)

じいちゃんも金魚も寂しいやろなあと二ひく一を子が思う秋
(和泉市 星田美紀)

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一首目。チリの落盤事故のあとの救出を詠った作品。このブログでは横書きになってしまうが、縦書きにしたら、人人人人の表記が、まるで納豆がつながってひきあげられる様子に見える。作者の工夫が読みとれる。
二首目。二句目の「昼を灯せる」から、いわゆる「地べた書店」の様子がよくわかる。最近はネットで本を買うようになって、現実の書店に行くことが減ってしまった。元書店員のわたしとしては残念だが、これも時代の流れか。わたしが働いていた書店の仲間はいまごろどうしているだろう。若く優秀な人が入って来て、疲れ果てて辞めていくのを何人も見て来た。書店は過酷な肉体労働だ。作者の沓掛さんの書店はどんな店だろう。
さて、画像は京都の名物地べた書店「三月書房」。ときどきこの店の空気を吸いに行く。今日はこの本だけ買うぞ!(むだ遣いは出来ない)とお金を握って店に入るのだ。
三首目。「二ひく一」からおじいちゃんのお連れ合いが亡くなられたことが想像できる。金魚鉢の金魚も最後の一匹になってしまった。「二ひく一」から物語を読みとれるようにした構成が巧みだ。

短歌人11月号  同人1欄 その3

2010-11-21 01:27:53 | 短歌人同人のうた
帰らざる死者もあらむか送り火を消してしまえば生も死もなく
(八木博信)

ゆく雲は新秋の舟月の夜を影やはらかに誰を運べる
(春畑茜)

簡単に簡単にを言うかたわらを擦り抜けてゆく大切なもの
(古本史子)

八月の画廊に魚影のごとく浮くラウル・デュフィの花をみて過ぐ
(木曽陽子)

「つ」の文字はなにか懸命チャップリンの途方にくれた腕(かいな)とおもふ
(紺野裕子)

長い長い夏の終わりに聞いているブリキの如露を打つ雨の音
(守谷茂泰)

逝きたるを措きて生者の賄ひに奔走しつつ死が遠ざかる
(武下奈々子)

草の香の匂へるなかを黄の翅をうちふるはせて飛蝗とびゆく
(神代勝敏)

父亡くて母なく里に育つ子の秋の草笛われまで届く
(平野久美子)

東京でもつとも暑き練馬区のへつりに添へる豊島区に住む
(蒔田さくら子)

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短歌人11月号 同人1欄より。
今年の夏は猛烈に暑かったので、全体に夏の暑さを詠った作品が多かった。
だれもが感じることを詠うには、独自の眼がないと他の人と似たもにになるので、より一層工夫が要ると感じた。

短歌人11月号  同人1欄  その2

2010-11-18 22:49:04 | 短歌人同人のうた
なにもかもかなはなかつた八月の嘘ばつかりの青空を蹴る
(橘夏生)

秋のけはひ言ひつつそよぐ風草を指さすひとは在りし日の姉
(高田流子)

花嫁の父と呼ばれてタキシード試着してをり略式の父
(大森益雄)

五年後にまた会ひませう古稀祝ふ金券持ちて市役所が来る
(中地俊夫)

茫然と暮れ行く庭をみてゐたり秋明菊ははなひとつ付く
(小池光)

目薬をさして校正続けたり本業、副業、その他のありぬ
(宇田川寛之)

草の陰に猫は入りゆき目を閉ぢぬ八月真昼の人なき時間
(斎藤典子)

決勝戦勝利の選手ら駆け寄れる足元にたつ風も見えたり
(山下柚里子)

いい籤をひいたねといふ夜の道につなぎてゐたる手を解きつつ
(松村洋子)

藍色のあさがおの花ちぢれつつやり直すには遅すぎますか
(佐藤慶子)

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短歌人11月号、同人1欄より

短歌人11月号  同人1欄 その1

2010-11-18 00:37:57 | 短歌人同人のうた
みすずかる秋の信濃は空をゆく雲のふちまでまさびしくあり
(大谷雅彦)

老人を呼びあつめ来る笛吹きが新宿駅のくらがりにゐる
(渡英子)

子を叱りきみを叱りてまだ足りず鰯の頭とん、と落せり
(鶴田伊津)

坂道を上りゆく人下る人重なる一処に暑さきはまる
(渡部崇子)

ゆつくりと母の吐きだす枇杷のたね六道の辻へ転がりゆけり
(杉山春代)

ゆうぐれは神の褒美のごと来たりこけしの眉を撫でいる母に
(川田由布子)

こども靴まばらにそろへ玄関のともしびくらしそろばんの塾
(川本浩美)

濡れ光る散水ホースの内側に巻き取られゆく日常ありき
(水谷澄子)

いつまでも咳こむ夏の陽にむせるしずまるまでの雲の明るさ
(青柳守音)

服部の団地の窓を通過する銀河鉄道月に一、二度
(川島眸)

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短歌人11月号、同人1欄から。

短歌人11月号  十一月の扉

2010-11-15 23:08:17 | 短歌人同人のうた
われに向き椅子のあるなり慕はしき気配をたたへ夜をむきあふ

子を持たぬわれも乗るらむ風の日のサリンジャー忌の回転木馬

(澤志帆 さよならサリンジャー)

寝転びてタバコの煙を見てゐたりこの世のほかに去りゆくものを

手前からぺらんぺらんと夕闇をヘッドライトが剥がしゆくなり

(倉益敬 サマータイム)

収穫はキュウリが五個と茄子が五個その単純を今朝は喜ぶ

老病死左様なことを考える齢(よわい)となるをカラスが笑う

(谷口龍人 いのち)

孤育てと言へばさうかも知れぬ老い日傘くるくる廻しつつゆく

数十台自転車並ぶ売場にて十秒ほどが妙にさみしい

(明石雅子 十秒ほどがさみしい)

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短歌人11月号、十一月の扉から。


今日の朝日歌壇

2010-11-14 16:17:10 | 朝日歌壇
廃校の鉄棒に来て小猿めが夕日を蹴りてくるりとまわる
(宮城県 須郷柏)

柿の葉のたより桜の葉のたより 風のたよりもなき日のたより
(城陽市 山仲勉)

吟行の列忽(たちま)ちに乱れけり通草(あけび)の熟るる径に入りて
(神戸市 内藤三男)

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一首目。出来すぎたお話のような気もするが、だまされるのも楽しい。「小猿め」の「め」に作者の愛情が感じられる。ちょっと材料が多いかも。
二首目。だれからのたよりもなくても、柿の葉や桜の葉が自然のたよりを伝えてくれる。今の時期、ほんとうに桜もみじが美しく、見ていて飽きない。「たより」のリフレインが面白い歌。
三首目。吟行は主に俳句の人がして、短歌ではそれほどしない。大体、俳人はお金持ちで賑やかで明るい人が多く、歌人は真面目で孤独を好む感じがする。吟行には、何度か参加したが、その場では集中できずにろくな歌は出来ない。出来ないと心配なので、前もって、いくつか作っていく。やっぱり真面目なのだろうか・・・?

訃報  青柳守音さん

2010-11-11 00:48:43 | 短歌人同人のうた
蓮らしき種子を拾った階段のペンキを塗ったようなま緑

水盤に拾った蓮の種子を置く夜から雨の降る音を聞く

雨の降るまぎわの熟れた風にふれ芽をふかないか水盤の蓮

テノヒラに滴る水が消してゆく死者のことばも遠街の雨も…

「十二階…」告げればそこは部屋のまえオカエリと言う傘が一本

(青柳守音 種子を拾う… 短歌人10月号)

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短歌人会同人の青柳守音さんが、11月4日に乳がんの再発のため、58歳で亡くなられた。名古屋で開催された夏季集会のとき、責任者のひとりとして活躍された守音さんにお会いしたのが最後となってしまった。

10月号には、秋のプロムナードに15首掲載されている。守音さんの拾った蓮の種子はどうなっただろうか。

思えば、私が甲府での全国集会に初めて参加した帰りの新幹線で、いろいろ教えていただいたのが、守音さんとのお付き合いのはじめだった。
その後、『永井陽子全歌集』を出版するにあたって、大変な尽力をされたことは、皆の知っていること。
昨年、短歌人評論・エッセイ賞に応募しようと、永井陽子のことを調べたとき、行き詰って守音さんに電話して、いろいろ教えていただき、貴重な資料を貸していただいた。
校正チームの一員としても、がんばってくださった。
余りにも早いお別れに、まだ信じられない思いがする。
親切で信頼できる方だった。

心よりご冥福をお祈りいたします。